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恋人

 私達は船に乗る。数えるのが面倒な程白い帆がありマストが4本もある一度は憧るクラッシックな帆船だ。しかし、豪華な作りながら平民、といっても富裕層にだが、人気の船なので私とアレンは相変わらずローブで参加する。近場にあるいくつもの島や港を巡り最後にこの港に帰る行程のようだ。


「アレン様、待っていたわ!」

 船に入るとホールには綺麗な格好をしたフレイヤがいた。


 フレイヤやっぱり来たわね!


 私はアレンのローブの裾をつかむ。

 フレイヤはにっこり笑い、手を差し出した。

「エスコートして下さい」

 アレンは大きくため息をつきフレイヤの要求を柔らかく断った。

「僕はこんな格好だから」

「脱いで仕舞えばいいのに」

「僕の地位は人に気を遣わせてしまうみたいだからね。仕方がない」


 困った顔をするアレンの腕にフレイヤはくっつく。


「そのお顔を素敵だわ」


 その気持ちはわかるけども!

 くっつきすぎじゃないかな!


 私は負けじとアレンを誘う。

「アレン様、折角ですから甲板で海を眺めませんか?」

「いいのよ、ルーシー!どうか婚約者様とゆっくりして。アレン様は私が見ておくから大丈夫よ」


 ぐぬぬっ。


 確かに私がアレンとベタベタするのはおかしい。昨日だって二人で食事している所を見られたのだ。


「……では、お言葉に甘えてわたくしはカークと海を見てきますわね」


 私の眉が怒りでピクピクと動く。


 あぁ、海に向かって叫びたい!あれもこれも全部エリスの所為なんだから!



「アレン様をよろしくお願いします。特に口に入るものは……」


 この間媚薬盛ったのわかってるんだからね!アレン様が貴女に怒らないのは騒ぎを起こしたくないからなんだからね!


「ふふ。大丈夫よ。私に任せて」


 いやいや、それが心配なんだけど。アレン様のステータスを小まめに確認しよう。ダニエル。フレイヤをちゃんと見張っているのよ!


 私が合図を送るとダニエルはウインクを返してくれる。頼もしい人である。


 表面上は笑顔を繕っているアレンと別れ、私は船内を探る。


 船が大きく揺れ動き始めた。私とカークは二手に分かれ捜索することにした。船の乗客は100人程いたがそれらしき人物はいない。

 このフェリーは日帰りの為、貴族用に個室が少し有るだけだ。もしかしたらそこに隠れているのかもしれない。


 私は少し休憩しに甲板にあがり景色を見に行く。


「わぁ」

 よく晴れた空に海鳥が飛んでいる。観光客から餌を貰っているのか船の後について飛んでくる鳥も何羽かいる。


 船なんてそうそう乗るものではない。自然と胸がときめいてしまう。ただ1つ問題なのは……。


「寒いってことよね」

 もう冬が始まる。吹きっさらしになっている甲板は寒い。

 思わず二の腕をさすると肩に優しく毛布を掛けられた。


「えっ?」

 アレン様!?少し期待して顔を上げるとそこにいたのは仮面の君だった。


「チャールズ様?」

「御機嫌よう、昨日ぶりですね」

「よく私だと分かりましたね」

「目が悪い分、気配や魔力を人よりも感じる事が出来るんですよ」


 ノエルみたいなこと言うなぁ。

「昨日は突然帰ってしまってすみませんでした」

「いえ?貴方の魔力は実に心地が良かったです。是非またお見せ頂きたい」

「そんな大層なものではありませんわ」

 私は笑って誤魔化す。あれは〈聖女〉の魔法だ。ここでは披露できない。



 すると、後方で聖女様!と呼ぶ声が聞こえた。

 ドキリとし慌てて振り返るとその声は私ではなく、フレイヤに向けられていた。


 後ろにいたアレンとフレイヤは2人並んでいるのを見てみると、とてもお似合いだった。聖女と呼ばれ笑って応えるフレイヤが今はとても羨ましい。



 なんだか自分の居場所を取られたような気持ちになり私は目をそらす。


 すると、仮面の君は私にささやいた。

「歳の頃も同じくらいかな?二人からとても和らいだ空気を感じるよ」

「そうでしょうか」

「街の人々もそうなる事を望んでいるしね」


 私は街で出会った人々を思い出した。彼女が人気者なのは間違いない。


 フレイヤがいるだけで街の人々が安心し、健やかに暮らせるのならそれは私とは違うタイプというだけで、彼女も聖女と呼ぶべきなのかもしれない。


 私が二人をぼーと眺めていると、仮面の君は唐突に私の手を握った。

「僕が側にいるのに……」

「え?」


 丁度船は最初の小島にとまり、私は仮面の君に手を引かれる。

「おいで、ルーシー」


「あの、わたくし婚約者が」

「それ嘘だろう?」

「えっ!?」


 いきなりいい当てられて頭が真っ白になると、仮面の君はくすくす笑った。

「わかるよ」

 私は肯定も否定も出来ず押し黙る。


 私達は船を出て小島に出ると舗装された道を散策する。


「風が気持ちいいですね。あ、お手を引きしましょうか?」

「では、お言葉に甘えて」


 花が咲き乱れる小道を歩く。

「紫の花が咲き乱れてますよ」

「この香りは桔梗だね」

「よくお分かりになりますね」

「この植物は薬にも使えるからね。庭にも咲いているんだ」

「まぁ、チャールズ様は薬師なのですか?」

「うん。薬師の仕事は大好きなんだ。薬草には誰よりも詳しい自信があるよ」


 それって……。


「もしかしてフレイヤが持っていた聖水は」

 そこで私は慌てて口を抑える。

 合ってても、違ってても失礼だ。


「ふふ、そうだよ。私があげたんだ」

「まぁ、すごいです!他にも色々薬があるのですか?」


 食いつく私にチャールズは笑みを浮かべる。


「そうだね。君は薬に興味があるの?」

「はい!魔力を体の負担なく沢山回復出来る薬などはありますか?」

「市販薬よりは良いものが用意できるけど割高になるかなぁ」

「そのお話詳しく是非教えてくださいませ」


 この人の薬の効果は昨日見た。きっとすごい薬師に違いない!他にどんな薬を持っているのだろう。


 私は、いつの間にか仮面の君の両手を握りしめていた。


「ルーシー様?」

 フレイヤの声が聞こえ、恐る恐る振り返るとそこにはアレンがいた。


 笑顔だけど、目は全然笑っていない。


カーク(婚約者)がいるのに、他の男性と親密に話していてはダメよ」


 いやいや、貴女が言うのはおかしくない?私の婚約者に手を出してるのは貴女でしょう。


 しかし、そうは言えない。それにフレイヤの言うことにも一理ある。


「失礼いたしました」


 私はすぐに手を離す。私の態度に満足した顔をしたフレイヤは笑顔で私を嗜める。

「それに、アレン様ともいつまでも親密でいるのも良くないわ。もう婚約なさったのでしょ」


 昨晩の事を言っているのだろう。フレイヤは多分私が聖女だと気付いている。しかし、カークと私が恋仲にあると思っているのだろう。



 私はイライラを精一杯抑える。だめだめ、これじゃ八つ当たりよ。フレイヤはアレン様とのことを知らないのだから仕方ないじゃない?



「ルーシー……?具合が悪いなら戻ってろよ?」

 カークは私の怒気を感じ取ったのだろう。恐々と私を呼びかける。


 それを聞いたフレイヤは少女のようにはしゃいだ。

「うふふ、ステキな婚約者様ですわね。私は愛する人とちゃんと結ばれることが出来るのかしら。もうそろそろ私も好きな人くらい見つけなくっちゃ」

 アレンをちらちら見るフレイヤはとてもあざと可愛い。酒場の男性がやられたらイチコロだっただろう。




 カークの婚約者と偽って入領するなんて作戦を考えたのはどいつだ。



 自分のことを棚に上げて悪態をつく。


 だめだめ、我慢しなくちゃ。


 体に巡る魔力が燃えるように熱い。


 ふと気がつくと、視界の端にチラチラと青い光が見え隠れしているのが見えた。


 ん?なにこれ。


 体全体から青い光が溢れていく。


「あ、貴女それは……なに?」

 フレイヤは私を見てアレンに抱きついた。


 私の魔力は、ノエルのようにそれだけで人を威圧させる性質のものではない。ただ、人から魔力が溢れ出るというのは普通の人間が出来ることではない。


 あっ、またくっついて!


「いけない」

 アレンは慌てて私の腕を掴む。私の暴走しかける魔力を抑える為だろう。

 しかし、私はその手を掴み返し、アレンを引っ張った。


「あぁ!もう我慢なりません」


 どうせ、昨日の一件でフレイヤは私の正体に気づいているだろう。私はフードを外し、フレイヤを睨みつけた。

 フードを外したことにより青い光がより外に漏れ、雪の様に漂う。


「アレン様はわたくしのものです!いい加減ベタベタと触るのはやめて下さいませ!」


 私の顔をみてフレイヤは目を見開き口をパクパクさせた。

「一体、なんのことだか……」


 彼女も聖女なのかもしれない。それでも!


「わたくしはチェルシー・シュガーレット。アレン様がわたくしの恋人です」


 アレン様は絶対渡さないんだから!



 固まるフレイヤの後ろでカークとダニエルが頭を抱えているのが見えた。


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