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訓練

 夕飯になりいつもの様にアレンと一緒に食べる。いつもと違うのはオリビアがアレンの配膳し、彼の後ろに護衛が2人控えている所だけだ。


「うーん、このムニエル美味しいわ。お刺身も食べたいのですが王都では難しいのでしょうね」


 このゲームの食べ物は日本のものもあるけれど海がない首都では、さすがに生魚は食べれない。


「チェルシーが食べたいのなら、魔王討伐が終わった後でよければ、カヌレ領に連れて行ってあげようか?」


「まぁ、嬉しいです!是非連れて行って下さいませ!」

 それは心踊る提案だ。

 私が喜ぶと、アレンも嬉しそうに笑う。


 その様子に側近達は皆目を瞬いた。

 その中でオリビアはいち早く反応し、会話に入ってきた。

「猊下、畏れながら猊下にその様な時間は有りませんし、女性を連れてお出かけになるなどどの様な噂になるか。それに猊下は生魚は苦手でしょう?」


「あ、そうなのですね」

 一度期待した分、気持ちがしゅーんと落ちた。


「オリビア」

「はい」

 余計な事を言うな、という様にアレンが目線で嗜めるとオリビアは後ろに下がりジッと私を見る。


「チェルシー、僕はできない約束をわざわざしたりしない。休暇をとるから一緒に食べに行こう?」


「そうですね、楽しみにしています。外聞が良くないなら人数を増やしていかなければいけませんね」


 残念ながら、一緒に旅行に行ける相手など私には、アレン様しかいないのだけど。


「僕は2人きりでも構わないけどね」

 カラーンという音が鳴る。余りの動揺に肉を切っていたナイフを落としてしまった。


「失礼しました」

 私の顔が赤いのは大きな音を立ててしまい恥ずかしいからだ、絶対に!


「猊下!そのような約束を軽々しくするものではありません。他の者に聞かれたらどう思われるか!」


「オリビア、もう下がりなさい」

「でも!」

 彼女は食い下がる。

「オリビア」

 アレンの冷たい声が響いた。


「かしこまりました。」

 彼女は悔しそうに、キッと私を睨み退出していった。

 完全に主人を惑わす悪い女扱いされている。


「僕の側近が失礼した。彼女は普段はとても優秀なんだけど」


「アレン様が急に非常識な事をし始めたので戸惑っているのかもしれませんわね」

 その面では彼女に同情する。アレンとは違い、オリビアは教会の純粋培養で育っているはずだ。

 枢機卿として非常識な行動をとるのが嫌なのかもしれない。


 私は気にしてない、とにっこり笑う。


「僕が非常識?初めて言われた」


「それはおめでとうございます。話は変わるのですが、明日出来れば魔物と戦闘してしたいと思っているのですがよろしいでしょうか」

 ゲーム内ではボタン入力するだけだが、戦闘になると色々変わってくるというのがわかった。その違いをもっと知りたいのだ。


「うん、慣れておいたいいね。わかった、準備しておく」


「ありがとうございます」

 当たり前の様に付いてきてくれるのが少し嬉しい。


 私の返答に、少し意外そうにアレンは首をかしげる。

「今日は一人でいく、とかついて来なくていいっとか言わないんだね?」


「わたくしは、この間魔力を暴走させたばかりでしょう?アレン様がいなければ、わたくしは魔法を使うのも怖いのですよ」

体調が悪くて魔力が制限できなくなるとは知らなかった。私はその辺の知識がないのだから、誰かについてて欲しい。


「どうかされました?」

 ふと、アレンを見ると口を手で覆い俯いていた。


「いや、なんでもない」

「そうですか」

 しばらくして、アレンは顔を上げ笑顔を見せる。

「もっともっと貴女が、僕無しでは生きていけなくなるまで僕は君を甘やかそう、と今誓った」


 なんだそのゾッとする未来は。

「そうならないように、自分に厳しくしようとわたくしは誓いました





 翌朝私たちは王都(シフォン)の門を出て、少し離れた草原に来ていた。


たまに吹く、ひやっとした風がとても良い気持ちだ。

遠征日も間近にせまり、兵の士気も上々の様だ。それなのに、私がへなちょこでは付いてきてくれる皆に申し訳ないではないか。


 という事で、弱い魔物で肩慣らしである。私たちはこの間のダークウルフより一回り小さい犬型の魔物ドドッグを倒して回っている。

 私のメインは負荷魔法なので、前衛で戦ってくれているアレンの護衛に、様々な強化(バフ)をかけたり、隙あれば直接魔物を倒したりしている。


「チェルシー様は、お嬢様とは思えぬ太刀筋ですな。まるでいくつもの強力な魔物を倒してきたかの様な、そんな気さえいたします」

 年配の護衛ダニエルに褒められる。

 まぁ。実際にストーリーによっては攻略キャラ達と竜も倒してるしね。この辺の魔物なら私一人でも余裕を感じる。


 逆にもう一人の護衛のウィリアムはとても悔しそうだ。

「私より討伐タイムが短いなんて……」


「ウィリアムは実践経験が少ないだけです。もっと沢山倒せば弱点を正確につける様な立ち回りが出来る様になると思いますわ」


 偉そうに言っているが私は殆どオートプレイの様なものである。レイピアを出せば体が勝手に動くのだ。


「ウィリアム、落ち込むことはない、そもそも彼女のレベルは君を大きく上回っている」

 私のステータスをよく見る彼は、ウィリアムをフォローした。

「大きく……ですか。それなりに差はあると思っていましたが。なぜご令嬢がその様な力を」


「そうだね、それは僕も気になるところだけど、それも聖女の力ということかな?」


 私は、おほほほっと笑ってごまかす。聖女の力ではなく課金の力である。私は最低限しかレベルを上げていないけれどここの人達にしてみれば特出してレベルが高い。

 日が頭上高く登った所で、オリビアの声が聞こえた。


「皆様、そろそろランチの時間ですよ。どうぞいらして下さい」


 今日は、ピクニックの様に皆で座り籠に入ったお弁当を食べる。護衛のウィリアムだけは見張りに立ち、ダニエルが食べたら交代である。オリビアはアレンの横にぴったり座り甲斐甲斐しく世話を焼いていた。

 アレンは草原にきてからオリビアと一緒におり、少し離れた所で見守っていてくれた。それに私は少しピリついた感情を抱いていた。


 もう、ドドッグの討伐に参加しないからアレン様が戦っている所が見れないじゃない。


 私はまだアレンが戦っている所は見た事がないし実力もよくわからない。2人で喋ってないで、参加してくれればいいのに。オリビアもオリビアでくっつきすぎじゃないかしら?わざわざサンドイッチを口元に運ぶ必要ある?


 自分のサンドイッチをパクッと食べながら対面に座っている2人を見ていると、それに気がついたオリビアが私ににっこり笑う。

 何やら挑戦的な笑みに私も笑いかえす。


 アレンはため息をつき、口元に差し出されたサンドイッチを受け取った。

「オリビア、何の真似かは知らないが僕は誰かに食べさせてもらう様な赤ん坊ではない、やめなさい」


 アレンの嫌そうな顔に、オリビアは雷に打たれた様な表情をしている。

「申し訳ございません」


「最近の君はどこかおかしい。何か悩んでいる事が有るなら話を聞くよ。帰ったら部屋においで」

「はい!」

 オリビアの暗かった表情は一変して明るくなる。


 あぁ、オリビアはアレンの事が好きなんだわ。


 だからと言って枢機卿の彼とシスターの彼女では禁断の愛もいい所である。枢機卿は結婚することが出来ないので、恋が仮に実った場合、秘密の愛人という関係になるのだろう。


 そう言えばアレン様のエンドはどの様に終わったんだっけ?


 うーんと唸っていると、アレンが横に座った。


「難しい顔をしてどうしたの?」

「ちょっと、アレン様のことを考えていました」


 正直に口に出すと、アレンの頭がぼすっと肩の上に落ちてきた。


「どうしました?まだ背骨が曲がるお年ではないですわよ」

「チェルシーは、僕をどうしたいんだい?」


 絞り出す様な声が肩から聞こえる。

「そうですね、わたくしはまだ介護なんてしたくはないのでシャキッと座って欲しいです」

「・・・・。」

 アレンはのっそり頭を起こし、私に軽くデコピンをした。


「ぎゃっ、痛いです。びっくりしました、何をなさるのですか!」

「僕のやり場のない気持ちを君のおでこにぶつけてみた」

 私はおでこをさすりながら文句を言う。

「もう!やり場のない気持ちがあるなら吐き出して仕舞えばよろしいでしょう。わたくしは少しでもアレン様に恩を返したいと思っているのですから、そのくらいでしたら受け止めて差し上げます」


「ほんとうに?」

 アレンの目が獲物を捕らえる目に変わり、私はほんの少し後ずさる。


「ほ、本当ですわ!」


 すると、アレンの大きな手が髪の中に入り、私の頭を引き寄せおでこに口づけをした。


「ひゃっ」

 咄嗟の出来事に私は顔を赤くすることしか出来ない。


「あ、ああ、アレン様何をするのですか」

 声が震えるのを必死に抑える。


「受け止めてくれるんでしょう?でもまだまだ全部は無理そうだね」

 アレンは私の反応に満足そうにすると、頭に触れている手を動かし、撫でる。


 側近に見守られながらという、あまりの辱めに私は彼の胸板を押し逃れようとするがアレンは話してくれない。


 私はもうその状況に耐えきれなくなって真っ赤な顔を両手で隠し降参した。


「アレン様、ごめんなさい。わたくしには無理でした。デコピンで良いです」


 それは残念、と彼は言うとようやく離してくれた。

「もうわたくしは、人に合わせる顔がありませんわ」

「大丈夫、僕の側近は優秀だ」


 私がチラッと見てみると男性陣は何も見てません、という顔をしているが涼しい顔のダニエルとは別にウィリアムは真っ赤になっているよそを向いている。オリビアだけは震えながら下を向いていた。


 そうだよね、アレン様のこと好きなんだよね。でもそうだったら、もっと止めて欲しい。


「午後は〈聖女〉のスキルを色々試してみたいんだよね、ほらいこうか」


 アレンは、私にMP回復の薬を飲ませると私の手を取り草原の魔物が出るポイントまで向かう。


 護衛の2人が敵を引きつけ、私はレイピアを取り出した。

 歌を歌い、いつも最初に広がる淡い光をレイピア集まる様に意識する。レイピアの刀身が青く光輝くのを確認し、それをドドッグに向けて振り下ろした。


 ドドッグはレイピアが当たる前に、もっと言うと風圧だけで消滅してしまった。これではレイピアの威力が全くわからない。とりあえず1曲歌い終えるまでの約4分間使用してみてMPがどの位減るのか確認してみる。


 間奏などが無い分、曲が短くなるのが不満な所だが、アカペラでも恥ずかしいのに間奏部分を人前で口で歌うなど、酔った時でもなければできない。


 結果、小魚を出す広範囲魔法に比べ、殆ど魔力を使わない事がわかった。


「アレン様、威力も検証してみたいのですがダメでしょうか?」

 一撃で倒してしまうのでどの位ダメージが入っているの全くわからない。


「うーん、ドドッグ以上の魔物だと少し遠出になるんだよね。魔王討伐の遠征まで日もないし体力は温存しておきたい」


「そうですか、わかりましたわ」

 私だけが疲れるなら兎も角、アレンがいく以上側近は皆ついていくのだろう。巻き添いにはできない。


「では、次のドドッグにいきましょう。今度は暫く抑えてて貰っていいですか?」


 また歌を歌う。今度はレイピアではなく自分自信に淡い光を込める。手のひらが淡く光っている。

 私は抑えて貰っているドドッグに後ろから触る。ドドッグは苦しそうに暴れ始めた。

「チェルシー!?」

 アレンの叫ぶ声が聞こえる。


 これじゃ、ダメかぁ


 試しにえいっと抱きつく。


「んな!」

 護衛2人の目が驚きに染まる。


 今度はレイピアの時の様にドドッグは消滅した。

「やった!」

 それなりに効果あり!次は護衛なしで一人で触れるかやってみよう。



「チェルシー、何をしているんだ!」

 次のドドッグに向かおうとした時、アレンに手を引っ張られた。歌が途切れてしまった所為で〈聖女〉の効果が切れてしまった。


「何って、ドドッグをもふもふしにいこうと」

「丸腰で向かうなんてダメに決まってるでしょ!」

「いえ、今は私自身が武器と言えるので丸腰ではありませんよ」

 今見ていたでしょう、と私は首をかしげる。


「相手の攻撃を受ければ怪我を負う」

「その為にアレン様がいるのでしょう?」

 私も痛いのは嫌いだ。でもアレンの力ならば傷を負った瞬間、癒してくれるはずだ。だって前にダークウルフに噛み付かれた時も気がついた時には傷一つなかった。


「ドドッグの攻撃なんてたかが知れています。むしろ私は少し血を流してその効果も試してみたいと思っているのですが」


「ダメに決まっているだろう!」

 アレンは真っ青になり、本日は強制撤収となった。


 帰りの馬車でひたすら説教をされ、絶対試してはならないと約束させられた。


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