第2話 黎明学園入学試験 ~VSアドラス~
俺たちが受けているのは『黎明学園』。
全国に多数ある学園の中でも指折りの規模を誇り、『五大学園』の一つに数えられている。
また、学園の周辺には様々な施設が終結しており、黎明学園を中心とした一帯は『学園都市』とも呼ばれている。
試験会場は学園都市の中でも比較的中心部に近い、黎明学園の敷地に程近い競技場だった。
会場にはすでに多くの受験者が集っていた。
ランダムに組まれたトーナメントにより合格者を決めていくとの説明があった。
ただし例年受験者が多すぎるため、四回勝った者を合格にすることに決まっているらしい。
トーナメント表が発表されたが、俺とセシルは別の山に組まれていた。
「僕たちは当たらなくて済みそうだね」
「一緒に受けてどっちかしか受からないんじゃしょうがねえからな。
とりあえずは良かったよ」
トーナメント表を眺めていると、同じ山にアドラスの名前があった。
「当たるとすれば最終戦か」
「レイブンなら大丈夫だよ。頑張って」
「ああ、お前も頑張れよ」
かくして試験が始まった。
セシルは危なげなく四勝し、合格を決めた。
俺も相手の魔法を暴発させ……もとい、相手の魔法が暴発したお陰で三勝を収めた。
俺の最終戦は、勝ち上がってきたアドラスとの対戦に決まった。
試合前の時間を潰していると、アドラスに遭遇した。
「よくもレベル1でここまで来れたものだ。
だが、残念ながら最後の相手はこの僕だ。
不合格は決まったようなものだね」
「自分の不合格予告とはずいぶん律儀じゃねぇか。
予告が外れないようにせいぜい頑張れよ」
「口の減らない……まあいい。
ところで試合の前に、君たちにひとつ提案がある」
アドラスからの提案を聞き、俺たちはそれを承諾した。
勝負は試験官の合図で始まる。
どちらかが降参するか戦闘不能になった時点で試合終了となる。
「両者位置について……始め!」
「一撃で終わらせる!
《フレイムピラー》!」
アドラスの掌から放たれた火球が、俺の足元めがけて高速で飛翔する。
着地と同時に火球は弾け、噴火のような火柱が俺の周囲を焼き尽くした。
「ははははは、すまないね!
レベル1ほどの弱者と戦うのは慣れていないんだ!
もしかしたら、骨も残らないかもしれないね!
けれどこれは僕が強いからじゃない、君が弱すぎるのがいけないのさ!
さて、これで合格者は僕だ。
一人残された君の友人、セシル君は、僕がきちんと面倒を見てあげよう。
だから安心して旅立つといい」
「気が早えんだよ。
まだ勝負はついてねぇぞ」
火柱の中で渦が巻き、渦に巻かれて炎が俺の掌の中で球形に集う。
「馬鹿な!?
躱したのか、《フレイムピラー》を!?」
「さあ、どうかな?」
俺は掌の火球を、無造作にアドラスへ放り投げた。
「くっ、《魔術障壁》!」
アドラスの前に現れた半透明の壁で、俺の火球は防がれた。
魔法系クラスの必須スキル《魔術障壁》。
術者の練度によって強度が変化するスキルだが、アドラスのそれはなかなかの強度があるようだ。
「へぇ、《魔術障壁》か。
結構やるじゃねぇか」
「《フレイムピラー》を凌いだくらいで図に乗らないことだ!」
アドラスの周囲に三つの火球が漂い始めた。
「この僕の《フレイムピラー》をどうやって躱したかは知らないが、それについては誉めてあげよう。
だがこの魔法は相手を追尾する回避不能の攻撃魔法!
レベル1の君では回避も防
「いちいち御託の多いやつだな。さっさと撃て」
「っ!死ね!《ナイン・スプレッド》!」
漂う三つの火球が、それぞれさらに三つに分裂し、拡散した。
九つの火球が、俺の周囲を旋回しながら僅かずつタイミングをずらして全方位から襲い掛かった。
直撃と同時に、爆炎が吹き荒れた。
「はあ、はあ……は、ははははは!
今度こそ直撃だ!
死にはしないが再起不能だ!
もう謝ったって遅いぞ!」
「なるほど、面白い魔法だな。
でも死ねはまずいだろ」
爆炎が渦を巻き、さっきと同じように俺の掌に収まる。
俺はといえば、服の裾に火が付くこともなく、全くの無傷である。
「そんな、馬鹿な!
《フレイムピラー》とは違う!
《ナイン・スプレッド》は回避不能の追尾魔法!
この僕の魔力をもってしても二度しか撃てない大技だぞ!
それを一体、どうやって躱した!」
「なに、あの程度。躱す必要もねぇよ」
「なら防いだとでも言うのか!
それこそ、レベル1の君ごときにできる道理はない!」
その通り。
「ただの」レベル1には不可能な芸当だ。
俺がしたのは至極単純なこと。
魔法を構成する魔力を解析し、解体し、俺の支配下においただけ。
ただそれだけのことで、アドラス自慢の奥の手はいとも容易くその頭を垂れた。
「あり得ない……こんなことは、あり得ないんだ!
この僕のレベルは25だ!
それが、君のような雑魚に!」
「アドラス、お前は間違えた。
セシルを賭けろなんて言い出さなければ、俺ももう少し穏当にお前を倒してやれた。
でもな、もう遅い」
試合前のアドラスからの提案はこうだ。
俺たちの試験での不正を告発しない。
その代わり、アドラスが勝ったらセシルを下僕にする。
俺たちは全く不正などしていない。
当然そんなものは受け入れられないと思ったし、そもそもその賭けに乗るまでもなく、告発そのものが成立しないと思った。
しかし、俺がレベル1であること、三回戦までの勝ち方が不自然であること、友人に極めて優秀な者がいることを突けば、容易に告発は成立すると脅してきた。
正直これは相当頭に来た。
俺だけならまだしも、セシルまで巻き込むそのやり口。
しかしセシルの「いいよ。レイブンは君なんかには絶対に負けないから」という買い言葉により賭けが成立してしまったので、俺は一度矛を収め、試合でアドラスを懲らしめてやることに決めた。
「チッ!《魔術障壁》!」
アドラスの前に半透明の壁が現れた。
だが、もうそんなものには意味がない。
俺の掌の火球は二つ、四つと分裂していき、やがて小さな光の粒子が空間中を埋め尽くした。
その数、一〇二四。
「は……!?」
「これがレベルじゃ測れない格の差って奴だ。
これに懲りたら、ちゃんとセシルに謝りに来いよ!」
一〇二四の光の粒が、一斉にアドラスへと飛翔した。
《魔術障壁》は気休めにもならず、四方八方から降り注いだ閃光は、アドラスに刺さると炸裂し、合わさって巨大な爆発となった。
「ご……は……!?」
「お前のが《ナイン・スプレッド》なら、こいつは《サウザンド・シャワー》ってところか」
全身ボロボロになったアドラスは、その場に倒れ込んだ。
「勝者、レイブン!」
試験官の高らかな宣言と共に
『レベルが2に上がりました』
という無機質な声が頭に響いた。