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森の管理者達⑤

 魔王城は山頂にある古城である。正門を出ると目の前には森へと続く坂道が伸びている。この道は辺りが開けており、敵の侵入がすぐわかるようになっている。そんな〝敵〟を意識した作りになっている城も、ゲームの補正からか門が閉まるのは夜だけだ。そして私の結界が有効なのは魔物だけ。つまり人間には簡単に侵入できてしまうのである。


 門の前に立つ私を見上げたのは親衛隊が6人と大佐であるオーウェン・レオンである。

 ここまでくるということは、イレイズを持っているのだろう。このアイテムを大量に投入するとは、なかなか潤沢な資金をお持ちのようだ。

「随分気配を隠すのがお上手になりましたわね」

「うちの軍の偵察部隊が、あれだけ慎重を期しても森への侵入を見破られたんだ。万全を持って当たるのが礼儀だろう?」


 少数精鋭にしたわけか。

 じっと敵を観察する。腰には皆剣を携えている。


 皆剣士?なんとかいけるかな。


 私はレイピアを取り出す。突如現れたレイピアにオーウェン達は目を見張る。


「お前はどうやら魔法に長けているようだ。先日から見たこともない魔法ばかりだ。我が国は力が全て。その様なまやかしの術には負けはせん」

「それはそれは。ここまでくれば領土侵犯も確実です。捕らえられても文句は言えませんよ?」

「ここは我が領土となる。気にするな」

「そうでしたか。わたくしも丁度むしゃくしゃしていた所なのです」


 オーウェンが大剣を抜き私に切りかかる。私はレイピアで応戦するが、あまりの剣の重さに耐えきれずそのまま左に受け流す。私のレイピアがレアアイテムでなければ一撃でポッキリ折れて居たことだろう。


「俺は戦いたくてうずうずしていた所だ。相手が女だからと容赦はせん」

「あら、それは残念」


 親衛隊は動く気配がない。オーウェンを信頼しているのか、私が舐められているのか。恐らく両方かもしれない。


「親愛なる時よ、魔力を食いわたくしに勝利をもたらしたもれ〈代償交換〉」

 この魔法は10秒毎に、自分のMP(魔力)を1削る代わりに対象の攻撃力を1下げる。私は魔力が沢山あるので時間が経てば経つほど私の有利となる。

 


「へぇ。またあのドラゴンに会えると思ったのだが」

「何度も呼んでは迷惑でしょう?」

 実際は呼びたくても呼べない。召喚には魔法陣を描いてる間は集中しなければいけない。こんな強撃されながらの発動は難しい。


 剣戟の音と荒い息遣いが響く。オーウェンは強い。打撃は重く、早い。次々に振り下ろされる剣を受け流すのでいっぱいいっぱいだ。一撃でも食らえばかなり危ない。それでも私はオーウェンが振りかぶる隙を見ながら細かく攻撃を重ねていく。


「はあ!」

 私の突きはオーウェンの頬を擦り、一筋の赤い線を引いた。


 親衛隊からは歓声が上がる。

「オーウェン様に一撃いれたぞ!」

「いいぞ〜。もっとやれー」

 わぁー、と沸き立つ声からは余裕を感じられる。まるで決闘を楽しむ観客のようだった。


「お前ら、もっと俺の応援をしろ」

「だってまたオーウェン様が勝ってしまうんでしょ?ちょっとは刺激がないと」


 私は顔の輪郭を流れる汗を手の甲で拭う。


 やばい、いつの間にか立ち位置が逆転してる。


 ここは坂道だ。上に立つ方が体重を乗せられ有利だ。何より、城に入られてしまえば、ノエルに合わす顔がない。


 私の杞憂をよそに、オーウェンは猛禽類の様な瞳で私を見下ろす。

「さて、じゃあ俺も本気を出さないとな」


 私は自然とレイピアを持つ手に力が入る。


 勢いをつけて振り下ろされる剣は、本当に攻撃力落ちてきているとは思えないほど、重い。上から押さえ込まれる私は受け流すことも出来ずに後ろに跳んだ。そんなことが数度繰り返されるうち、辺りは森となる。


 道は平坦になり、私は息を深く吐く。

「随分城から離されてしまいましたわ。貴方は人質を取るっといった非道をなさるのに、戦いには紳士ですね」


 私を放っておいて城に侵入するのは容易いだろう。


「全てを征服してからこそ俺の物となるものだ。しかし人質とはなんのことだ?」

「女性をさらったでしょう?」

「しらん!俺の部下にその様な卑怯な真似をするものはいない!愚弄するならタダではおかんぞ」


 クロエをさらった事を知らない?


 オーウェンは怒気を纏って私に剣を何度も叩き込む。すると、レイピアに違和感を感じた。

 ヒビが入っている。


 いけない!


 そう思った時には遅かった。レイピアは砕け、私は衝撃で飛ばされた。


 数m飛ばされた割には擦り傷だけで済んだ。


 砂利を踏むオーウェンの足音がゆっくり近く。


 何か、何か手は……。


 聖剣を出しても何処まで持つか。


 そして、私はそこにいた生き物に気がついた。ふわふわのかわいいウサギだ。それが何匹もいる。不自然に皆正面を向いていた。


 ここは魔王の森の最深部だ。魔物の巣窟である。私はウサギたちの群の中心に行き静かに歌う。自分に纏う様結界を張った。


「なんだ、レクイエムか?」


 オーウェンは私の前に立つ。


「安心してくださいませ。わたくしがいる限り貴方が死ぬことはありません」

「どういう意味だ」


 オーウェンは眉をひそめる。


 一匹のウサギが高く飛び上がった。それを合図に他のウサギも不気味な動きをし、本体の大蛇が次々と姿を現した。20匹はいる。この間見たものよりも大きい個体から少し小型の個体まで。ぞわりとするような目の前の景色に遠い目になる。うねうねとした体が一帯を覆う。


 わぁ〜、気持ち悪い。


 大蛇は露骨に私を避け、オーウェンに集まる。蛇は餌を見つけたと言わんばかりに舌なめずりをしながら、あっという間にオーウェンを囲んだ。


「成る程。……本当に俺を殺す気は無いんだろうな?」


「それは聖女の名にかけて」



 森の木々は揺れ、大蛇の鳴き声が響き渡る。異変を感じたのだろう、親衛隊が慌てて駆けつけてきた。


「オーウェン様!?」

「どこにいらっしゃいますか?まさか、この中に!?」


 大蛇が蠢く様子に親衛隊は真っ青になる。


「お前ら、絶対に来るな!」

 オーウェンの声がし、親衛隊は剣を構える。

「貴方を守らねば帝国に未来はありません!お前らいくぞ!」



 蛇と兵が戦う。目の前に青い飛沫が飛び散った。


 オーウェン達はかなり健闘した。大蛇による怒涛の攻撃や毒を交わし多くの大蛇に傷を負わせた。オーウェンは私のかけた攻撃力弱体化の魔法の効果で4匹目を倒した頃には硬い鱗に弾かれる様になってしまった。


「お助けしてよろしいでしょうか?」

 私が声を張り上げるも返事がこない。

 彼らにも意地があるのだろう。でもあまり放って置くと本当に死んでしまう。

 私は歌いながら蛇の群に近づく。蛇は私の周りの個体から浄化されていき、距離のあるものは逃げ出していった。


 小魚を増やし、私を中心に渦巻く魚達は蛇を一瞬で浄化した。


 虹色の魚達はキラキラと青い光に変わり、空に吸い込まれていく。


 オーウェンは剣をザクッと地面に刺し、それを支えに立つ。


「なんて浄化の力だ」

「あら、思ったよりも元気そうで」

「まぁな」


 と言ってもオーウェンのマントや鎧は所々溶け、底からは傷口が見える。赤く焼けた傷口の周りは青く変色している。立っていられるのはせめてもの見栄だろう。


 周りの親衛隊はもっと酷い有様だ。


「この土地を諦めて下さるなら、お治ししますよ」


 このままでは傷口が腐り、命が助かったとしても戦うことは難しいだろう。


「……約束しよう。しかし、他の(兄弟)のことまでは約束できぬぞ」


「それで結構です」

 この男は勇往邁進で実直な戦士だ。回復した途端襲いかかってくるようには見えない。


 私は男達を回復させる。

 久しぶりにMP回復薬をがぶ飲みし、傷口を綺麗スッキリ治してあげた。


 レオン帝国のものは目を見張る。

「これは聖女と呼ばれるわけだ。他国のものがほしがるのがよくわかった」


「他国の者?」


「あぁ、お前が欲しいと声をかけてきた者がいる。当然断ったがな」


「それは……」

「うわー!オーウェン様!ご無事で良かったです!!」


 親衛隊はオーウェンに抱きつく。会話が中断されてしまった。


 そこに、レオン帝国の者を捕らえたノエルが現れた。無事にクロエを助けられた様だ。



「若!ご無事で!」

「爺、お前は何故捕まっている!?」


 爺と呼ばれた老人はハッとしてもじもじし始める。


「話を伺いましょうか。教えてくださいますわよね?」

 私の笑顔に老人は顔を逸らした。



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