第16話 百人力 ~VS第四学生寮ボス・後編~
『――に上がりました』
『レベルが11に上がりました』
『レベルが12に上がりました』
『新たなスキルを獲得しました』
ようやくシステムの声が止んだ。
流石に300人くらいまとめて倒すと経験値が半端じゃないな。
自分を鑑定すると、基礎パラメータが相当高くなっているのがわかる。
これなら多少走っても息切れしないし、重いものを持っても筋肉痛にならずに済みそうだ。
それにレベルに余裕ができたということは、あのスキルを使うのにも余裕ができるということだ。
「お前……一体どうやってあの魔法の嵐を、どうやって!」
「どうやってって……まあ、チョチョイとな。
頭使わないお前には説明しねぇよ、股間で考えな」
「こ、の、野、郎……!
ブチ殺す!」
ブチッという音が聞こえた気がした。
同時に、ボスの魔力が爆発的に高まった。
「お前ら二人共ブチ殺し確定だ!
ただし、泣いて謝れば校門全裸土下座で許してやらあ!」
「いちいち品がねぇな……杞憂だから負けたとこのことだけ考えてろ、猿」
「殺す!」
瞬間、姿が消えた。
俺の背後に回り、後頭部を狙ったパンチを繰り出した。
「遅ぇな」
「ぐ……こいつ、また!」
しかし、今の俺にはこの程度のパンチは止まって見える。
まあ、見てないんだが。
「舐めてろ、雑魚が!
食らえ、【空間移動】と【体術】の連携奥義を!
必殺|《無限怒涛拳》!」
瞬間でなく、ボスの姿が消滅した。
空を叩く音とともに、俺に無数の拳が飛来した。
死角のない完全なる全方位攻撃!
【空間移動】により位置の制限なく、【体術】で強化された拳による一撃を叩き込む防御不能の技だ!
とか思ってんだろうな。
放たれる全ての拳を、【魔力操作】により固めた魔力で悉くはたき落としていった。
「ば、馬鹿な!?見切れるはずがねえ、《無限怒涛拳》を!?」
「【空間移動】が無敵って言ったな。
確かにお前の【空間移動】は魔力消費も予備動作も小さい、優秀なスキルだと言っていい。
だがな、所詮は単なるスキルに過ぎねぇんだよ。
使う魔力が少ないと言っても、少ないだけだ。
予備動作が小さいと言っても、小さいだけだ。
そういう細かいところ、俺の【魔力感知】を前に隠せないぜ。
はっきり言って、動きがバレバレだ」
「予備動作と、魔力の流れで……動きを読んだってのか!?」
まあこの程度、読んだうちに入らないんだけどな。
見えてるのをなぞってるだけだし。
「この……雑魚の分際で!」
俺には【魔力感知】がある。
だからボスがどこに向かって、何を攻撃しようとしているかは手にとるようにわかる。
拳がリリーの眼前で弾き飛ばされた。
「きゃ……!」
「馬鹿な、完全な不意打ちだぞ!?」
「情けねぇな……勝てないと思ったら弱いものいじめか?
品もなけりゃ度胸もなしか」
あれだけ啖呵を切っておいて、追い詰められたら弱いもの狙い。
これは格好がつかないな。
「嘘だ……」
「嘘じゃねぇって、もうやめとけよ」
「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ!
俺は最強だ、俺は誰にも負けねえ!
お前ごとき雑魚に、遅れを取ることはねえんだ!
この俺に、不可能の文字はねえ!」
そう言うと、天を仰いだ。
「俺は強い俺は強い俺は強い俺は強い俺は強い!
お前は殺すお前は殺すお前は殺すお前は殺すお前は殺す!」
こいつ、【カリスマ】を自分に使ってるのか?
本来なら単なる自己暗示でしかないが、もし強化効果が効くなら……。
「あああぁぁ!
殺す殺す、殺おおぉぉす!」
更に魔力が増大している。
これは……天霧の【限界突破】に近い魔力だ。
体が耐えきれるはずがない。
「があっ!」
先程よりも格段に早くなったスピードで、ボスは明後日の方向へかっ飛んだ。
その先には、俺がさっき作り出した虹色の結晶があった。
「あれは……まずいな」
結晶が拳で破砕され、中に囚われていた学生が開放された。
怪我はしたものの軽傷だ。
しかし拳で結晶を破壊するとなれば、今まで結晶に守られていた学生たちも最早安全ではない。
「セシル、結晶を解く!
中の奴らを守れ!」
「わかった!」
講堂中に生成された結晶を【魔力操作】で解体し、魔力へと還元する。
130発分の魔力が、再び俺の手の中に戻った。
「はああぁぁ……お前は、殺す!」
ボスの周囲に魔力が渦巻いていく。
「ぐううぅぅ……おおおぉぉ!
最終奥義、《真・無限怒涛拳》!」
瞬間、同時に多数の拳が降り注いだ。
さっきよりも格段に速く、重い拳だ。
だが、それだけだ。
同時とは言っても、現実には僅かな時間差がある。
その時間差に合わせ、早い順に丁寧に防御していく。
ただそれだけのことで、ボスの放った奥義は完全に無力化された。
「何っ……だと!?
《真・無限怒涛拳》を一歩も動かずにっ!?
ク……クソっ……!
おい一年共!
さっさと起きろ!
こいつらを殺せ!」
ボスの声に応えるものはいなかった。
「ゲイリー、ゲイリー!
何してやがる!
こんな時くらい役に立ちやがれ、役立たずが!」
ゲイリーからも返事はない。
全員気を失っているから当然だ。
「これだけたくさん人を従えても、いざという時にお前を助けてくれる奴はいないようだな」
「クソっ……クソが!
こうなったら、お前だけで、も……!?」
リリーへと駆け寄ろうとした瞬間、俺の操作した魔力がボスを縛り上げた。
「畜生……体が……!?」
「お前、人として最低だぜ」
「だが……俺には【空間移動】がある!
この程度……っあ!?」
バキン、と何かが折れる音が鳴った。
「何だと!?
【空間移動】が発動しない!?」
「お前は何事もないように使っているが、【空間移動】は繊細なスキルだ。
移動先の魔力を少し乱してやるだけで、スキルは発動しない」
「移動先を読んで、さらに魔力を乱すだと!?
そんなことが、出来る訳が!?」
空中から折れる音が怒涛のように響く。
空間移動でなんとか逃れようとしているようだが、所詮は悪あがきだ。
「嘘だ……こんなのは、嘘だ!」
「もう終わりだ、お前は」
俺は手中の魔力を開放し、魔法を練り上げた。
「こ、これは……!?」
「俺が食らった130発分の魔法だ。
人に使った力が自分に向く気分はどうだ?」
炎、風、雷、光、氷。
色とりどりの魔法が、ボスを包囲した。
「よ、よせ……やめろ……!
やめろおおぉぉ!」
「受けろ、《エレメンタル・レイド》!」
百を超える魔法の雨がボスを包み、七色の光を放って炸裂した。