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3回目

「ノエル、これ外せますか?」

 私はノエルに手首につけられた手錠を見せる。


 ノエルは少し触り首を横に振った。

「これは小僧に見せた方が良いだろう」

「そうですか」


 怒っているアレンの顔が眼に浮かぶ様だ。



 この作戦は急に決まった。私が囮になることで、クロエがどの様に動くか見ることとなった。スティーブは反対したものの、殿下が許可した為実行に移した。面白いやってみろ、と言った殿下は頼もしいことこの上ない。



 途中までは上手くいっていた。扉に立っていた兵は適当なところでやられた振りをしてくれたし、私も痛い目に遭わされることはなかった。

 男爵の家に運ばれベッドに寝かされた私は、思ったよりも丁寧に扱われたことで安心したくらいだ。



 ところが、後に来たクロエとの会話に耳を疑う。エリスの名が出た時はやはりとしか思わなかったが、メイドと聞いたときには血の気が引く思いがした。


 メイドを処理!?


 アリアは護衛騎士が見張っていた筈だが。いや、そんなことはもう関係ない。捕まってしまったのなら、誰でも助けるしかない。


 そんなこんなで暴れてしまい、今に至る。


「クロエ様、わたくしエリスに会いたいと思っているのです。お願い出来ますわよね」

 港に連れて行って欲しいとお願いしたが、クロエは鼻で笑った。


「無駄ですわ。この館にはロゼの国の者が何人かいましたもの。先程の騒ぎで失敗だと悟りすでに合図を送ったはず。もう港にエリスは来ませんわ」


 私はがっくり肩を落とした。


 そこにバタバタと部屋に護衛騎士達が入ってきた。殿下の命令で、こっそり私を追尾し待機していた者達だ。

「聖女様、大丈夫ですか!?」

「ええ。この屋敷に捕まったメイドがいます。助けてあげて下さい。それと……」


 私を睨みつけるクロエと目があった。


「彼女と男爵を城にお連れして下さい。後は殿下にお任せ致しましょう」


 クロエは殿下の名を聞いて反応する。


「まさか、貴女、殿下まで味方につけて!?」

「殿下は公平に話を聞くお方です。クロエ様もそれはご存じなはずでしょう?」

「わたくしには、お父様がいます。わたくしはまだ貴女になんて負けてない」

「城でまたお会いしましょう」


 私がそう告げると、護衛騎士がクロエを連れて行く。


「クロエは、エリスと夕方に港で落ち合う予定だった様です。急ぎカヌレ港に検問をお願いして下さい」


 エリスは、もうこない可能性が高いだろうが……。


 私はため息を吐く。


 また捕まえることが出来なかった。


 そんなことを考えていると、ぐらっと体が揺れた。危害を加える者がいなくなったので、ノエルはベッドに私を座らせてくれたのだ。


「助けてくれてありがとう」

「こんなもの、助けたうちに入らん」



 私に嵌められた魔術具はどんなに力を込めても破壊することが出来なかった。しかし、魔力に関しては少し違った。確かに、戦闘魔法を発動する事は出来なかった。

 ところが、召喚魔法は魔力を込めることで、契約者に呼びかける魔法だ。


 人間用の魔術具は魔族が用いる魔法を想定して作られていない。



「貴方がいなければ、アリアはどうなっていたかわかりません。ノエルがいてくれて良かったです」



 私がそう言うと、ノエルはプイッと反対を向いた。


 ノエルが!照れてる!かわいい!


 顔を見ようと覗き込んだら、おデコを軽く叩かれてしまった。


「見るな」

「残念です」



 こんな和やかにしていても、部屋の外では怒号や悲鳴が聞こえる。護衛騎士が家の者とやりあっているのだろう。男爵の屋敷の者のどれくらいが今回のことを知っているかは分からないが、屋敷を調べ回れば抵抗する者もいよう。


 すると、バタンとドアが開き護衛騎士の一人が飛び込んでくる。


「聖女様!見つかりました!外の物置に閉じ込めてららていました」

 兵は任務を達成できたのがよほど嬉しいのか笑顔でアリアを抱き抱えていた。


「ありがとう、ここに寝かせてくれる?」

 私はベッドに手を置く。

「はい!」


 ベッドに横になったアリアは薄目で私を見る。顔色からずいぶん具合が悪いことが分かる。クロエに何かをされたのかもしれない。


「聖女様?」

「チェルシーでいいんですよ」


 アリアは小さい声でそんなの無理ですよと笑う。


「無事で良かったです。巻き込んでしまってごめんなさい」

「そんな。助けて頂いたのは私なんです。ありがとうございました」


 アリアは無理に笑顔を作る。もう休ませた方がいい。


「もう大丈夫ですから眠りましょう」

「そんなの申し訳ないです」


 そう言って彼女は起き上がろうとする。私の身分を気にしているのだろう。


「どうか、寝て下さいませ」

 私はアリアの肩を抑えお腹をトントンとリズムよく叩く。

 子供を寝かしつけるように私は歌い治癒魔法をかけた。


 よっぽど緊張していたのだろう、彼女は直ぐに寝入ってしまった。


 彼女の寝顔に私も安心する。


 これでもう大丈夫。



「ノエル、最後にお願いしてもいいですか?殿下の元に報告に行きたいんだけど」


 ノエルはフッと笑い、〈転移〉の魔法を使った。その際に礼はチョコレートで良いと言ったのを私は聞き逃さなかった。



 目の前が白く染まり、次に視界が開けた時には見覚えのある景色に変わっていた。城に用意された自分の部屋である。


 私は転移した反動でよろめく。両足が拘束されているのでふんばりがきかない。


「きゃっ」

「チェルシー様!」


 目の前にいたスティーブが受け取めようと走り出したのが見えた。しかし私は後ろから伸びた手に支えられる。


「殿下……」

「突然帰ってくるのだな。怪我はないか?」



「ノエルに頼りました。怪我もありませんが黒幕にはたどり着けませんでしたわ」

 どうやら私だけ飛ばされたようだ。

 クロエに叩かれたが、私はあんな平手でダメージを負わない。


「そうかそれはよかった」

 殿下はホッとした顔になる。多少なりとも心配してくれていたようだ。


「チェルシー様、お疲れでしょう?こちらで暖かい飲み物を飲みながら報告しませんか」

 スティーブがにこにこ席を進めてくれる。


「嬉しいお誘いですが、まずこれを外して頂かないといけませんわね」


「拘束用の魔術具か。枢機卿を呼ばなければならぬな。歩けるか?」

「申し訳ありません。足にも……」

「そうか」


 殿下は険しい顔をして私を抱きかかえた。


「きゃっ。殿下!?大丈夫です、スティーブがおりますから!」

 私があわあわすると、殿下は苦笑した。


「枢機卿が其方をからかいたくなる気持ちがわかった」

「どう言う意味です」



 私は椅子に座らされ、クロエのことを報告する。


「私の婚約者が面倒をかけたな」

「いいえ。問題の根本はエリスでした。唆されなければクロエがここまで私に対して害をなす事は無かったはずです」


 精々、意地悪するのが関の山だろう。


「彼女はどうなるでしょうか?」

「それはこれからだ。明日にも断罪の場が設けられる筈だ」

「わたくしもその場にご一緒してよろしいでしょうか」

 私の勢いに殿下は少し後ろに仰け反る。

「ああ。被害者の其方がその場にいた方がこちらは助かるが」


 クロエがこれからどうなるかわからない。でも、もし国外追放なんてことになったら……下手したら戦争が始まってしまう。レイルートである。


 なんとか阻止しなくっちゃ。



 私の決意と同時にアレンが城に到着した。


「御機嫌よう、アレン様」

 私は平時を装う。

「御機嫌よう、チェルシー。」


 あぁ、怒ってる!怒ってる!


「僕は大人しくしているように言ったよね?どうやったら犯罪者用の魔術具で拘束されるのかなぁ?」

「わたくしは恐ろしい敵の罠にはめられて悪夢のような一夜を過ごしたのです!どうぞ優しくして下さいませ」


 私は殿下の陰に隠れる。

 すると、アレンは目に見えて不機嫌になった。


「チェルシーがそうやって殿下の陰に隠れるのは3回目だね」


「なんで数えてるのですか!」


 アレンは私を抱きしめ耳元で囁く。

「僕が、嫉妬しないと思った?」

 私の顔はたちまち赤くなる。

「本当は僕がチェルシーの全部を守りたい。僕も、我慢していることを忘れないように」


「ごめんなさい」


 アレンは私の鎖に手を当て〈解除〉の魔法を使った。


 鎖がじゃらりと音を立て床に落ち手足が自由になる。


「ありがとうございます」

「君の為ならいつでも」


 アレンは優しく笑う。私はそんなアレン笑顔が大好きだ。


 あー、早くくっつきたいな。


 そんな煩悩をかき消すように、殿下の後ろに控えていた真面目くんがゴホンと咳払いをした。


「発言を宜しいでしょうか」

「許す」


 殿下が許可すると、真面目くんは私を見た。


「聖女様、クロエ様が今回どの様な罪に問われるかはまだわかりませんが全く罪に問われない事はありえません」

「はい」

「よって殿下の婚約者の席は空席となります。汚点のある者を未来の皇后にする訳にはいきませんから」

「そうですね」


 私の呑気な回答に真面目くんは、呆れた様にため息をついた。


「わかりませんか?今殿下の婚約者に一番近いのは貴女なんですよ」



 誰か嘘だと言って。


 当然、そんな声が上がるはずもなかった。

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