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暴走②

 私は動かない体に鞭をうち全力で走った。案の定、兵士は私のスピードには着いてこれないようだ。

 兵は小魚の中心を目指して来るようで何人かとばったり出会ってしまった。その度に路地に入り適当に走る。


 小魚の円が街の外壁に当たるほど大きくなると、ガクンと魔力が減ったのを感じた。ステータスを見るとMPが半分を切っている。

 路地にへたり混んで空を見上げると街の上空に虹色の薄い膜の様なものが張られたのがわかった。


 あれに魔力が使われたのね。



 多分結界を張ったのだ。景色だけ見ればシャボン玉の中にある水族館みたいだ。青空に縦横無尽に泳ぐ小魚の風景はとても綺麗である。お騒がせしているとはいえ先日同様害はないだろう。精々誰かの体調や怪我がすこぶる良くなるくらいだ。


 頭上が綺麗な分、目の前の街並みが余計汚く見える。人がいない方いない方に進んでいったら辿り着いた場所だが、所謂スラムという場所だろう。


 兵に捕まった方がよかったかなぁ。でも事情を聞いてくれないまま牢に入れられて、放置される可能性もあるし。



 脂汗が滲み始める。マップで確認したが教会が遠い。いっそ出会う兵全部弾き飛ばして教会に向かおうか。ダメージ負ったとしても回復するだろうし。


 そんな乱暴な考えが浮かんだ時、背後からジャリっとした足音が聞こえた。

「アレン様!?」


 期待して視線を向けるとスラムの住人と見られる複数人の男達がいた。朝から、いやもう昼だ。昼からお酒を飲んで赤い顔をしている。


「お姉さん大丈夫〜?」

 ニヤニヤしながら男に肩を掴まれた。言葉とは裏腹に全然心配している様子はない。


「お構いなく」

 精一杯の笑顔を向ける。弱っている所を見せてはいけない。私は、肩に乗せられた男の手を払いのけた。


「いやいや、お姉さん超つらそうじゃん。休める所に連れてってあげるよ」

「遠慮します」


 周りにいる男女からからかいの声が聞こえる。しばらく押し問答が続き焦れた男に急に腰を掴まれる。

「無礼な、何をするのです!離しなさい」


「はぁ、大人しくした方がいいと思うよ。お姉さんだって痛い思いはしなくないでしょ」


 典型的な悪い男にイライラがとまらない。痛い思いをするのはそちらだろう。むしろ私はデコピンでも倒せるがある。


 腰にある手を払いのけようとすると、先程いた男女から悲鳴があがった。周りを見渡すと数匹の魔物に囲まれている。スラムに紛れ込んだ魔物だ、結界の中を出る事もできず苦しいのだろう。直接私を狙いにきたわけだ。



 ザッと見渡すと狼型の魔物が3匹、蜘蛛の魔物が5匹、後はネズミに寄生してる魔物が10匹程。現在私はスキル〈聖女〉を発動し、回復系の魔法をかけている状態にある。他の魔法は発動出来ない。

 《メニュー》を開き、レイピアをアイテムボックスから取り出して構えた。雑魚ばかりだが、小さいのもいて厄介だ。


「死にたく無ければわたくしの後ろで大人しくしてなさい」

 もう彼らに先程の威勢はない。恐怖の顔にひきつる男女に声をかける。


 道が開ければこの人達は逃げれるはず。


 最初に襲いかかって来たのは狼型の魔物、ダークウルフだ。額に一本角があり鋼の様な毛並みを持っている。


 飛び掛って来た1匹を一刀両断した。次にきた魔物は寄生鼠だ。1匹ずつ切るがちょこまかして手間である。


 こっちはもう限界だっていうのに!


 かすむ視界では上手く当たらない。一気に片付けたい。広範囲魔法が使えれば……グッとレイピアに力を込めると魔力が流れるのを感じる。


「はぁぁぁぁぁぁぁ」




 魔力をレイピアに叩き込み、それを地面に突き刺した。すると地にレイピアを中心にした青い円状の光が浮かんだ。風を巻き起こしながら円は広がり、その風に当たった魔物、円に入った魔物は次々と消し飛んでいった。


「すご……」


 背後から感嘆の声が聞こえたがそれに答えている暇はない。


 蜘蛛の魔物が遠くから糸の攻撃を放つが糸は円に入る度、弾け飛んで消えた。


 ごりごり削れていくMPバーを横目で確認すると残量が少ない事を示す赤色に突入した。敵の残数を確認すると小さいのは粗方吹き飛んだものの狼型の魔物は警戒して寄ってこないし蜘蛛の魔物もまだ蠢いているのが見える。

各個撃破に切り替えようとレイピアを引き抜いた瞬間上から蜘蛛の魔物が降ってきた。


 丸くでっぷりした胴体だけで40センチくらいある。それが頭に張り付いた


「きゃー!!!気持ち悪い気持ち悪い〜!」


 蜘蛛にデコピンをすると派手に飛んでいったものの不快さは消えない。


 そんな一瞬の隙をダークウルフは見逃さず、私の足に思いっきり牙を突き立てた。プスリと浅く牙がささった。私の防御力ではそんなにダメージを食らうことはない。


 直後、ダークウルフは奇妙な悲鳴を上げ足から離れていった。私の血がついた歯は黒く爛れ次第に全身がボロボロと崩れていく。


 血にももしかして特殊効果が生まれたのかもしれない。ダークウルフの最後を見届け、頭上を見上げ先程蜘蛛が落ちてきた所を確認してゾッとする。


 まだなんかいそう、動く影が見えるもの!


 視線を上に向けたことで、頭上に小魚がいる事を思い出した。あれは魔物には有効だったりしないだろうか。


 チェルシーは片手を天高く上げ、ダークウルフに向かって振り下ろす。


「いっけぇぇ」


 そう叫ぶと上の方でジュッと音がなった。蜘蛛には効果があった様だ。


 後、ダークウルフ1匹!終わった!


 ところが小魚はダークウルフに当たる寸前のところで止まりはらはらと淡い光になって上空に舞っていってしまった。


「えっ?なんで…….」


 チェルシーはがくっと膝を折る。


 何これ。立てない。


 結界を張った時の感覚に似ている。しかし虚脱感は先程の比ではない。レイピアに縋り付くように上半身を支える。


 あぁ、これのせいか。


 MPが0になっている。死にはしないが体が動かない。息が苦しい。私は迫りくるダークウルフを睨みつけることしかできない。


 どうしよう。どうすれば後ろの人達だけでも逃せられる?


 瞬間、視界が急に緋色に染まった。



 これは血の色?

 違うこれは……。


 礼服の色。


「助かりました」

 そう述べた瞬間、私は意識を手放した。





 ふわふわした夢の中で、体の中に温かいものが入っていくのを感じた。

 じわじわ満たされていく感覚が心地いい。


 段々意識がはっきりしてくのがわかる。すると一層温かいものが頬に当たった。それを離さないように握るとそれは人の手だった。

 目を開くとそこには心配そうな顔をしたアレンの顔があった。


「アレン様、淑女の寝室に入ってはいけませんよ」

 そんな冗談を言うと、アレンは私をぎゅっと抱きしめた。


「どうしたのです?」

「チェルシーが無茶をして2日も目を覚まさないから、僕は死ぬ程心配したんだ」


 アレンは私を抱きしめた顔を上げない。


「それはご心配をおかけしました。でも首都は聖浄化されましてよ」


「チェルシーと連絡取れないから探し回った」


「お手数お掛けしました、あれから熱が出てしまいまして」


「守るって誓ったばかりなのに」


「守ってくださったではありませんか」


 今にも泣き出しそうな声音にチェルシーはアレンの背中をトントン叩いた。


「チェルシーはもう少し僕に守らせてほしい」


「そうですね、今回の事でわたくしは、自分は想像以上に出来ない子だと悟りました。とても反省しているのです」


「ぼろぼろの君を見つけて僕が、どれだけ心配したかわかる?」


「ごめんなさい」

「これからは僕の側を離れないで」


「ええ……、まぁ、はい」

 今回の事で私に知識がないのはわかった。ゲームの時の感覚で魔法を使ってはいけない。導いてくれる人が側に居るのは助かる事だ。


「じゃあ、魔王討伐するまでの期間中は僕の目の届かない所に行かない事、教会で僕の部屋の隣で過ごす事、いいね」


「へ?」

 それは何かがおかしい気がし、アレンの頭頂部を見る。なんか話が飛んだ様な。


「チェルシーは反省してるし、僕の側を離れない。でしょ?」


 それはそうなのだが、「側」に対する距離感に認識の違いがある気がする。


 私が首を傾けて考えていると、アレンの口が首に触れた


「ひゃ!?」

 びっくりしてキスされた所を手の平で抑える。アレンはすっと立ちあがり私の毛先に指で触れた。


「もう逃がさないから」


 久し振りに見た黒い笑みに、頰がひきつった。


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