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第12話 掃除当番

談話室にはすでに多くの学生が集合していた。


それぞれの部屋が凄まじく狭い代わりといったところか、談話室はかなりの広さがあった。


「おい、何だあの子、めちゃくちゃ可愛いぞ!」「地上に舞い降りた天使……」「やばい、私も惚れそう」ざわついていたが、ほぼセシルについての感想だった。



「視線が痛い……」


「な、大丈夫だったろ」


「僕男なのに……」



新たに現れる学生がいなくなった頃、メロウが談話室に現れた。



「新入生のみんな……ようこそ、黎明学園へ。


僕は……この寮の学生代表を務めさせてもらっている……メロウといいます。


ここにいるのは……これから共同生活していく仲間だから……仲良くしていってね。


何かわからないことがあれば……何でも僕に聞いてね」



当たり障りのない挨拶だった。


その後には共同生活をする上での注意事項が説明された。



「なあ、一つ聞いてもいいか。


あんた以外の先輩はいないのか?」



ここまで、メロウ以外の上級生を全く見かけていない。



「ああ、それは……」


「邪魔するぜ」



乱暴に寮の扉が開けられ、三人組の男が入ってきた。



「ゲイリー……」


「おっ、なんだなんだ?


雁首揃えてお出迎えか?


殊勝なことじゃねーか」


「な……何をしに来たんだい?」


「連れないこと言うじゃねーか、ただの挨拶だよ。


そっちの新入りにもちゃーんと立場ってもんをわからせてやんないとな。


つーわけで、俺はゲイリー。


よろしくな、掃き溜めの諸君」



掃き溜め?


俺たちのことか?



「あれ、聞いてない?


そっかー、聞いてねーかー。


しゃーねーな、なんせ来たばっかだもんな。


俺が親切にも教えてやるぜ。


お前ら五寮生はな、『掃き溜めのゴミ』だ。


卒業の見込みがハナからねーから、端っこにこうして詰め込まれてんのよ。


役にも立たねーゴミだから、俺ら四寮の命令には絶対服従な。


そゆこと。わかった?」


「ぜ、絶対服従は、君たちが勝手に決めたルールだろ……彼らには関係ない……」


「新人でも五寮は五寮だろ。


それともアレか。


妹ちゃん、どうなってもいいのかなー?」


「い、妹は関係ない……!」


「だったらわかるだろ、な?


今年も仲良くしようぜー。


な、メロウせ・ん・ぱ・い?」



下卑た笑みでメロウに語りかけた。


メロウはうつむき、拳を握りしめている。



「じゃあ一年生諸君、命令だ!


これから毎月一人一万持ってこい。


嫌なやつは別にいいぜ。


どうなっても知らねーけどな、ハハハ!」



談話室にいる新入生は全員黙り込んでいる。



「あーそうだ。


俺は親切だからよ、払いたくても払えないやつは体で払ってくれてもいいぜ。


安心しろよ、ちゃーんと可愛がってやるからよ。


そうだなー……お、君すっごいかわいいじゃん!」



値踏みするように見渡すと、よりによってセシルに目をつけた。


可愛いのは認める。


男だけどな。



「君が俺の言う事聞いてくれるなら、今年は一人五千に負けてあげるよ!


どうよ、同じ寮の仲間を助けると思ってさ?」



そう言ってセシルの肩に手を回そうとする。


なんだこのゲス野郎。


少し黙らせようかと俺が思い立った瞬間だった。



「その薄汚い手で僕に触るな」



今までに誰からも聞いたことがないような冷たい声でセシルが言った。


セシルはゲイリーを一瞥すらせず、その全身から明確な殺気のこもった威圧感を放っていた。


あまりの圧に、ゲイリーが怯んで後ずさった。



「……っ、ボクっ娘で強気っ娘かー、いいね!


ますます気に入ったぜ。


君、やっぱり俺と来なよ。


可愛がってやるよ」



折れないゲイリー、しつこく食い下がる。


もうこいつ面倒くせぇな。


セシルも刀に手をかけて、今にも抜きそうだ。



「あー、メロウ先輩。


質問なんだけど、寮の掃除は一年の仕事だよな?」


「え……あ、うん……そうだね」


「じゃあちょっとでかいゴミが3つほどあるから、俺が掃除するよ」


「あ?


誰がゴミだと?」


「1、2、3」



一人ずつ、指差し確認しながら数える。



「ほら、ちょうど3つだろ」


「テメェ舐めてんのかコラァ!」



安いチンピラだな、こんな挑発に乗るなんて。


「や、ヤバイってあいつ!」「知らん顔、知らん顔……」「俺たちまで巻き添えになりませんように!」薄情な奴ばっかりだな。



「レベル1の分際でよくもそこまでコケにしてくれるもんだな、えぇ?


おいお前ら、ちょっと痛い目見せてやれ」



取り巻きのチンピラ二人が前に出た。



「へへっ、覚悟はいいんだろうな?」


「骨の一本二本はイッちまうかもなぁ?」


「あぁ、うるせぇな。


ゴミは喋らなくていいからとっとと来い」


「なめんなよクソが!」



チンピラの一人が振りかぶった拳は、俺の眼前で停止。


そのままの姿勢で固まった。



「あぁ……!?」


「お、おい!何してんだ!」


「か、体が……動かねぇ……!?」


「テメェ、何しやがったコラァ!」



もう一人が放った蹴りも俺に当たる寸前で停止し、不自然な体制で固まった。



「う、嘘だろ!?動かねぇ……!?」


「俺らは掃き溜めのゴミ、だったよな。


じゃあお前らはなんだ?」


「クソが……っ!」


「這いつくばれ」



ドゴォ!


「げばっ!?」「ぼっ!?」


寮が揺れた。



チンピラたちは猛烈な勢いで床に叩きつけられ、衝撃でそのまま気絶した。


結構強めにやったからな、すぐには起きないだろう。


さて。



「舐めやがって……レベル1!」


「ゴミ掃除、あと一つ」

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