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森の管理者達②

 目を凝らしても全然旗なんて見えない。


 でもノエルが言うのならそうなのろう。


「どんな旗でしょうか?」

「赤地に白い獅子が描かれているな」

「どこの国でしょうね」

「さぁな」


 私達が呑気に話しているとクロエが声を苛立せた。


「隣国のレオン帝国でしょう。何故知らないのですか!」


 この国はいくつかの国と隣り合っている。私はゲームで出てくる国しか知らない。


 この世界ってゲームよりもずっと広大なのね。



 私とノエルの反応の薄い反応にクロエは眉間のシワを深くした。

「帝国軍が侵略してきているのよ!」


 この森は魔王が封印されていた。しかし、魔王が倒されればその状況も変わる。殆ど手付かずの広大な森。どんな宝が眠っているかまだまだ未知数だ。



 クロエとスティーブによるとレオン帝国と我が国の境界線がこのベルコロネの森なのだそうだ。そしてこの森は我が国の領土に当たる。しかし、魔王がいなくなった今、先に実権を握ってしまおうと考えているの当たり前の事かもしれない。


「まさか、辺境伯相当の仕事になるとは思いませんでしたわ」


 先ずは、平和的な問題解決かな。


「ノエル、野営地まで〈転移〉の魔法をお願いしたいのですが」

「殲滅するか?」

「ご冗談を。ここは我が国の領土です、と説明するだけですよ」


 ほほほ、と笑う私とは対照的にスティーブは焦りを見せる。


「チェルシー様!穏便に、穏便にですよ?絶対煽ったり手を出したりしてはいけませんよ!」


「わかっていますよ!」

 外交問題にするつもりはない。


 私はノエルと共に〈転移〉の魔法でレオン帝国側の森の入り口へと飛ぶ。


 こちらの森の入り口も私達が以前通った入り口と作りは一緒だった。木製のアーチがあり2〜3人が並んで歩けるだけのむき出しの道が続いている。


 森の入り口を示すアーチの向こう側にはレオン帝国のテントがいくつも並んでいた。おおよそ50人くらいだろうか。突風と共に現れた私達を凝視している。


「御機嫌よう、レオン帝国の皆様。わたくしはこの度スフィア国ベルコロネ子爵の名を賜りました、チェルシー・シュガーレットでございます。一番偉い方はどなたでしょうか?」


 私は丁寧に挨拶を述べたのに、レオン帝国の者は蜂の巣を突いたように大騒ぎとなった。

「なんだ!この女は。いきなり現れたぞ!魔物か!?」

「魔族はもう滅んだはずだ!武器を持ってこい!」



 こうして、あっという間に私達は槍を持ったレオン帝国の者達に取り囲まれる。


「困りましたね」

「私にとってはいつものことだ」


 魔王って大変だなぁ。


「何を相談している!」

 敵意を剥き出し槍を構えた男が声を荒げる。


「わたくしはスフィア国のベルコロネ子爵です。この森は我が国のものです。一番偉い方はどなたですか?」


 私は再度自己紹介と目的を告げる。


「そんな戯言が信じられるか!妖精女王(ティターニア)か!?」

「いや、妖狐かもしれんぞ!」


 上級な魔物を挙げて頂きありがたい限りだが、そんな大層なそのではない。



「どちらでも構わん。目の前に現れたからには倒せ」

 奥から指示が飛び、弓矢が降り注ぐ。



 全く。レオン帝国とは血の気盛んな国ね。


 直後、ノエルが前に出る。彼がパチンと指を鳴らすと、弓はバキバキと折れ曲がり私達に届く前に落下した。


 次に迫ってくるのは槍だ。レオン帝国の軍同士で上手く連携が取れているなと思う。相手が悪いだけだ。


 ノエルは片手を器の様にし、口の前に持ってくるとフッと息を吐いた。

 すると、桜の花びらの様な細かい花弁が舞う。一瞬で目の前に半球状のバリアを作った。槍がそのバリアに当たると刃先から砂の様に変わり、気がついた時には、槍は砂の山と化していた。


 流石魔王、無詠唱。一体何の魔法を使っているかもわからない。


 私が関心していると、横から現れた伏兵が私に向かって剣を振り下ろす。


「このおおおお!化け物め」


 私は振り下ろされた剣を掴み、そして砕く。


 伏兵は恐怖に怯え、砕けた破片と共に尻を地面につけた。


「あら、大丈夫ですか?」

 伏兵は私の問いかけなど、聞いてはいない。瞳孔が開いた目で私を見つめる。





「そこまでだ!我が兵を返してもらおう!!」

 凛々しく現れた少年はその辺の兵士とは比べものにならない程立派な身なりをしている。赤いマントに豪華な装飾が付いている。


 伏兵は慌てて、自軍へと走っていった。

「返すも何も、勝手に転んだだけですわよ?」


「其方らの目的は私だそうだな。何用だ」

 この人が一番偉い人?


 かなり年若い。赤茶の髪をしたこの男はまだ高校生くらいだろうか。武人風の男でかなり目つきが悪い。


「わたくしはスフィア国のベルコロネ子爵の名を賜りました、チェルシー・シュガーレットです。わたくしの管轄の森ゆえ、勝手に入られては困りますわ」


「私はオーウェン・レオン大佐だ。其方がベルコロネ子爵とは、真か?」

「ええ。王宮に問い合わせて頂いても結構です」

「……。そうか。我が兵が失礼した。なに、たまたまこの森の近くを通っただけなのだが怖がらせてしまい申し訳無い」


 全然悪いと思っていない口ぶりだ。


「いいえ。何度か我が国に踏み入っておいで出したのでご注意を、と思いまして。大佐も領土侵犯と疑われるのは本位ではないでしょう?」


 森に入っているのはバレバレですよ。


「こやつ、オーウェン大佐になんてご無礼を!」

 そう言って私に杖を振り回しているのはお年を召した男性だ。


「爺!やめないか。相手は女性だぞ!」

 オーウェンは老人を抑える。


「オーウェン様!こんな小娘に気を使う必要はありませぬ!申してしまいなさい、この森は我が国が貰うと」


 ここまでハッキリ言われれば私もカチンとくる。

「ベルコロネの森の魔物がどれ程恐ろしいか、知っておいでですか?」


「魔王がおらぬ今、城さえ抑えればこの森を取ったも同然。それが其方(そち)の様な小娘相手なら勝負はついたも同然!応援が来るまでに叩かせてもらうぞ」


「あら。魔王に怯える者がわたくしに勝てるとお思い?」


 私から魔力が吹き出す。それを感じたイージスが初めて焦りを見せ、老人の前に立つ。

「どういう意味だ?」


「何故、わたくしのような小娘がベルコロネ子爵の名を頂けたのか。次は調べていらっしゃいませ」


「お前は何者だ……。ん、なんだ!?これは!?」

 私に集中していたオーウェンは地面に引かれた月の文様の魔法陣に漸く気がついた。



〈召喚〉(サモン)狂気の竜(ルナティックドラゴン)


 私が唱えると暴風と共に召喚された真っ黒な始祖流が姿を現した。


 オーウェンは驚きつつも、不敵な笑みを浮かべ剣を構える。

 しかし、いきなり近距離で現れた始祖流の姿に軍隊は悲鳴を上げながら散っていった。


「ルナちゃん久しぶりです。脅かすだけで大丈夫ですからね」


 私はルナちゃんの頬にキスをする。ルナちゃんは大きく羽ばたき、20m程上昇すると、巨大な火の玉をはいた。軍の人間にギリギリ当たるか当た無いくらいの調整具合である。火の玉が落ちた所は地面がえぐれ、石や岩が飛び散り適当なダメージを与える。


「爺、一度引くぞ!」

 陣が総崩れになってはどうにもならない。どう考えても人1人で立ち向かうような魔物では無いからだ。オーウェンは老人を引きずって立ち去る。


「チェルシー・シュガーレット!!覚えたからな!」


 去り際はまるで何処かのガキ大将である。


「ルナちゃんありがとう」

 それを合図に始祖竜は地面に降りて私とノエルに甘える。


「これだけ脅したんですもの。もう大丈夫ですよね?」

「さぁな。人間とはよく深い者だ。どんなに手酷くやられても、手段を変えてまたやってくるものだ」



 嫌な経験談である。


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