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第7話 魔王の救命講座

「うおぉ、すげぇぞ兄ちゃん!」「かっこよかったよー!」「玲花ちゃんもよくやったぞー!」俺と天霧を労う声が鳴り止まない。



「やったね、レイブン!」


「おう、やったぜ」



セシルが客席から飛び込んできた。



「やっぱり期待には応えねぇとな」


「ふふ。ありがとう、レイブン。


これで一緒に学園に通えるね」


「そうだな。


これでめでたく……勇者科か……」



元魔王が勇者科に通うという冗談みたいな話が本当になってしまった。


先が思いやられる。



「よくやった、レイブン。


私の期待に応えてくれたな」



エリスがフィールドに降りてきた。



「こっちの都合だ。


あんたにお礼を言われるようなことはしてないぜ」


「それでもだ。


改めて、黎明学園の学園長として、君の入学を歓迎するよ」


「……誰が学園長だって?」


「?ああ、そういえばちゃんと自己紹介していなかったかな?


黎明学園の学園長エリスだ。


これからもよろしく頼むよ」



学園長だと!?聞いてないぞ!


いや、聞いたからどうなるわけでもないんだが……。


やけに偉そうなやつらの中でも格別に偉そうな感じはしていたが、もうちょっと、いろいろと、何とかならなかったのか。



「はぁ……まさか本当にレベル2に負けるとは思わなかったわ」



天霧が肩を落として歩いてくる。



「正直甘く見てた。


あなた、強かったわ」


「そりゃどうも、お前も強かったぜ」


「レベルばかりが強さじゃないってこと、思い知らされたわ。


でも次は負けないから、覚悟しててよね」



そう言って天霧から差し出された手を握り返す。


勝負の後の握手か。


魔族同士の勝負は命のやり取りばっかりだったから、なんだか新鮮だ。


けど、こういうのもいいもんだな。



「おう、でも次も勝つぜ」


「ふふ、悔しいのにすごくスッキリしてる。


あーあ、なんだか涙が出ちゃう」



天霧の目から一筋の涙が流れ、それをそっと拭った。


しかしその涙は、



「……え?」



血の涙だった。



「嘘、なんで……?」


「おい、しっかりしろ天霧!」



天霧は膝から崩れ落ち、そのまま気を失った。



「何だ、どうしたんだ玲花ちゃん」「さっきの攻撃でもしかして怪我でもしたのか?」「いや、でも天霧玲花に限ってそんな」客席も天霧の様子に戸惑っている。



俺は握った手から【魔力感知】を使って天霧の容態を探る。


呼吸も脈も浅い。


これは……かなりまずいな。



「医者を探してくれ。


それからメリルを呼べ」



エリスが審判に指示を出す。



「レイブン。


天霧のその症状は【限界突破】の反動によるものだ。


ここまでの反動は今までなかったが……。


とりあえず医者と回復術師を手配した。


ひとまず様子を見て……」


「様子を見る?


ふざけんな、そんな状況じゃねぇ!


今この瞬間にも天霧の魔力が落ち込み続けてる。


このままだと、あと五分もすれば死ぬぞ!」


「だが、どの道我々では手が出せない!


待つしかないんだ!」


「俺がやる。セシル、手伝ってくれ」


「わかった」


「どうする気だ!


レベル1の君に一体何ができる!」


「レベルが全てじゃない。


それを示したはずだ。


邪魔をするなら下がってろ」


「……っ!」



まずは天霧の詳細な容態が知りたい。


とは言えこの状況だ。


あまり衆目に晒すものでもない。



「セシル、目隠しだ」


「わかった、《ディープ・ミスト》!」



俺たちを中心とする半球の空間がセシルの作り出した霧で包まれた。



「な、何だ!?」「霧!?」「もしかして魔法か!?」客席がざわついている。



これで天霧の様子は外からは見えない。



「すまん、天霧。あとで謝る」



気を失って聞こえていない天霧に一応断りを入れ、服の前を斬ってはだけさせた。


露わになった天霧の腹に直接手を触れる。


手に触れても体の中心からの距離が遠すぎる。


服の上からでは【魔力感知】の精度が落ちる。


直接、それも体のほぼ中心である腹に触れていれば、魔力の流れが文字通り手に取るようにわかる。



俺は天霧の体内を巡る魔力の流れに集中した。


さっき手に触れて感じた違和感、その根源を探る。


すると、その原因はすぐに判明した。



「こいつ、内臓と全身の血管がボロボロだ!


【限界突破】の反動と言ったが、このダメージは一度や二度でつくもんじゃない!


何度も何度も、自分の命を軽んじてなけりゃこんなことにはならねぇ!」



恐らく天霧は今日に限らず、様々な場面で【限界突破】を使ってきていただろう。


それ故の高レベル。


それ故の学園序列第七位だったんだ。


これまではなんとか体が耐えられたのかもしれない。


一週間寝込む程度で済んでいた。


しかし今日ついに命の限界を超えてしまったのだ。


こうなればもう、自己治癒だけで何とかなる領域ではない。


何もしなければ、ただ死を待つだけだ。



「セシル、ヒールを俺に!」


「了解、《ヒール》!」


「何をするつもりだ!?


【限界突破】のダメージに回復魔法は効かないぞ!」



俺は片手を上げ、【魔力操作】を使いその手でセシルの《ヒール》を受け止める。



自身の魔力で自壊した組織に回復魔法は効かない。


魔力により自身の体が傷つくことで、魔法に対する拒絶反応が働いてしまうためだ。


しかし、自壊した組織自体は拒絶反応を示すことはない。


自壊してしまっているが故に拒絶することさえできないからだ。


この性質を利用し、天霧を救う。



「俺の【魔力操作】で《ヒール》を解体し、損傷した組織だけをピンポイントで修復する!


これなら回復魔法に対する拒絶反応は起こらない!」


「それは、理論的にはそうかもしれないが……できるのか、そんなことが!?」


「できるよ、レイブンなら」


「ああ、やってやる!」



俺は再び天霧の体内に意識を集中する。


損傷した組織を【魔力感知】で完全に把握、そこに【魔力操作】でピンポイントに《ヒール》をかける。


少しでも外せば回復魔法は効果を発揮しない。



【魔力感知】も【魔力操作】もスキルには違いない。


セシルに《ヒール》を使わせているから俺の魔力消費は最小限にはなっている。


それでも、魔力を消費するスキルには違いない。


レベルが1に戻って魔力総量が減った今では、少しも無駄遣いはできない。



全神経を集中して慎重に《ヒール》をかけていく。


対象が極小化されたため、ごく小規模な《ヒール》でも即座に効果が現れる。


まずは心臓とその周辺の血管。


続いてその周辺の臓器と血管へとヒールの範囲を広げていく。



大丈夫、これならいける。


全身を完全に治すのは無理だろうが、重要な臓器とその付近の血管までなら治し切れる。


幸いなことに、脳とその近辺の血管の損傷はほとんどなかった。


目から血を流していたので心配だったが、これならすぐに目を覚ますだろう。



ひとしきり臓器と周辺の血管への《ヒール》をかけ終えた。


手足の方は残りの魔力では治癒しきれないが、命に別状はない。


しばらく違和感は残るだろうが、我慢してもらおう。



「ふぅ……これでとりあえずは問題ないだろう」


「お疲れさま、レイブン」


「ああ。助かったぜ、セシル」


「なんの、お安い御用だよ」


「はぁ……すげぇ疲れた……」



天霧はまだ目を覚ましていないが、呼吸も脈もしっかりしている。


危機は脱したとみていいだろう。



「まさか、本当に治したのか……?」


「言ったろ、やってやるってな」


「だが……いや、やめておこう。


レベルでは測れないのだったな」


「ん……あれ」


「おう、起きたかよ天霧」


「私、一体どうして……。


……っ!」



俺が視線を外すとその意味に気づき、服の前を合わせて肌を隠した。



「な、何で服が……」


「悪い、俺が斬った。とりあえずこれでも着てろ」



上着を脱いで天霧に渡した。



「いやその……あれ?体が……痛くない?」


「【限界突破】の反動なら、俺とセシルでさっき治したぞ」


「なおし……治した!?


先生たちにも治せないって言われてたのに!?」


「『治せないって言われてた』だと……?」



やっぱりこいつ、【限界突破】が自分の体を蝕んでいることを知った上でスキルを使い続けていやがったな。



「おい天霧、お前に言っておくことがある」


「な、何よ……。


あ、じゃない。治してくれたのは、本当にありが



天霧の頬を全力でひっぱたいた。



「このバカ野郎!


お前、自分の体がどういう状況かわかったうえで【限界突破】使ってやがったな!


あと一歩で死ぬところだったんだぞ!」


「で、でも、そうしないと私じゃ勝てないから……」


「やかましい!口答えすんな!


自分の命も守れないような奴が強くなれるかバカ!


いいか、これに懲りたら【限界突破】なんか二度と使うんじゃねぇぞ!


わかったか!」


「で、でも……」


「返事!」


「は、はい!」



これだけ言えば天霧も少しは考え方を変えてくれるだろうか。


長い目で見れば、命がけの戦いに意味なんてほとんどないんだ。



「はぁ……まったく。


俺と会ったからには、そうそう簡単に死ねると思うなよ」


「ええ、ごめんなさい……。


それと、助けてくれてありがとう」


「はいよ、どういたしまして」


「じゃあレイブン、そろそろ目隠しはいい?」


「ああ、そうだな。


天霧、上着着とけ」


「ええ、借りるわね」



セシルの出した目隠しの霧が晴れる。


これで一件落着ってわけだ。


疲れたぜ……。


座り込むと、視界の端にヒビだらけの刀が映った。



「ああ、そうだ刀……」


「僕とってくるよ。


レイブンレベル下がったから、多分持てないんじゃない?」


「げ、そうか。


そういえばそうだな……。


悪いけど頼む」



せっかくくれた刀を台無しにしちまったからな。


そのうち会うこともあるだろうし、クレナには謝っておかないとな。



セシルが刀を地面から抜いた、その時だった。



「……え?」



刀のヒビの部分から光が漏れ出し、あたりを明るく照らし出した。


そのままヒビは刀身全体を覆い、光が最大に達したとき、刀身が弾け飛んだ。


弾け飛んだあとに黒刀の姿は欠片もなく、そこに残ったのは妖しげな雰囲気を纏った純白の刀だった。



「あの刀は……!?」



エリスの表情が一変する。


何やら恐ろしいものでも見ているような険しい表情だ。


その横に一人の男が音もなく出現した。



「報告します!『白鬼夜行』の出現を確認しました!」


「白鬼夜行だと!?やはりあれがそうか!


ならば……!」



スキルによる音声の増大により、俺たちにとっては聞きたくない指示が会場に飛んだ。



「この会場にいる全教員に告ぐ。


今この場で、セシルとレイブンを拘束せよ!」

白鬼夜行びゃっきやこうです。

よろしくお願いします。

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