第15話 美少女の罵詈雑言講座 〜VS第四学生寮ボス・前編〜
「ぐ……うおぉ……!」
踏ん張るボスに対し、俺はさらに力を強めていく。
地についた手と足が、地面に少しずつめり込んでいく。
すると突然、かけていた力が空を切った。
そこにいたはずのボスの姿はなく、少し離れたところに平然と立っていた。
「お前、面白い魔法を使うな」
「これが魔法に見えるのか、節穴。
お前の方こそ、珍しいスキルを使うじゃねぇか。
【空間移動】だろ?」
さっきまでの魔力の縛りは完全だった。
そこから抜け出すには、一度魔力の縛りを解くか、空間移動により別の場所に移動するしかない。
魔力の縛りが解かれた感覚がなかったことと、いなくなったあとに残った魔力の残滓。
この2つから導き出されるのは、スキル【空間移動】による転移だ。
「ほう、よく知ってるな。
レベル1にしてはよく勉強してるじゃねえか。
だが、知ったところでどうなるわけでもない。
俺の【空間移動】は無敵だ」
「誰が無敵だって?」
「おっと!?」
音もなく背後からセシルが白鬼夜行を一閃した。
寸前で反応したボスが【空間移動】を発動し、その場から逃れた。
「危ねえ危ねえ。
クク、わざわざ声をかけなけりゃ一撃で俺を殺せていただろうに。
とんだお人好しだな、お前ら」
「わからないんだ?
わざと声をかけてあげたんだよ」
「クク、調子に乗っていられるのも今のうちだ。
一年共!」
講堂に集まって、そのまま固まっていた一年たちにボスが声をかける。
「命令だ、こいつらを殺せ!」
入学したてでそんな物騒な命令を聞くわけがないと思ったのだが。
「こ、殺す……うおおぉぉ、殺す!殺す!」「殺せ!奴らを殺せ!」
何かが伝播するように一年全体が殺気立った。
これは……スキル?
「……【カリスマ】か」
「ご明察!
いい鑑定スキルだ、レベル1には勿体ねえな!」
【カリスマ】は人心掌握系のスキルの中でも上位に位置するスキルだ。
集団に対して行動を強制したり、能力上昇効果を付与することができるかなり万能な効果を持つ。
なるほど、こいつが四寮に君臨している理由はこのスキルか。
上の寮にいるとトップに立てず、【カリスマ】を活かすことができない。
だから下の寮でトップに立ち、【カリスマ】を使って好き放題しているってわけだ。
「セシル、そいつを少し頼む」
「わかった、レイブンは?」
「雑魚を蹴散らす」
殺気とともに向かってくる一年の前に立った。
「クク、一人でこの人数を相手にできるつもりか、レベル1!」
ざっと見たところ、平均レベルは20程度。
弱くはないが、強くもない。
「一年共、焼き尽くしてやれ!」
その号令とともに、半数ほどが魔法を手に構えた。
「ボ、ボス!そいつに魔法はダメだ!」
「俺に逆らうな、出来損ない!
お前ら、魔力を振り絞れ!」
ゲイリーの忠告にも耳を傾けず、一年たちは魔法を放つ。
「《フレイム》!」「《サンダーボルト》!」「《ウィンドランス》!」
都合130発の魔法が同時に俺に向け降り注いだ。
全く好都合だ。
俺を中心に炎、雷、風、氷に光、あらゆる属性の魔法が降り注ぎ、炸裂した。
「クク、ハハハハハ!
雑魚が、図に乗ってんじゃねえぞ!」
様々な属性が混ざり合い、複雑な爆発が講堂内に満ちた。
「あとはお前だな、女……ん?
よく見りゃ随分と可愛い顔してんじゃねえか。
クク、殺すのはやめだ。
俺と来い、女。
お前は俺が存分に可愛がってやるよ」
「ま……待って!
私が、言うこと聞くから……だから、その娘は……」
「あ?
関係ねえんだよ、お前が用済みなのに変わりはねえ。
適当に可愛がってもらったらどこへでも行け。
女、お前も五寮だろ?
五寮はどうせ全員皆殺しだ、俺に従え。
俺に従えばもっとイイことを教えてやるよ」
「はぁ……あなたって人は、本当に……」
ふぅ、と息を吐き、言い捨てた。
「本当に、救いがたい屑だ。
その股間についた脳みそを切り取って、オークの餌にでもするといい」
「……!?
こ、な、何……!?」
おお……ここまでの罵倒は俺もそう聞き覚えがないな。
言葉の一言一言に相当な殺意が込められている。
あまりに予想外の言葉だったのか、ボスも動揺している。
「お前……俺に逆らう気か?」
「僕に『あなたに従う』という選択肢が浮かぶことは一生ない。
それに、あなたはいくつか間違っている」
「……何だと?」
「まず、僕は男だ」
「……え?」
「……は?」
「もう、何なのこの反応!」
リリーとボスが揃って固まった。
……まあ、そうだよな。
セシル、可愛いもんな。
「それから!
五寮は皆殺しになんてさせない。
今ここで、僕たちがあなた達を止めるからだ。
そして最後に」
七色の閃光が講堂中に降り注ぎ、輝く結晶で辺りを包み込んだ。
数百人いた四寮一年は悉く結晶の中に囚われ、瞬く間に戦闘不能になった。
「レイブンは雑魚じゃない」
「な、レベル1お前……なぜ生きている!?」
130発の魔法の爆心地から、俺が現れた。
『レベルが2に上がりました』
『レベルが3に上がりました』
『レベルが4に上がりました』
『レベルが5に上がりました』
『レベルが――』
頭の中で鳴り止まないシステムの声とともに。
決着しませんでした!
明日こそ必ず倒します!