カヌレ領②
お昼を食べた後、私達は教会へ挨拶へ向かう。
フレイヤと共に。
「何故君が付いてくるんだ」
「え?だって仕事が終わったんだもの。市民が教会に行くのに理由が必要?」
フレイヤはアレンに冷たい顔をされてもものともしない。その辺は尊敬してしまう。
「やぁ、フレイヤ。今日も教会かい?」
通りすがった商店の叔母さんが話しかけてくる。
「ええ。私に出来ることは全部したいの」
「頑張るのは良いがあんたが倒れちゃ元も子もない。ほら、りんごでも持ってきな」
叔母さんはフレイヤに向かってりんごを1つ投げた。
「ミーヤおばさん、ありがとう」
その後度々フレイヤは呼び止められ教会に着く頃には両手で持ちきれない程の荷物を抱えることになった。
教会に着くとフレイヤはいの一番に神父の元へ駆け寄る。
「神父様!本日の怪我人の調子はどうでしょうか?」
「やぁ、フレイヤ良く来たね。昨日、魔物に切りつけられた患者はもう大分落ち着いたよ。今日は何人か貿易船から患者が運ばれてきたから一緒に見てくれないかい?」
カヌレの街の神父は少し恰幅の良い40代くらいの男性だった。フレイヤとずいぶん仲が良さそうだ。
「任せて!あぁ、これ教会に来る途中で貰ったの。教会で食べて」
フレイヤは貰った食べ物を全部教会に寄付をした。
「いつもありがとう、フレイヤ。ところでそちらの方々は?」
神父は入り口にいる私達に目を向ける。
アレンはフードを取った。
「久しぶり、神父」
「しゅ……首席枢機卿!!お待ちしておりました」
神父はすぐ様膝をつく。
「忙しそうだな」
「はい。港町ですので、航海中に海の魔物にやられたものが毎日のようにきます」
神父はフレイヤをチラリと見て、アレンに小声で話しかける。
「やはり、この度の視察はフレイヤですか?」
「いや、彼女ではないよ」
神父は不可解そうな顔をした。
「それではどうかこの視察で彼女の聖女としての資質も是非みて頂きたい。私が保証致します」
「神父がそこまで言うのなら。見るだけなら構わない」
「ありがとうございます」
神父の顔が輝く。
聖女を見つけたとなれば箔もつくことだろう。
「では、まず病床へ」
「わかった。お前達はここで待て。ルーシーは付いておいで」
アレンはカーク達に待つように言う。私はルーシーという偽名を再び使うことになった。
「そちらの方は?」
神父の疑問にフレイヤもまじまじと私を見る。
「私の助手だ」
アレンは適当に答える。
「あぁ、あなたシスターなの?」
助手ならばそうなるだろう。私は頷く。
「あら?でもその方の婚約者なのよね?アレン様の助手でシスターで婚約者……?」
うっ、設定がめちゃくちゃになっまった!
「あぁ。彼と婚約し、これからロゼ大国に向かう途中の元シスターなんだ。僕の助手だったから病気には明るい」
アレンはあたかもそれっぽい設定を作る。
「まぁ!そうだったのね。ルーシー、遅くなっちゃったけど、ご婚約おめでとう」
フレイヤは喜んでくれるが私は複雑な気分だ。
そして私達は病棟へ向かう。同じ船の者だろう、魔物に深手を負わされた者が数人横たわっていた。応急処置は既に終わらせており、シスターが忙しそうに動き回っている。
「大変ですね、私に任せて下さい」
フレイヤは前に出る。アレンは患者の手を触り、状態を確認した。
フレイヤはポシェットから透明の水が入った瓶を取り出した。
「それは?」
アレンの問いに神父が自信満々に答える。
「彼女が作り出した聖水です」
フレイヤは優しく患者に語りかける。
「安心してください、これが飲めますか?」
優しく患者を抱き起しゆっくり聖水を飲ませた。
「あと1時間も経てば楽になるでしょう。そこまで頑張って下さい」
「はい」
患者の男は痛みに耐えながらもゴールが見えたことで表情を明るくした。
「どうです!?素晴らしいでしょう!?」
神父は興奮気味にアレンに詰め寄った。アレンはステータスを確認した後、包帯で巻いた傷口を確認する。
「傷は全く良くなっていないみたいですが?」
「そんな直ぐに傷口は塞がるものではないでしょう?」
神父の言葉にアレンは眉根を寄せる。
アレンが先程の患者の元へ行き、治癒魔法をかける。傷口に触れないよう手をかざすと、傷はみるみる塞がっていく。完全とはいわないものの、これなら自宅で療養すれば治るだろう。
「すごい……」
「流石猊下です。やはり私共とは比べ物にならない」
フレイヤと神父はアレンの魔法を惚れ惚れと見る。
「いや、それでも僕も聖女には敵わない。聖女は奇跡さえ簡単におこせる。君にそれが出来ない」
アレンはフレイヤを見る。
「まだ……!まだわからないでしょ?私がその力を引き出せていないだけかも知れないわ。判断するのはもうちょっと待って欲しいの」
「では引き出せたら、また教会に知らせてね」
アレンは他の患者を次々と診ていく。私が出る幕は無さそうだ。
壁にもたれ掛かっているとフレイヤが呟く声が聞こえた。
「私、諦めないわ」
フレイヤはキラキラとした瞳にアレンを映した。




