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来客

 翌々日の昼前、レイ殿下が突然見舞いにきた。目が覚めたこの部屋は、教会の客室でアレンの隣の部屋だった。


 殿下自ら街におりてきた事に驚いたが、そういえばこの人はゲーム内でもよくお忍びで街に出ていた人だったのを思い出した。今日は側近を連れているが、いきなりきたレイ様を出迎えた神父の心境は大変なことになっていただろう。


 気を失っている間、アレンが治療を施してくれたお陰で私は元気いっぱいなのだが、念の為数日は療養しとくように言われた。久しぶりの暇を持て余していたので誰かと話し出来るのは嬉しい。


 挨拶もそこそに、私の部屋にきた王子は席に着く。


「私はこんなに頻繁に枢機卿にお会いする事になるとは思わなかったぞ」

「すみません」

 今回の私のやらかしで、アレンと殿下は方々に報告や根回しをしたようだった。

 それに、私が招待されたレイ主催のお茶会にアレンが顔を出したようだ。姿を見せなくなった私も、流石にここには出席するだろうと思っていたアレンの予想は裏切られ、何か私の身に起きたのだろうと私を探し出すのに手を尽くしてくれたらしい。


「母上は其方がいないと拗ねていたが、枢機卿が宥めて下さったので、お礼を言っておくように」


 母上と言うのは、皇太后の事である。

 私は血の気が引くのを感じた。改めて重要なお茶会をすっぽかしたのだと思わされる。


「重ね重ね、有難うございます」

 私は隣に座っているアレンに頭を下げる。アレンはこの話し合いに限らず、四六時中私の側に居たがる。そんなに過保護にしなくても良いのだけれど。


「問題ない」

 彼はそう言ってお茶を優雅に飲む。

「私はあんなに上機嫌な母上は初めて見たぞ」


 この人は、各所で人気のある人なんだな。


 アレンは今まで貴族とは必要以上に繋がりを持たなかった分、今は面会依頼が殺到しているとか。


「それで、この間の事はどの様な扱いの案件になっているのですか?」

 私がレイ殿下に尋ねると、殿下は、にやっと笑い話してくれる。


「魔王復活を受け聖女が現れ、まず街の浄化を行なった事にした」


 それに対してアレンは少し苦い顔をして捕捉した。

「チェルシーの魔法は貴族街にも広がっていったし、貴女が魔法を撒き散らしながら走り回っている姿を見たものは多い。貴族からの追求を交わすのにそれ以外に丸く収める方法がなかった」


 みっともなく走る姿を多くの人に見られていた様だ。お恥ずかしい限りである。

「そう言えば、スラム街にいた方々は無事でしたか?」

 彼らが居なければ私は適当に魔物を散らして逃げる事も出来た。折角守ったのだから無事でいてくれなくては困る。


「あぁ、あの情けない連中の事か」

 アレンは黒い笑みを浮かべる。

「僕が見た時には、腰を抜かして動けなくなっていたよ。念入りに事情聴取し教会で処ぶ……処理をした。」


 この人今処分って言おうとした……。


「わたくしが一生懸命守ったのです、それを忘れないでくださいね」


「貴女が死ぬ気で守ったと言う彼らを、私は忘れる事はなさそうだ」


 えっ!?今気に触るところがあった!?


 ゴホン、と咳払いし王子が話の本題に戻る。

「教会や国が聖女と認めたからには今度の遠征は其方を魔王討伐の旗頭にする事になる。勿論護衛の騎士は腕の良いものをつけよう。良いか?」


「わたくしは元々魔王に会いに行くつもりだったので、そこまでは良いのですが……」

 そこで言葉を切り、思考を巡らす。

 旗頭になると言う事は、責任を負うと言う事だ。私は討伐、と言いながらも必ず討伐する必要はないと思っている。何故なら魔王は攻略キャラクターだ。悪い人物でないはずだ。

 ただ、このレイの確認は拒む事は出来ない類の物だし、私は2人に恩がある。


「そうですね、魔王と対峙する際は最初はわたくし一人に任せて欲しいです。それと魔王の後始末に関しても。それで聖女として旗頭になる事をお受けします」


 これなら、どの様な結果になってもある程度融通が利くだろう。


「魔王の後始末?私はそれで構わぬが」

 レイはチラリとアレンを見る。


「アレン様は元々わたくしに、魔王討伐を、と言われていました。特に問題はないはずです」

「僕は君に一人で魔王に対峙しろとはいっていない」


「最初だけでもいいのです。わたくしにも聖女としての事情があります。どうぞお任せください」


 こればかりは譲れない。魔王と一度話してみなければ。悪くない人なら一方的に攻撃などしたくない。


 にっこり笑って拒絶すると、アレンは苦い顔をした。


「では、チェルシーには僕と〈情報共有〉(インフォメーション シェアリング )してもらう。これで君のステータスが僕からも見えるので、なんらかの異常が見受けられた場合は即、僕も介入する」


「わかりました」

 それだけでアレンが納得出来るなら安いものだ。

 アレンは少し目を見開き、周りの人間もぽかんと私を見つめる。

「本当にいいのか?」


「アレン様が提案したのでしょう?今更ダメと仰るのは無しですわよ」

 私がムッとしていうとレイはアレンに視線を送った。

「もしや、この娘はわかっていないのではないか?」


「ちゃんと、わかっております」


 アレンは妙な顔をしているが、ゲームの操作画面で味方のステータスはいつも見てきたので別段珍しいものではない。


 それよりも魔王戦だ。戦闘に持ち込むつもりはないが、もしそうなった場合はそれまでにケリをつけなければ。



「なんだか面白そうだ。チェルシー、私も魔王討伐に行こう!」

「何をいっているのです!」

「ダメに決まっているでしょう!」

 レイが面白そうに目を輝かせると、護衛と側近がぎょっとして同時に即答した。

「殿下が前線に出るなど!何があるかもわかりません」


 レイと付き人はぎゃあぎゃあ揉めている。だかしかし、私はそれどころではない。何故なら推しから名前を呼ばれたからである。叫びたい気持ちを抑え込むに精一杯だ。


 はぁ、推しのいる人生って最高。



「殿下はいつのまにチェルシーを名前で呼ぶ様仲になったのです?」

 頬に手を当てうっとりしているとアレンが不満そうにレイ王子を見た。

「ふむ、どちらかというと枢機卿がそう呼ぶから、私も移ったという方が正しいな。そう警戒しなくていい」

「僕からですか……。」


 2人の雰囲気が大分柔らかくなっている。ここ数日よく顔を合わせ、協力していたからだろう。主に私のせいだけれど。

 その後少し歓談した後、彼は帰っていた。

 お見送りした後アレンは真剣な顔で私に話しかけた。

「チェルシーは殿下を……」

「?」

「いや、よそう。なんでもない」

 そう言って彼は、少し寂しそうにした後自室に戻っていった。



 昼食を済ませ、のんびりする。何もしなくてもご飯や洗濯、掃除が終わるのがなんて有難い事か。寄付金を多めに払おうとしたら神父に断られたが、やはり気持ち的にはもっとお渡ししたいし、お礼がしたい。


 教会の中庭でアレンと今後の予定を相談していると、教会の入り口で大きな声がするのが聞こえた。


「何があったのでしょうか?」

 私が不思議そうに首を傾け声のする方を見ると、視界の端にげんなりした顔のアレンが映った。


「どうしました?」


 答えはすぐにわかった。猛烈な勢いで1人のシスターと2人の男性の護衛がアレンの元へ駆けてきた。その後に困った顔の神父が続いている。アーロン神父はアレンがここに転がり込んだせいで大体困った顔をしている。かわいそうな人である。



「猊下〜!!!!」


 シスターが泣きながら、アレンの腕にしがみつき、私は固まる。


「どうして勝手にいなくなってしまったのですか〜!!お探ししたのですよ!今までお困りの事は御座いませんでしたか?私にキチンとお世話させて下さいっ!」

 どうやらアレンの側近達のようだ。


「アレン様、わたくしのこと何も言えないではないですか」

 この調子では黙って出てきたに違いない。

「僕は貴女と違って、置き手紙を置いてきた」


 これだけ困らせているなら、一緒でしょうに。


「猊下。聖下に会われて自室に私達を下がらせた後、暫く休暇で本部を出るとだけ残して姿を消せば私共は困ります」


 男性の護衛2人は跪いているが、怒っているのがわかる。


「あれだけ、あちこちに顔をだしたんだ。君たちが来ると思っていたよ。チェルシー、話を中断してすまない。彼らは僕の側近達だ。」


 アレンはシスターの手を腕から丁寧に剥がした。彼らはゲームでも見たことがなかった。


「わたくしはチェルシー・シュガーレットです。アレン様がいつも一人でいらっしゃるのを不思議に思っていました。彼を止められる者が現れたことに、やっと安心できました」


「猊下をとめる……?」

 不思議そうな顔でシスターは呟く。

「あなた方のお名前を教えて頂いてよろしくて?」


「はい、私はオリビアです。アレン様が教会にいらっしゃった頃から私がお世話をさせて頂いてます」


 にっこり笑った彼女の顔からは愛嬌のよさを感じる。私より少し年上くらいの可愛らしい人で茶色の髪を三つ編みにしている。


「ウィリアムと申します。私は猊下付きになりまだ日が浅いですが猊下のことは、命に変えてもお守りします」

 青い髪をした青年だ。真面目そうな性格である。

「ダニエルでございます。私が側近の筆頭となりますので、アレン様に何かありましたらお声がけ下さい」

こちらの護衛は頼りになりそうな年配の男性だ。物腰も洗練されている。


 チェルシーはこくりと頷く。

「貴方方に会えて嬉しく思います。アレン様良かったですわね!」


「チェルシーは本当に嬉しそうだな」

「ええ、それはもう!皆様でお話しすることも沢山おありでしょう。わたくしはもう部屋に戻りますわね」


 嬉しい気持ちとは別に急に生まれたもやもやした気持ちが胸を埋め尽くし、急いで自室に戻った。何故こんな気持ちが生まれたのかは自分でもわからないことをとても不安に感じた。


 嬉しいはずなのにどうして?


 目に浮かぶのはアレンとオリビアの姿だった。


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