入領許可
私達は城の会議室に集まった。レオン帝国の者も一緒である。まず最初に、森への不可侵について書面にサインをしてもらう。これは私とオーウェンの個人間での取り決めになる。レオン帝国がまた攻めてくる可能性はあるが、国家間の正式な条約を結べるのは王だ。とりあえず今はこれでいい。
私の隣にはノエル。向かい側にはオーウェン、老人が座る。
スティーブはお茶を出し、お茶請けにはチョコレートを出した。
「お前達に初めて会った2日後、ロゼ大国の使者にあった」
「..........」
もはや私はそれに驚きを感じない。
「聖女を手に入れたら俺の後ろ盾にロゼ大国の侯爵がつくと書状まで携えてやってきたがな。女を売るなど俺の信念に反する。テントからすぐ様叩き出してやったのだが」
オーウェンはちらっと爺を見る。
「申し訳ございません。しかし、そんな綺麗事だけでは王の座には届きません。オーウェン様の協力者は多いに越したことはございません」
「それで私の引き渡しはどの様にするてはずだったのですか?」
「聖女を手に入れたら森を手に入れたも同然。城にレオン帝国の旗を取り付けたら森の入り口に使者を出すと」
「そうですか」
この城を一時的とはいえレオン帝国のものと主張するわけにはいかない。誘き出し作戦は無理だ。
「それでどこの貴族でしたか?」
「カシャッサ侯爵といったか」
「因みに使者と言うのは」
「名乗りはしなかったがピンクアッシュの髪をした、小柄な少年だった」
やっぱり!!
私の実家での出来事もエリスのせいだ。私はゆらりと立ち上がる。
「どうした?チェルシー?」
「あまりのしつこさに頭にきました。殴り込みに行きましょう」
恐らくまたカヌレ領に戻ったに違いない。いつになるか分からない入領の手続きなどしていられない。
「何かあったらレオン帝国も力になろう。今回の詫びだ」
「それは心強いです。ありがとうございます」
私はレオン帝国の者達を見送るため外に出る。すると門を出た沿道にはクロエが設置してくれた旗がはためいていた。
「今度は正規の手続きを踏んでお会いしましょう。オーウェン様」
バタバタ音を出して揺れる旗の下私は丁寧にお辞儀をする。
「あぁ」
そして私はノエルの元へと急ぐ。
「お願いします、わたくしをシュガーレット領まで送って下さいませ」
「構わんが、休まなくていいのか」
「そんな暇はありません。ふふふふ、待っていなさい、エリス。どんな手を使ってでもカヌレ領にいきますわよ」
私の目つきにスティーブはひっ、と小さい悲鳴をあげた。
「聖女様!」
部屋に飛び込み私を呼び止めたのはクロエだ。
「クロエ様。予定より少し早いですがわたくしは出かけます。ベルコロネの森をどうぞよろしくお願いします。 スティーブは買い出しや人間との業務、契約など2人では出来ないことを助けて差し上げて下さい」
追放された悪役令嬢と魔王では人前に出るのは難しい。彼なら潤滑油として上手くやってくれるだろう。
「かしこまりました」
しかし、クロエは首を横にふる。
「仕事の話ではありません。その……ここに居て、貴女が何故聖女と認定されたか少しわかりました。魔力が多いだけ、と以前言ったことは取り消し致します」
クロエはきまりが悪い顔をして俯く。その仕草に私はクスリと笑う。
「そうですか。わたくしは貴女が公爵令嬢としていかに努力をしていたか、わかった気がいたします」
物の良し悪しも、ブランドの立ち上げも、旗のロゴのデザインも私には出来ないことだ。
クロエは目を少し見開いた後、静かに部屋を出ていった。彼女は今、過去の自分自身と戦っている。
ノエルの話では、最近ポツリポツリと自分がしてきたことを彼に話しているという。ノエルはあまり人間に興味がないので、クロエも話しやすいのかもしれない。
反省している、とまではいかないものの、過去を振り返って自分の行いを考え始めているようだ。
公爵令嬢の地位が無くなりただのクロエとなった彼女がどう生きるかは彼女次第である。
「森を暫く、お願いしますね」
「あぁ」
ノエルはポンと頭の上に手を置く。そして私は一人シュガーレット領へと飛び立った。
3日後、アレンは王都の教会へと帰ってきた。私は教会に居座りアレンの到着を今か今かと待ち構えていた。
「アレン様!おかえりなさいませ!」
「チェルシーただいま。何か問題はなかった?」
「特に何もございませんでしたわ」
私の笑顔に疑惑の目が向けられるが気にしない。
「わたくしは一刻も早くカヌレ領に行きたいのです。ですが、入領の申請がどうやっても通りません。なにやら1年くらいはかかるとまで言われてしまう始末です。これは最終手段を使うしかありませんね?」
「申請が通らない?君は一体何をしたんだ?嫌な予感がするよ」
申請が通らないのは私のせいではないはず!
私は客室へとアレンを案内する。
扉を開け中にいる人物を目にしたアレンは汚物を見る目に変わる。
「なぜこいつがここに?」
そこに居たのはカーク・ウィルソン。シュガーレット領にて私との婚約騒動を巻き起こしたロゼ大国の商人の息子である。
「彼の婚約者として入領しましょう」
「はぁ?」
冷たく響くアレンの声にカークは縮こまる。
「カークは私と婚約出来たら、カヌレ領から船に乗ってロゼ大国に帰る予定だったそうです。ご大層にロゼ大国名義で彼の婚約者としての許可証を用意しておりましたわ」
万が一チェルシー・シュガーレットの名で出国等をとめられない為だろう。
「君が一時でもこの男の婚約者として振る舞うのは納得できない」
「どうしてもカヌレ領に行きたいのです」
私が期待の眼差しをアレンに向ける。
「じゃあ、僕のお願いを一つきいてくれたらいいよ」
「わたくしに出来ることでしたら何でも!」
「なんでも?約束したからね」
アレン様?その笑顔が怖いです。
こうして私達はカヌレ領へと旅立つこととなった。




