第4話 約束
夕方も近づき、少し日が傾き始めた頃だった。
「あ、お兄さん。
探したよ」
クレナだった。
昨日会ったときの元気はどこへやら、随分と落ち着いた様子だ。
神妙そうな顔をしている……ようにも見える。
「もしかして、クレナさんが会場まで案内してくれるの?」
「そうだよ。
少し距離があるから、話しながら行こっか」
そう言ったもののクレナは口を開かなかった。
かと言って俺たちからも話すことがなく、沈黙したまま会場へと向かっていた。
「あー、俺たち今日の対戦相手聞かされてないんだ。
クレナは知ってるか?」
「うん、知ってる」
「どんな奴なんだ?」
「強いよ。すごく強い」
「じゃあちょっとは頑張らないとな」
「……」
それきり、クレナはまた黙り込んでしまった。
「着いたよ。
ここが最終試験の会場、『セントラル・コロセウム』」
到着したそこは、学園本部よりもさらに大きく感じた。
昨日の競技場の十倍くらいの大きさはありそうだ。
中からはたくさんの人の気配がしていて、熱気が伝わってくる。
クレナの表情は変わらない。
「……お兄さん、一つお願いがあるんだ。
この試合、棄権してほしい」
「クレナさん……どうして?」
「この試合に出てくる相手、私の友達なんだ。
入試の相手とは比較にならないくらい強いよ。
お兄さんだと、多分十秒もかからずに負けると思う。
それにね、その子から聞いたんだ、先生たちに言われたこと。
『手加減しなくていい、殺す気でやるように、先生たちがちゃんと止めるから』って。
でも私、先生たちが話してるのを聞いちゃったんだ。
『この試合、最後まで止めに入るな。力を測るのに必要だから』って。
本当はお兄さんたちと一緒に学園に行きたい。
でも私、友達を人殺しにしたくない。
お兄さんにも死んでほしくない。
だからお願いします、棄権してください」
クレナの表情は真剣だ。
クレナの友達は、俺を殺すつもりで、本気で来る。
そして教員は、それを止めるつもりがない。
俺が負ければ俺は死に、クレナの友達は人殺しになる。
俺が棄権すれば当然俺は不合格、学園には入れない。
一見すると極めて困難な究極の選択だ。
命を懸けて合格を取りに行くか、合格を捨てて命を取るか。
だが、こんなものは俺にとって二択じゃない。
至極簡単な一択問題なのだ。
「心配してくれてありがとな、クレナ。
でも棄権はしない。
そんなことはする必要がないからだ。
死人も人殺しも出ない。
俺が勝って合格する。
お前はただ、来年から一緒に学園に通うのを楽しみに待ってろ」
「……なんでかなぁ。
お兄さんならきっとそう言うって、そう思ってたんだ。
……これ、お守り代わり。
持っていって」
そう言って渡されたのは、一振りの刀だった。
「私が作った刀。
きっと、お兄さんにもうまく使えると思う」
「いいのか?」
「うん。私はここで待ってるから。
だから、勝ってね」
「ああ、約束だ」
クレナを残し、俺達は『セントラル・コロセウム』の内部に入った。