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聖水

前半はエリス視点となります

「一体どういうことよ!」

 (フレイヤ)主人(あるじ)を店の外に連れ出し路地裏に着くと叫びはじめた。僕はそれに耐えきれず主人の前に立つ。


「チャールズ様がいなければ何も出来ないくせにその口のききかたはどういうこと?」

「うるさいわね、エリスは黙っていて」

「はぁ!?」


 僕はうさぎのぬいぐるみを握りしめる腕に力が入る。フレイヤと怒鳴り合っていると主人は自らの口元に人差し指を当てた。

「2人とも」


 僕は押し黙る。主人に嫌われたく無い。


「フレイヤ、悪かったね。本物の聖女の力を感じたくてね。仕込んだ毒を変えさせてもらったよ」

「そんな……。やっぱりあれが本物の!?ううん、そんなことより、すぐ私の噂が回るわ。アレン様に聖水の力を認めて貰うはずだったのに。どうしたらいいのかしら」


 聖女がいる、と気がついたのは僕だ。主人の役に立てて鼻が高い。それにしても、この女はいつだって自分のことばかりだ。しかもなんで面倒を見てもらっている主人より枢機卿なんかを気にするかなぁ。


「お前なんて相手にして貰える訳がないでしょぉ」

「そんなことない!身分なんてあの方は気にしないわ」

「身分どうこうの問題じゃ無いと思うけど?その自分大好きちゃんどうにかしたらぁ?」

「うるさい!」


 フレイヤが手を振り上げ、僕も腕にある仕込み刀を手に持つ。


 すると、やはり主人に止められた。

「フレイヤ、聖女は僕がなんとかしよう。彼女が居なくなれば君がこの国の聖女のポジションにつけるかもしれない。僕は惜しみなく君に聖水を援助をするよ。明日、どうにか聖女をこのクルーズ船に乗せることは出来るかな?」


 主人は数枚のチケットを取り出した。


 女は顔を輝かせる。

「流石チャールズ様、話がわかる方だわ!まかせて」

 女はチケットを受け取り、僕に向かって舌を出す。


「では、また明日」

「ええ。それじゃあね」


 女はそう言い残して夜の街に消えていった。


「シャルル様ぁ、本当にあんな頭悪そうな女でいいんですか?」


 僕は仮面を付けた主人をシャルルと改める。チャールズとこの街では名乗っているが、これは偽名だ。あの女もこの方が本当はロゼの国の侯爵令息なんて知らない。


「もう時間がない。最悪フレイヤを聖女として連れ帰り、担げばいい」

「僕はあの女に仕えるなんてごめんですけど」

 想像するだけで吐き気がする。


「君が失敗するからだろう?」

 僕はぞわりとしたものを感じ頭を下げ膝をついた。


「申し訳ございません」


「そういえばね。スフィア国からロゼの国にね、問い合わせがきたそうなんだ。特殊な毒を使い聖女を誘拐するよう唆したロゼ大国の者がいたらしい。毒に詳しい者に心当たりがないか、と」


 心臓がどくんと跳ねる。


 毒の存在までバレているのか。あの公爵令嬢、どんなヘマしたんだ。


 毒といえばシャルル様だ。ロゼの国でそれを知らない貴族の者はいない。


「勿論、僕は何も知らないけれど。エリスは何か知ってる?僕のせいにされたら困るなぁ」


 あの毒は魔剣と一緒にロゼの国を出る際にシャルル様から直々に貸して頂いたものだ。しかし、ロゼ王家の者にシャルル様の弱みを握らすことになるのなら……。


「勝手にシャルル様の毒を持ち出した者がいるのか調べ処分します」

 声が震える。


 自分もここまでか。


「うん。よろしくね。聖女を連れ去るまでには片付けといて。エリスなら出来るよね?」


 シャルル様は仮面を取りにっこりと僕に微笑みかける。


 その笑顔を見てハッとする。この人の為になら何でもするって決めてるじゃないか。


「任せてください」

「ありがとう。君はやっぱりいい子だね」



 

   *・*・*・*・




「あれは、僕の魔法が聞かないほど強力な毒だった」

「毒?」


 アレン様の魔法が効かないなんてどう言うことかしら?それにあんな所で毒殺を試みるなんて。


「あそこまで強力な毒なのに即死はしなかった。直ぐに死なないよう調整されていたように思える」

「それって……?」

「あの客が狙われたというよりは、誰かが聖女の力を試したようだと僕は感じた」


「まさか、フレイヤが?」

「いや、彼女は解毒出来なかった。彼女はわざわざ自らの失敗を晒してまで君を試すような真似はしないだろう。それに君が聖女だとフレイヤは気づいていなかった」


 確かに。


「兎に角、兵に報告して調査してもらうよ。毒殺を図った人物がいるのは間違いないからね。君の身分がバレると厄介だ。明日朝一番には一度王都に帰ろう」

「はい」


 不満だが、仕方がない。


 アレンは私をホテルへと送り届けた後、カヌレ領の城へとむかった。





 翌日、私達はフレイヤに見つからぬようこっそりホテルを抜け出す。しかし、それは失敗に終わった。

「アレン様、おはようございます」

 にこにこしながら、ホテルのロビーに座っていたフレイヤに捕まってしまったからだ。


「よくここが分かったね」

「うふふ。友達に聞けば一発よ」


 フレイヤの情報網はどうなっているんだろう。

「待っていてくれた所ごめんね。実は直ぐに帰らなくてはいけなくなってしまってね」

「そんな。折角探していた方の情報が入ったのに」

 フレイヤは目を潤ませた。


 エリスの情報!? 

「教えてくださいませ」

 私が食い気味に言うと、フレイヤに嫌な顔をされた。


「どんな情報?」

 アレンが問いかけるとフレイヤは一瞬で笑顔に戻る。



「実はこのクルーズ船のチケットを買っていたという話なの。お役に立てばと思い手配しておきましたわ」

 差し出されたチケットを見るとクルーズ船はカヌレ領近くの小島を1日かけて巡る航行のようだ。

「残念だけど……」「行きましょう」


 断りかけたアレンの言葉を私が遮る。

「これ絶対怪しいと思うけどなぁ」

 アレンがこそっと私に話しかける。

「大丈夫です。わたくしとアレン様なら」

「フレイヤが全くの嘘をついている可能性もあるよ?」

「どうせ手かがりが無かったのです。乗ってみるのも1つの手ではありませんか?」


 アレンはため息をついて、フレイヤからチケットを受け取った。


「ありがとう。行ってみるよ」

「お役に立てて嬉しいわ」


 こうして私達4人は港へと向かった。


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