第9話 包囲網を粉砕せよ 〜VSダグラス〜
《魔王再臨》を発動し、再び【思考加速】へと入った。
【魔力感知】で周囲の状況把握に努める。
襲いかかる教師たち、その数二十一人。
ダグラスめ、過少申告したな。
しかしそのどれもが天霧と同等以上というのは本当だった。
低い者でもレベル40、高い者では50以上だった。
まだ客席の中にも教師と思しき実力者が残っている。
保険をかけて残しているのかと思ったが、どうにも敵意が感じられない。
こいつらは放っておこう。
明確な敵対者二十一人を無力化し、併せてダグラスも攻撃する。
ただしダグラスは気絶させず、戦闘はできない程度に留める。
そうでないと戦闘終了の判断が下されない可能性があるからだ。
目的を定め、敵との距離を測る。
少し近いな。
俺は問題ないがセシルを巻き込む可能性がある。
ただ、寄ってくれたおかげで天霧からは距離が取れた。
あとは上手く調整するだけだ。
【思考加速】を終え、現実の思考へと戻る。
まずは少し距離を取る。
ただし、天霧に近づけすぎない程度に。
「観念しろ!」「ここまでだ!」
二十一の刃が俺に迫る。
「《ダーク・フォース》!」
俺を中心に球形の衝撃波を放つ。
「ぐっ、何だこれは!?」「くそっ、吹き飛ばされる!」
迫る教師たちを宙へと吹き飛ばした。
今、ここだ。
俺とセシルから距離が取れた。
天霧にも近づきすぎていない。
最大の好機、これで決める!
「《サザン・ブラスト》!」
教師一人ひとりに黒い魔力が集結。
その全てが十字の煌めきを放ち、炸裂した。
「がはっ!?」「ごふっ!?」
先に放った《シャドー・ブラスト》、それを数多放つ攻撃魔法。
俺が魔王だった頃、対多戦闘で好んで使用した魔法だ。
教師たちはひとり残らず爆風に吹き飛ばされ、コロセウムの壁や床にめいめいクレーターを作って転がった。
ダグラスはといえば爆風を多少はガードしたようだ。
しかし完全には防ぎきれず、俺の目論見通り結構な傷を追っていた。
「な、何だ今の爆発は!?」「あの兄ちゃんがやったのか……!?」「あれが本当にレベル2か!?」客席がざわつく。
これで俺に敵対する者はいなくなった。
結局またレベルは1に戻ってしまったが、少なくともこの場は決着したと言えるだろう。
「ぐ……今の魔法は……!?」
「何の変哲もない普通の魔法だ。
解説の必要があるとは思わないが」
「いくらスキルや技量が優れていようとも、あれ程の威力の魔法を何の仕掛けもなく行使するのは不可能だ。
天霧くんのときは刀の力かと思ったが、どうやら君はまだ何か隠し持っているようだな……」
「くだらん前置きはいい。
投降しろ、ダグラス」
周囲には二十一人の戦闘不能者。
自身も戦闘継続ができない。
この状況でまだ戦うつもりなら、本当に救いがたい愚か者ということになるだろう。
そうあってほしくはない。
「……参ったよ、降参だ。
レイブン少年、セシル少年。
君たちを拘束して連行するのは諦めよう。
構いませんな、エリス殿?」
「まさかダグラスを退けるとはな……仕方がない。
拘束はしない、説明もしよう。
だが場所は変えさせてもらう。
あまり大勢に聞かれたい話ではないのでな」
「それくらいならいいよね、レイブン?」
「……まあ、しょうがねぇな」
はっきり言って微塵も信用できないが、これだけわかりやすく叩きのめしたんだ。
ちゃんとしてくれることを祈るしかない。
「あー、ひょっとしてもう終わっちゃった感じ?」
コロセウムの外から一人の女が現れた。
長い赤髪がボサボサで、服はどう見ても部屋着にしか見えない。
「遅いぞメリル!」
「いやぁ、これでも急いで来たんだよ?起床3分で到着するとかメリルちゃんマジ勤勉」
「この……!
まあいい、お前はけが人を治療しろ。
多分全員生きているはずだ。
そうだな、レイブン?」
「保証する。
ちゃんと手加減はした。
そうだろ、ダグラス?」
「全く、生意気な少年だ」
メリルは面倒くさそうに回復魔法をかけ始めた。
どうもやる気が全く感じられないのだが、練られる魔力は精緻そのもので、非常に的確に傷を癒やしていった。
「ユリウス!
どうせそのあたりにいるんだろう!
お前はけが人が起きたら会場の後処理をしておくんだ!」
「やれやれ、見つかっちゃいましたね。
わかりました、僕があとの面倒は見ておきますよ」
客席の中に残っていた実力者だ。
やはり教師だったようだが、それはそれでどうして包囲網に加わらなかったのか疑問だ。
エリスが「どうせ」と言っているあたり、もしかしていつもこうなのだろうか。
「セシル、レイブン。
話は学園長室でしよう、いいな?」
「待て、エリス。
天霧も当然聞いていいんだよな?」
「……そうだな。
事が済んだら話す、そういう約束だからな」
「すみませんがエリス殿、俺にも聞かせれもらえますな?
腑に落ちないことはたくさんあった。
任務に失敗したとはいえ、この状況を見せられてただ帰るわけにも行きませんのでな」
「……好きにしてくれ。
学園長室に転移する」
俺、セシル、天霧、ダグラスの四人がエリスを中心に集まった。
「《帰還転移》」
俺たち五人は、学園長室へと転移し、コロセウムを後にした。
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