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第14話 妹救出作戦

ゲイリーを倒したものの、システムのレベルアップの声は響かなかった。


こいつら、入試のときに戦った奴らよりも弱かったのか?


こんなのにイビられてた五寮ってどんだけ弱かったんだ。



「うおおぉぉ、何だあいつ!?」「相手、先輩だよな!?倒したぞ、すげぇ!」「これで助かるのね!ありがとう!」


ゲイリーとほか二人は、とりあえず縛り上げて寮の外に出しておくことにした。



「お疲れさま、レイブン。


ありがと」


「いや、俺がやんないとお前こいつら殺しそうだったからな」


「あ、えへへ……顔に出てた?」



顔にも出てたし圧がヤバかった。


今の照れてる顔はすごく可愛いんだけどな!



「レイブン君……ありがとう。


僕らを守ってくれて……」


「ただ頭にきたからってだけだ。


礼には及ばない」


「けれど……これから少し大変なことになるだろうね……。


彼らを倒したことは……きっとすぐに四寮のトップにも伝えられる……。


どんな報復があるかわからない……今のうちにできる備えはしておかないとね……」



報復か……やべぇ全く考えてなかった。


だが、たしかにこういう奴らは報復行動に出てもおかしくない。



「そう言えばメロウ先輩、こいつ妹がどうとか言ってたよな?」


「実は……僕の妹が四寮生なんだ……。


もともとは僕と同じ五寮生だったんだけど……。


絶対服従だと言って半年ほど前に連れて行かれてしまったんだ……。


手紙こそ届くけど……しばらく会えていないくてね……」


「そんな……!


そんなの、人質じゃないですか!


早く助けに行かないと!」


「いいんだ……僕だけがわがままを言うわけにはいかない。


僕は学生代表だ……君たちを守る義務がある。


僕個人の都合で……君たちを危険にさらしてまで……妹を助けようだなんて……」



メロウは拳を握りしめている。


責任感の強いやつだ。


本当ならすぐにでも行きたいだろうに。



「セシル、行くぞ」


「うん」


「ど……どこに行くんだい?


まさか……四寮に……」


「ちょっと出かけてくるだけだ、野暮用でな。


すぐ戻る」


「行ってきます、メロウ先輩」



俺達は第四学生寮前に来た。


まあ、たまたまの野暮用で?


たまたま四寮に来てしまったというだけだ。


別にメロウのためでも、他の五寮生のためでもない。


学生寮の門の前には見張りの学生が二人立っていた。



「レイブン、作戦は?」


「普通に入って、普通に代表を倒す」


「それ作戦っていうのかな……」


「とりあえず、こいつがあれば中に入るのは大丈夫だろ」



俺は胸にゲイリーから拝借した星章せいしょうをつけた。


星章は黎明学園生の格付けを示す紋章で、入寮時に新入生に配られたものだ。


星章には一星ひとつぼしから七星ななつぼしまでのランクがあり、俺のランクはなんと無星むぼしだった。


ランク外ってことか。


星の数によって入れる寮が決まっており、第四学生寮は二星ふたつぼし以上でないと入寮することができない。


つまり無星の俺は、そのまま入ろうとすれば四寮生でないことがすぐにバレるわけだ。


もっともバレたところですぐに転がしてしまえば問題ないのだが、面倒はないに越したことはない。


それに、メロウの妹に余計な危険を及ぼすのは不本意だしな。


ゲイリーは四寮生だけあり当然二星だったので、それを拝借して四寮生になりすまそうというわけだ。



「多分あれ二年生だよね。


僕が前を歩くから、レイブンはついてきて」


「わかったが……何でだ?」


「レイブン敬語使わないでしょ。


僕もああいう人たちに敬語使うのは気がすすまないけど……変に目立つのもまずいでしょ」


「まあ、それはそうだな」



建物としてはそれほど立派ではないものの、作りは五寮よりも遥かにちゃんとしていた。


大きさも五寮より格段に広く、いかに五寮が冷遇されているかがよくわかった。



「待て、お前ら新入生か?


どこへ行っていた?」



門に近づくと見張りが声をかけてきた。



「ちょっと寮長のダグラスさんに呼ばれていたので……。


彼にも付き添いをお願いしていたんです」


「ダグラスさんか……なら仕方ない。


一応星章を確認するぞ」



危ない、ゲイリーから星章を拝借しておいて正解だった。


ちなみにセシルは初めから二星だったので、自前の星章である。


……なんで五寮配属になったかは後でダグラスに聞いておこう。



「よし、入っていいぞ。


もうすぐ集合時間だ、遅れるなよ」


「はい、ありがとうございます」



問題なく侵入することができそうだ。


俺ならまず敬語を使わなかった瞬間に疑われていただろう。


一方セシルは受け答えが自然な上に、見た目から仕草まで美少女だ。


疑う疑わない以前に男なら警戒レベルが半分くらいまで落ちるだろう。


……まあ、セシル男だけど。


これなら中に入ってもそれほど目立たずに行動できそうだ。


さてと中に入ろうとしていたとき、もう一人の見張りが言った。



「ちょっと待て。


女子は今全員ボスのところにいるはずじゃないのか?」


「そういえば……そもそも、今年の新入生にあんな可愛い娘いたか?」


「いやいない、断言できるが絶対いない。


あんな可愛い娘、見たら絶対覚えてるからな」


「ということは……」


「黙らせるぞ、セシル!」


「もう、何このバレ方!」



セシルは白鬼夜行を一閃。


俺は魔力で見張りを縛り上げ、地面に叩きつけた。



「げふっ!?」「ごはっ!?」



瞬く間に二人の見張りは沈黙した。



「まさかセシルが可愛さが災いするとは……可愛いって罪だな」


「そういうこと言わなくていいから!」



幸い周囲に人影はなく、騒ぎになることはなかった。



「とりあえず入るか……中でもあんまり人と接触しない方がいいな。


いつどこからバレるかわかんねぇからな」


「本当にね……」



中に入るが、エントランスに人影はなかった。


大きな建物だけに人もたくさんいると思ったが……。



「何か変だな。


こんなに人がいないなんて」


「さっき集合に遅れないようにって言ってたよね。


ひょっとしてどこかに集まってるのかな?」


「だとすれば、人が集まれるくらい広いところってことだな」


「うーん……あ、講堂だって。


ここなんか人が集まれそうだよ」



構内図を見てセシルが言った。


確かに、ここなら人が集まれそうだ。


構内図に従ってその方向へと進んでいくと、途中で新入生と思しき人の流れに合流した。


流れに乗って講堂に入る。


講堂はやたらと広く、数百人程度であれば人が入れるくらいの広さがあった。


これもまた五寮とはえらく差があるな。


さっきに見張りの話だと女子はボスのところへ集まっているという話だったが、その件はもう終わったのか、女子も講堂に集まっていた。



「さて、全員集まってるな。


それではこれから、ボスから新入生に挨拶がある。


ボス、お願いします」



講堂正面の演台にボスと呼ばれた男が現れた。


背は高く細身で、スマートな印象だ。


胸につけた星章には四つの星が輝いている。


その横には儚げな少女が付き従っている。



「お前ら一年に言っておくことは一つ。


俺の命令には絶対服従だ。


自分で考える必要はない。


全て俺の言うとおりにしておけば問題ない。」



大声を出すわけでも語気を強めるでもない。


それにも関わらず、この場にいる一年の誰もがその圧力に緊張感を覚えていた。



「おい、ゲイリーはどうした。


五寮の扱いについて説明するはずだろ」



隣りにいた儚げな少女にボスが問うた。


五寮の扱い、ということは、ゲイリーのとっていた態度は奴の個人的な考えに基づくものではなかったわけだ。



「その、それが……まだ戻っていなくて……」



その返答を聞くや、ボスは少女を殴り飛ばした。



「うっ……!」


「戻ってないなら戻らせろ。


俺はゲイリーをここに呼べと言ったんだ。


ゲイリーが来ていない理由は聞いていない。


どうして俺の言った通りにできない?


……お兄様がどうなってもいいんだな?」


「ご、ごめんなさいっ……すぐに、やりますから……」


「それでいいんだよ。


俺だってこんなことはしたくないんだ、わかるだろ?」


「は、はい……」


「ゲイリーの方は終わってからすぐにやれ。


今はとりあえずいい」


「わ、わかりました……」



少女は立ち上がると、また元の位置に静かに立った。


かなりの勢いで殴られたのか、頬は赤く腫れ、口からは少し血が滴っていた。


……いかん、頭に血が上ってきた。


それに、お兄様ってのはもしかして……。



「いいか。


繰り返すが、俺の命令には絶対服従だ。


口答えをすればどうなるか、理解できただろう。


この学園では上に立つ者が下の者を支配する。


お前らもそれを正しく理解して、有意義な学園生活を送ることだ。


俺からは以上――」


「兄貴!」



話が終わろうかというとき、突然講堂の扉が開け放たれた。


そこにいたのは、ゲイリーだった。



「兄貴じゃねぇ、ボスと呼べ」


「す、済まねー、ボス」



どうやらボスはゲイリーの兄だったらしい。


言われてみれば、どことなく顔つきが似ているような気がしてきた。



「で、何やってた?


もう時間は過ぎてるぞ」


「それが、五寮の奴ら、俺達に噛み付いてきやがった!」


「なるほど、それで時間を食ったわけだ。


で、上納金の件は?


話はつけてきたんだろうな、こいつのお兄様に」


「い、いやそれが、予想外に抵抗が大きくて……」


「……できなかったのか?」


「ち、違うんだ!


これからもう一度……」


「違わない」



その言葉は演台からではなく、講堂入口にいたゲイリーのそばから聞こえてきた。


さっきまで正面の演台のところにいたはずのボスが、いつの間にか後方の講堂入口に移動していた。



「どうしてお前にはこんな簡単なことができない?


五寮の連中なんか一星しかいないだろう。


二年以上で残っているのはメロウしかいないはずだ。


やつは三星だが、こちらには人質もいる。


それでどうしてできない?


お前のような出来損ないのために、どれだけお膳立てしてやってると思ってるんだ?」


「だ、だから、それは……」


「もういい。


あとで俺の部屋まで来い」


「は、はい……」



ゲイリーは恐怖に震えている。


一体何をされるのか、単なる説教ではないことは確かだろう。



「聞け、一年共」



気づくとまたボスは演台に戻っていた。



「俺は絶対服従だと言ったが、それは何もお前らにだけ言った言葉じゃない」


「きゃ……!」



ボスは少女の腕を掴み、強引に前へ引き寄せた。



「こいつが誰だかわかるか?


こいつは五寮代表メロウの妹、リリーだ」



やっぱりそうか。


優しげな目がそっくりだ。



「上の者が下の者を支配する。


それは、四寮は格下の五寮も支配することを意味している。


だが、五寮の奴らは俺に逆らった。


だから、奴らにもちゃんと教え込んでやる必要がある。


俺に逆らうとどうなるかってことを」



ボスは掴んでいたリリーの腕を離すと、言い放った。



「脱げ」


「え……?」



さすがの俺も、セシルでさえも耳を疑った。



「な、どうして……」


「お前の兄は罪を犯した。


俺に逆らうという罪だ。


五寮は五寮で皆殺しにするが、お前はお前で罰を受けろ。


まずはここで脱げ。


それから……夜になったら一年の男共と遊んでやれ。


命令だ」


「い、いや……」


「俺に逆らうのか?」


「た、助けて……誰か……」


「助けは来ない。


諦めて大人しく、俺に従え」



リリーはジリジリと講堂の隅へと追いやられる。



「従えないか?


なら、従わせてやるよ」



ボスの手が、リリーへと伸びる。



「お願い……助けて!」



その手がリリーに触れる。


その直前に。


ボスの手がピタリと止まった。



「腕が……動かない?」


「俺も数多人と魔族を見てきたけどな、お前ほどのクズは流石に見たことがなかったぜ」



俺はボスの方へと歩み寄る。



「あ、兄……ボス!


そいつだ、五寮で俺に噛み付いてきたやつは!」


「お前か、俺に従わず逆らおうってやつは」


「逆らう?


違うな、勘違いしてるぜお前」


「ぐ、おっ!?」



魔力の縛りでボスを地面へと引き倒した。


ボスは間一髪手をつき膝をつき、踏みとどまった。



「従うのはお前の方だ」

ボスは次話で倒します(予告)。

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