第3話 不合格手続き
「やったね、レイブン!」
「おう、やったぜ!」
待っていたセシルとハイタッチした。
これでめでたく俺たちは合格となった。
「うおぉ、マジかあいつ勝ちやがった!」「すげぇ、何だ最後の魔法!?」「あいつレベル1だろ?一体どんな修行したらああなるんだ……」ギャラリーはまだざわついている。
競技場をあとにすると、試合を見ていたゴーダが立ち尽くしていた。
「おい、アドラス……。
本当に負けちまったのか……?」
「へこんでるところ悪いが、アドラスが起きたら伝えてくれ。
セシルのところまで来いってな」
「あ、ああ……」
聞いているのかいないのかわからないような返事をするゴーダは放っておこう。
合格者は明日学園本部に行き、必要な手続きをするよう試験官から説明があった。
受験者が多すぎて、その日のうちに手続きの準備ができないのではないかというのがセシルの予想だ。
「あ、お兄さん!
今の試合、すごかったね!
私びっくりしちゃった!」
試験場を出ると、見知らぬ少女に声をかけられた。
「レイブン、知り合い?」
「いや、知らない」
「ああ、ごめんなさい。
私、クレナって言います!」
金髪に紅い瞳の少女は名乗った。
「私中等部の三年生で、今度同級生になるのはどんな人なのかなって思って見に来てたの。
そしたらすごい試合見ちゃって興奮しちゃって!
いても立ってもいられなくて、つい声をかけちゃったの!」
「お、おう。ありがとう……」
近い。
圧が強い。
「ねえ、お兄さん名前は?」
「俺はレイブン。
こっちはセシルだ」
「よろしく、クレナさん」
「よろしく!
今度から二人と一緒に学園に行くんだぁ……。
楽しみにしてるね!」
クレナは言いたいことを言い終わったのか、満足そうに去っていった。
「可愛くて元気な子だったね」
「疲れそうなやつだったな……」
俺とセシルの感想は対照的だった。
翌朝。
「大きいね……」
「ああ、でかいな……魔王城よりでかいんじゃないか?」
学園都市中心に位置する黎明学園。
遠目で見てもでかいと思ったが、近づいてみるとそれより遥かにでかかった。
その本部へと辿り着いたのだが、手続きのカウンターに来たところで、予想外の事態が起きた。
「あの……レイブンさん、でお間違いありませんか?
その、不合格のようなのですが」
「……は?」
「ですから、レイブンさんは不合格のようなので、していただく手続きはないのですが」
聞こえている。
聞こえているからこそ聞き返したんだ。
俺が不合格?
一体何がどうなってるんだ?
「ちょっと待ってくれ。
俺は確かに合格者だ。
昨日試合で四回勝ってる。
ちゃんと確認してくれ」
「は、はい」
少しすると担当者が戻ってきた。
「ええと、すみません。
やっぱり不合格みたいなんです。
試合の結果は四勝なんですが、判定に疑義ありとのことで不合格とする……とのことです」
「ちょっと待て。
疑義があるから不合格?
そんな説明で納得できるわけねぇだろ。
どういうことなんだ?」
「す、すみません。
私も変だと思って聞きに行ったんですが、『疑義は疑義だ、余計な説明はしないで帰らせろ』と言われてしまいまして……」
余計な説明だと?
ふざけてやがる。
どこのどいつか知らないが、そんな雑な説明で俺が納得して帰ると思ってんのか?
「こっちこそすまない。
あんたを責めてる訳じゃないんだ。
ところで、そう答えるようあんたに言った奴は、今どこにいるんだ?」
「ええと、たぶんこの建物の三十階の会議室ですけど、それがどうかしたんですか?」
「わかった。
時間とらせて悪かったな」
列から抜けるとセシルが待っていた。
「あ、レイブン。終わった?」
「いや、まだこれからだ。
ここの三十階にある会議室に行く」
「何かの手続き?僕も付き合うよ」
魔導昇降機で三十階へ辿り着くと、俺は脇目もふらずに一番立派そうな部屋の扉を開け放った。
扉に似合いの立派な内装、その中にはいかにも偉そうな男が十人ほど、そして部屋の最奥には窓から入る光を後光のように背負う、妙に若い女がいた。
「な、なんだね、君は!」
「俺が『レイブン』だと知ってその台詞を吐いてるなら誉めてやるよ」
「よく来たね、レイブン。
と、君はセシルだね。
思ったより早かったね。
今ちょうど君たちの話をしていたところだ」
「え、え?レイブン、手続きは?」
「間違って俺を不合格にした馬鹿を懲らしめる手続きだよ」
「レイブン不合格だったの!?四勝したのに?」
「しかも詳しく確認してもらったら『余計な説明はしないで帰らせろ』だと」
「……本当なんですか?」
「どうやらそのようでね」
最奥の女はエリスと名乗った。
「私たちとしては基本的に、試験で四勝を挙げた者を不合格にするつもりはない。
それをどこぞの馬鹿が疑義があるからという下らない理由で、君に不合格を滑り込ませてしまったんだ。
すまなかったね」
「間違いならそれはそれでいい。
で、その馬鹿は誰だ」
「それが私もまだわからなくてね。
誰だと思う、ルードヴェイン?」
「い、いや、その、皆目検討もつきませんな……」
ルードヴェインはあからさまに動揺した。
「ああ、一応紹介しておこうか。
ルードヴェインは我が学園の入試の総責任者だ。
そういえばさっき試験結果についての問い合わせがあって、『余計な説明はしないで帰らせろ』と言っていたね。
それから確か、君の親族が今回の試験を受けているんだったね。
レイブンの不合格の代わりということで昨日追加合格が決まった彼、アドラスだったかな?」
「エ、エリス殿!」
「お前か」
ルードヴェインの体が硬直し、地面に叩きつけられた。顔面から落ちたようで、鼻血が出ている。
ここまで状況証拠が揃って、今更言い逃れはできない。
「ぶふっ!?
な、なんだ!?体が動かん!?」
「レイブン、ほどほどに」
「エリス殿!?」
エリスは制止しなかった。
「何を言ってるかわからないな。
俺はまだ何もしてないぜ」
「ふ、まあそれでもいいさ。
ルードヴェインの処遇については私に任せてくれ。
いいようにはしない」
床に転がるルードヴェインの顔が青ざめた。
自業自得だ。
「それから君自身の合否だが、すまないがそのまま合格にすることはできない」
「どうしてですか!
レイブンがちゃんと四勝したのは僕も見てました!」
「不正の可能性がないとは言い切れない状況にあったのは確かだ。
私は君の実力を疑ってはいないのだが、そうではない節穴が多いんだ。
だから、君の力を見せつけてもらいたい」
「勿体ぶらなくていい。
はっきり言ってくれ」
「あと一試合、我々が選んだ相手と戦ってもらう。
それに勝てば、君は晴れて合格だ。
今日の夕方、指定の場所まで来てくれ」
「わかった。相手は誰だ?」
「それは、まだ秘密だ」
どうも嫌な感じがしたが、その場は引き下がることにした。
ともかく、あと一勝。
……なぜ俺は勇者科に入るのにこんなに必死になっているんだ?
疑問は浮かんだが、とりあえず考えないことにし、心の奥底にそっとしまった。
所は会議室に戻る。
嵐のように訪れたレイブンは去り、静けさが戻っていた。
「それでエリス殿、レイブンの対戦相手は一体誰になさるので?」
「天霧にやってもらう。
もちろん、ハンデはつけるがな」
「天霧!?いくらなんでもそれは……試験にならないのでは?」
「私はそれくらいレイブンを買っている。
これで勝てないようなら、その時はその時だ」