聖剣
「今日は城の探索をしたいです。良いでしょうか?」
「構わん」
「ありがとうございます、ノエル!」
私は飛び上がって喜ぶ。あぁ、魔王城。素敵な響き。絶対いいアイテムがあるはず!
森に来て2日目の午前はノエルと2人で魔王城を探索することになった。
クロエは自室の掃除、スティーブは王都で食材などの買い出しをして貰っている。
明日からは殿下に紹介して頂いた製材所に挨拶をしたり、家具店や各楽器メーカーの重役とお茶会を開かなければならない。時間があるのは今日ぐらいだ。
私は城の門に行く。
「ここは昨日来ただろう」
「いえ、ダンジョンはやはり入り口から攻めねば」
一部屋ずつ部屋を見て回る。特に目新しいものはなく、埃が酷いだけだった。
「ハウスダストのアレルギーになりそうです」
「500年封印されていたからな」
封印されていたノエルも埃だらけだったのだろうか。
部屋を順番に周り、謁見の間にたどり着く。
「ここは綺麗な場所ですね」
大きな窓から光が差し込み、暗い雰囲気の城が少し明るく見える。階段の上には豪華な椅子が置かれ、周りには上から赤い布が垂れ下がっている。
所々刃物で切り裂かれた場所があり椅子には剣が刺さった跡があった。
私はその跡をなぞる。
ここは……。
「私が封印されていた場所だ」
隣に並んだノエルの横顔を見る。
「ここで聖剣で心臓を貫かれた」
「よく生きてて下さいました」
「お前に言われるのは少し不思議な気分だ」
ノエルは私の髪を指で梳かす。
「お前は私を封印した教皇に少し似ている」
「えっ!?私がですか?ノエルを封印した教皇様は女性だったのですか?」
「ああ。しかし、姿形ではない。魔力が……」
ノエルは私の頬に手を当て私の目の奥を見つめる。ノエルの瞳は真っ黒だ。ずっと見つめているとその瞳に吸い込まれてしまいそうだ。
「ノエル……?」
「いや。昔の、話だ」
ノエルは私を抱きしめた。それがなんだか昔を懐かしんでいるように感じた。私ではなく、思い出を抱きしめているかのようだった。
私はノエルの過去を知らない。彼は今一体どんな気持ちなのだろう。
どうしたら良いか分からず、じっとしていると玉座の背後の壁に剣が飾られているのに気がついた。
「あれは?」
ノエルは私を離し、剣を見る。
全体的に青いその剣は所々に金の装飾が施されており、柄の部分には大きな魔石がはまっていた。
「聖剣だ。私を封印していた」
「自分をずっと封印していた剣をあんな風に飾っているのですか?」
相変わらず何を考えているのかわからない人だ。
ノエルが人差し指を動かし剣を魔法で引き寄せる。ところが聖剣はまっすぐノエルの心臓を狙って飛んでくる。ノエルはそれを軽やかによけてグリップを握った。
「この剣は意思があるかのように、こうして私の心臓を狙ってくる。とんだじゃじゃ馬だ」
ノエルは聖剣を私に差し出す。
「触ってもよいのですか?」
「ああ」
聖剣なんて初めて見た。むしろ、実装されていたのね。
私がそっと触れると聖剣の魔石が眩しいくらいに光った。
「!?」
身体の中から魔力が引き出され余りの勢いに風が巻き起こった。
「なんです?これは」
私は焦る。きっと大事な剣だ。壊してしまったらどうしよう。
ノエルも目を見開いて固まっている。
「聖剣が、お前を認めた」
それは私が聖女だからだろうか。
風が止む。鞘から剣を抜き、かざしてみてみると刀身は内側から青い光を放ちそれはとても神秘的だった。
「綺麗」
つい見とれているとノエルは穏やかに微笑み私を見ていた。
私はなんだか気恥ずかしくなり剣を鞘に収めノエルに突き出した。
「見せて頂きありがとうございました」
「いや、もうそれはもうお前のものだ。元々私のものでもないがな」
くっくっと笑ってノエルは私の手を押し返す。
「わたくしのもの?ありがたい話ですが、貰ってしまって良いのでしょうか」
せめて教会に返した方がいいんじゃないかなぁ。
「その剣は主人を自ら選ぶ。剣に選ばれたのはお前だ。チェルシーがこの後どうするかは自由だが、私にはもう必要ない」
「では有難く頂きます」
私は即答する。これは間違いなくレアものだ。アイテムボックスに入れ剣のステータスを除くとレア度が15と出ていた。
すごい!15なんて初めてみた。私の使ってるレイピアでも12なのに。
あまりの興奮につい鼻息が荒くなる。
「あぁ、はやく!はやく試し斬りがしたいです!どの位強いのでしょうか。ノエル、今から森へ行きませんか?」
アイテムボックスから再度取り出してぶんぶん振り回していると、ぼー、と私を見ていたノエルはポツリと呟いた。
「どうやら私の勘違いではないようだ」
「なんの話ですか?」
「いや、なんでもない。森へ行くのだろう?ついて行ってやろう」
「試し斬りですからね?ノエルは手を出しては駄目ですよ」
「では魔物に遅れを取らぬ事だな」
ノエルは半笑いで私の前を歩く。
「ええ、お任せ下さい。ノエルがいるなら多少無茶しても大丈夫ですしね」
私がふふんと胸を張って隣に立つとノエルはなんだか嬉しそうに私の頭をわしゃわしゃ撫でた。
「お前と一緒に戦えて嬉しいよ、チェルシー」




