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第5話 入学試験最終戦 〜VS天霧玲花〜

「待ってたよ、レイブン。


準備は……良さそうだね」



奥に進んで控室に入ると、エリスが待っていた。



「いつでも行けるぞ」


「いいね。


君の実力、今度こそ見せつけてくれ。


セシル、君は私と一緒に客席で見ようか」


「はい。でもその前に」



セシルが近づき、耳打ちした。



「レイブン。僕からの命令だ、勝って」


「おう、任せろ」



俺には、セシルからの命令に対する拒否権はない。


しかし、セシルは俺に対して命令することはほとんどなく、基本的に俺の自由意思を尊重している。


それでも命令をするのは、俺にそれが可能で、俺がそれを望んでいるとき。


決意の後押し。


命令自体に意味はなく、何ら効果はない。


それでも俺は、命令されれば、それに応えたいと思う。


そこに、俺がセシルの使い魔である以上の意味が、きっとあると思っている。



セシルと別れ、スタジアムの内部へと進む。


通路の先、光の中へと入っていく。



通路を抜けると円形の広大なフィールドとそれを囲む客席、そして客席を埋め尽くす数多の観衆がいた。



「何でこんなに観客がいるんだよ……見世もんじゃねえぞ」



フィールドの中央に二つの人影があった。


片方は審判、もう一人が今回の対戦相手だろう。


後ろ一つで結んだ流れるような長髪に、一見すると頼りなさ気な細身の体。


しかしその全身からは驚異的なまでの圧力が放たれている。



「レイブンだ、よろしく頼む」


「黎明学園中等部三年、天霧玲花よ。序列は第七位。よろしくね」


「第七位……ってのは、中等部で七位か?」


「全体で七位よ」



全体って高等部までのことだよな。


それで七位ってめちゃくちゃ強いじゃねぇか。


こんなの入試レベルでやる勝負じゃないだろ。


俺じゃなきゃ勝負になんねぇぞ。


合格させる気あんのか。



「今回はハンデとして、私は片手で戦うわ」


「……ハンデになってんのか、それ?」


「なってるわ。私二刀流だから」



天霧の腰には鞘に入った二本の剣が下がっていた。


なるほど、確かに二刀流が一本で戦えばハンデにはなるだろう。


が、レベルを鑑定すると……43。


相手が普通じゃなさすぎるだろ、レベル差を考えろレベル差を。



「本当にレベル1……2になってるわね」


「昨日上がったんだよ」


「スキルも【魔力操作】に【魔力感知】……話に聞いた通り。


よくそれで試験に合格できたわね」


「まあ、どっかの誰かのせいで不合格だったけどな」



天霧は二本のうち一本を抜刀する。


あまり見ない形状の剣だった。


幅広だが、刀身が短い両刃の剣。



「なんだその……ブロード、ショートソードか?」


「これが一番使いやすいのよ。私のための専用の剣」


「そうかい、じゃあ俺はこいつだ」



俺も応えて抜刀する。


クレナにもらった刀を抜くと、その刀身は美しく煌めく漆黒だった。



「黒い刀……そっちこそ、あまり見ないわね」


「だな。俺も初めて見た」


「……?それはあなたの刀でしょう?」


「さっきもらったばっかりなんだよ。今初めて抜いた」


「呆れるわね……。そんなんで私に勝てるつもり?」


「ああ、十分だ。こいつはお守りだからな」



俺と天霧が互いに剣を構える。


コロセウムが開始を待って、静まり返る。



「両者位置について……始め!」



審判の合図とほぼ同時に、二つの音が鳴った。


一つは電撃が弾けるような音。


もう一つは金属同士がぶつかる音。


音の後、天霧は俺の背後にいた。



「驚いた!レベル2で私の一撃目を凌ぐなんて!」



電撃が弾けるような音は、天霧の踏み込みの音だった。


目にも止まらぬ踏み込みから放たれた超高速の斬撃は、一直線に俺に向かってきた。


俺はその勢いに逆らうことなく、斬撃を受け流した。



「一応忠告だ、近接戦闘じゃ俺は倒せないぜ」


「それはどうかしら。たった一撃凌いだくらいで調子に乗らない方がいいわよ」


「俺が調子に乗っているかどうか、今の一撃で分からなかったのか?」


「……面白いわね!」



超速の斬撃が二撃、三撃と飛来する。


俺は一撃目と同じように、斬撃を受け流して躱す。



「すごい……本当に見切ってる!?


一体どうしてレベル2で、私の攻撃を凌げるっていうの!?」


「敵が自分の情報を親切に漏らしてくれると思うのか?


ちゃんと自分で考えろよ」


「それもそうね。でも、私の戦い方はそうじゃない」



天霧が足を止め、再び剣を構えた。


全身にさっきまでよりも静かに、しかし確実に大きな力がこもっているのがわかる。



「私の戦い方はね、全ての攻撃に全身全霊を込めて、相手を正面から粉砕することよ!」



連続して音が弾けた。


先程まで一撃づつ放たれていた攻撃が、嵐のように連続して襲いかかった。


しかし俺は確実に、放たれるすべての攻撃を受け流した。



正面から攻撃を受けない理由は単純で、俺の筋力パラメータが足りなすぎるからだ。


受け流したとはいえ攻撃を受けたからわかる、天霧の攻撃の威力は極めて高い。


クレナの刀が折られることはないだろうが、まともに受ければ俺の腕が折れる。


受け流しているのは、ひとえにそれしか方法がないからだと言ってもいい。



しかし、天霧の攻撃は非常に速く、受け流すのも一筋縄ではいかない。


だが、最大の特徴は攻撃の最高速ではない、最高速に達するまでの時間の短さだ。


瞬間的に膨大な魔力を放出することで、完全な静止状態から瞬時に最高速へと達する。


そのせいで、通常なら魔力の流れから読めるはずの動きが極めて読みづらくなっている。



しかし、それも俺には通じない。


俺はスキル【魔力感知】により、どんな些細な魔力の動きも察知することができる。


魔力で身体強化をしている相手なら、魔力の流れで次の動きが読める。


だからこそこれだけのレベル差があっても、攻撃を捌き切ることができるのだ。


そしてそれは、【魔力感知】を持つ者なら誰でもできる、というわけではない。



「っ!嘘でしょ!?


これ程のレベル差があって、私の攻撃が一度も通らないなんて!?」


「お前は強いよ、天霧。


さすがに学園序列第七位だけのことはある。


でもな、俺に限っては、お前ほどの速さでも、速いだけじゃ通用しない」


「何か仕掛けがある……そういうこと?」


「その通り。せっかくだ、答え合わせといこう」



天霧は手を止め、考えている。


構えこそ解いていないが、攻撃に移る様子はない。



「……まだ隠してるスキルがある」


「残念、外れ。


正解は【魔力感知】でお前の動きを先読みした、でした」


「【魔力感知】!?


【魔力感知】なら、私だって使える!


そんなスキルで、レベル2のあなたが私の攻撃が見切れるはずがない!」


「そう、普通なら無理だ。


だが俺の【魔力感知】ならそれができる。


さて、ここでまた問題だ。


お前と俺の【魔力感知】の違いは何だ?」


「……スキルレベル」


「残念、外れ。


正解は、スキルランクだ」


「スキル……ランク?」


「なんだ、スキルランクは秘匿情報か?」



これほどの実力を持つ天霧が知らないとは意外だった。


魔族の間では、同名スキルの間にも明確な格差があることは広く知られている。


その格差を生むものこそが、スキルランクだ。


実のところ、相当高ランクの鑑定スキルでもなければ他人のスキルランクを知ることはできない。


しかも自分のスキルランクすら知る術はほとんどないため、実戦の中で探っていくよりほかにスキルランクによる格差を実感することはできない。


しかし、常在戦場の魔族だからこそスキル格差には敏感で、その差によって命を落とすこともざらにあった。



「スキルは種類によって異なる効果を持つが、同じスキルであってもできることとできないことがある」


「そんなこと、聞いたこともない」


「みたいだな。


でも知っておけ。


相手がどんなスキルを持つかだけでなくそのスキルで何ができるのかを知らなければ、本当に相手の実力を見抜いたことにはならない」


「だったら、あなたの【魔力感知】は一体何ができるっていうのよ?」


「答え合わせはここまでだ。後の考察は自分でやれ」


「……そう、わかった。


ここまでの戦いで分かったこと。


スキル格差によるものかどうかなんてどうでもいい。


あなたは何らかの方法で私の攻撃を読み、それを的確に受け流すことで攻撃を凌ぐことができる。


だったら、読んでも受けられない速度、受けても流せない威力で攻撃を放てばいい」



天霧の全身に魔力が満ちる。


これまでとは比較にならないほどの莫大な魔力が天霧の全身を包み込んで、激しいオーラとなって立ち上る。



「褒めてあげる。


これから使う技は、私の奥の手。


一刀に全魔力を込め、最速で放つ最大威力の技。


今まで人に向けて撃ったことはなかったけど、あなたなら大丈夫よね」



激しい魔力の奔流に、コロセウムの地面が揺れ、割れる。


天霧の魔力はとどまることを知らず、さらに高まっていく。


よく見ると、天霧の口からは血が漏れ、目からは血の涙が流れている。


大きすぎる魔力に、肉体が耐えられていない。



「おい、天霧!それ以上魔力を放出するな!」


「大丈夫、たった一回だけだから。


これを凌げればあなたの勝ち、凌げなければ私の勝ち」


「バカ野郎、そういうこと言ってんじゃねぇんだよ!」



天霧ほどの実力者の体でも耐えきれないほどの膨大な魔力量。


それだけの魔力をまともに受ければ、今の俺では跡形もなく消滅しかねない。


【魔力感知】と【魔力操作】を駆使すれば受け流すことは容易だろう。


しかし、コロセウムは全方位に観客がいる。どの方向に受け流しても人がいる。


受け流せば観客に死人が出るだろう、それも一人二人では済まない。



「スキル【限界突破】。


私の体の限界を超える力を引き出すスキル。


一週間くらい寝込むことになるけど……あなたに勝てるなら些細な事。


あなたは強い、認めてあげる。


だからこそ、この一撃を捧げる」


「やめろ、天霧――!」



撃つ気だ。


もうここまで来たら俺に打つ手はない。



「《レイ・アズール》!」



突き出した切っ先から極大の光束が噴出した。


単純にして強力な、莫大な魔力による飽和攻撃。



「バカ野郎が……俺にこれを使わせるなんてよ」



これを受け流せば観客が死に、これを受ければ俺が死ぬ。


絶対的に不利な二択。



「仕方ねぇな……だったらわからせてやる、お前が誰と戦ってるのかってことをな!」



選ばなければならない。


本当は選びたくなかった、最後の選択。



「スキル発動!《魔王再臨》!」

天霧玲花あまぎりれいかです。

よろしくお願いします。

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