断罪
まず最初に神父によって、昨日の概要が述べられた。眠っていた聖女を誘拐したが騎士団が救出した、というざっくりとした内容である。
「それらに対して異議はありますか?」
アーロン神父の問いに男爵が挙手をする。
「私共は聖女様を王宮の幽閉からお助けしたい。ただその一心で!」
「しかし、城に居たのは聖女様のご意思では?助けて欲しいと言われたのですか?」
アーロン神父が問いかけるが男爵は、聖女様をお救いするため、とそれだけを繰り返した。
「わたくしたちは操られていたのです!」
そうさめざめと涙を流したのはクロエだ。
「どういうことですか?」
神父に答えたのは宰相だった。
「カヌレ領のビーズ子爵が統括する町の畑から毒が検出された。マッドに調べさせた所、脳を鈍らせ洗脳や催眠効果のある魔物の毒だとわかっている。娘はその毒に侵され何者かに操られていたと見るのが妥当だろう」
「それを証明できますか?」
「聖女なら出来るであろう?」
2人の会話にどきりとする。
そう、私が歌えばいいだけだ。それで、毒に侵されていれば浄化魔法が反応する。誰が見ても明らかな証明になる。
宰相がああも自信たっぷりなのは、この状況でも娘を信じているからだろう。
「聖女様、ご協力をお願い出来ますか」
神父の言葉に私は頷く。私が拒否しても神父やアレンがクロエのステータスを確認すればどっちにしろバレる話だ。
私は立ち上がり歌う。いつもの様に虹色に輝く子魚は数を増し円を描いて泳ぎ回る。
「なんですか!?それは」
クロエは目を見張って驚き、王や宰相はほぅ、と感嘆の声を上げた。
十分に数が増えたきらきらと輝く魚は、私の魔法に感動している子爵や男爵達に降り注がれていった。そして解毒が終わった彼らはパタリと倒れていった。そして、そこに立ち尽くすクロエがポツンと残った。
「は?え?」
クロエは未だ状況を掴めていない。私が前凱旋式で見せた様な魔法を想定していたに違いない。
アーロン神父は慌てて倒れた貴族達を診る。
「恐らく毒に侵された脳を急激に回復したため、気を失ったのでしょう。寝かせておけば良くなります」
「わ、罠です!わたくしは聖女に罠に嵌められたのです!今だって魔法を操作していたのではありませんか」
流石に濡れ衣を着せられればムッとする。
「であれば、クロエ様は未だ毒に侵された状態にあるということですね?教会の者に診てもらってはいかがですか?」
私が心配そうにそういうと、アーロン神父がクロエのステータスを確認しようと手を伸ばすが、クロエは払いのける。
「いやです!おやめくださいませ」
「クロエ!?早く証明してしまいなさい」
クロエの真っ青な顔に宰相の顔色も悪くなる。
「拒否いたします」
部屋の中を沈黙が支配した。クロエが誰にも操られていない以上、彼女が主犯となる。
アーロン神父は淡々と進行する。
「この度の騎士団の調査報告書よると、子爵や男爵に指示を出していたのはクロエ様だと既にわかっております。また聖女に毒を盛る様にとクロエ様から指示されたメイドがいる様ですね。実際に渡された毒の提出もされています」
「まさか、メイドの言うことなんて信じるわけではないですわよね?」
「クロエ様からの侍女からも複数人から瓶の受け渡している場を見たと証言がありました」
「あの子達っ……!」
クロエは奥歯をギリっと噛みしめる。
「聖女様からのお話では、誘拐の際貴女からの暴力があったことも報告されています。以上の事から、クロエ・カヌレを聖女誘拐未遂の主犯とします」
「聖女の罠です!わたくしを罠にはめるための自作自演ですわ!」
「ずっと王宮の客室にいらっしゃった聖女様がどうやってカヌレ領の貴族達に指示を……?」
アーロン神父は呆れた声を出す。私はアレンからの白い目を視線を必死に逸らした。
「もうよい」
低い声が部屋中に響いた。この場の誰よりも地位が高い人物の声だ。
「クロエ・カヌレと王子との婚約を破棄する。罪人と縁を結ぶなどあってはならぬ事だ」
「そんな……」
クロエはついに地面にへたり込んでしまった。
「公爵家の日頃の功績により、せめてもの温情として国外追放を命じる」
やっぱり……!
私が愕然とするとアレンが立ち上がった。
「少しよろしいでしょうか、陛下。私としてはクロエを目の届くところで監視したいと思っています。また城でこの様な事件が起きた事を教会としては遺憾の意を表します」
アレン様!?
「……何が望みだ」
「聖女をそろそろ教会にお戻しいただけると幸いです」
王は少し目を閉じた後、ため息を吐いた。
「いいだろう」
「ありがとう存じます」
アレンは王族の不手際を理由に私とレイ殿下の婚約の話を終わらせた。その代わり、クロエの身柄を引き受ける形になる。
当然、王はクロエの為に私を諦めたのではない。これ以上教会と揉めるのは得策ではないと判断したからだ。王族による強引な婚約、城での軟禁、挙句に誘拐事件である。教会に突かれる隙が多すぎる。
国の益になる女は私の他にもいよう。
話がまとまると、神父はクロエの手をとりステータスを確認した。そして処罰を下す。
「それでは主犯クロエ・カヌレの貴族籍を剥奪し表向きは国外追放に。身柄は教会で引き受けます」
「嫌です!平民になど……たっ、助けてください、お父様!」
クロエは宰相に縋る。宰相は俯き、クロエの肩をぐっと掴んだ。
「クロエ……。元気で」
「そんな!そんな!」
クロエは叫びとともに泣き崩れた。身一つで国外追放になるのと比べればかなり処遇の軽い罰となった。これ以上望めば逆に身を滅ぼすことになるだろう。
そして、翌日私は城を出ることとなった。
「やっと外にでれるわー!」
王都に集まった貴族達も自国領へと散っていった。
私は今まで過ごした部屋を見渡す。
「お疲れ様でした、チェルシー様」
「スティーブ、一緒にいてくれてありがとう」
スティーブは笑顔で答えてくれる。
すると、トントンとノックの音がした。どうぞ、と声をかけるとそこには王妃様と殿下の姿があった。
「こんにちは。最後にみんなでお茶を致しましょう?」




