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会食

 私は今自室にいた。皆が揃うディナーの前に一度身なりを整えなければならない。


「スティーブ、今日はハーフアップでいいわ。ドレスに合わせてダリアの髪飾りをつけたいの」


「かしこまりました」


 スティーブは丁寧に髪を編んでくれる。


「枢機卿は時間より随分はやく登城なされましたね。よっぽどチェルシー様にはやくお会いしたかったのでしょうね」


「殿下から、私の怪我を治すようにと頼まれてたみたいです」

 その為に早く来てくれたなんて嬉しすぎる。まぁ、それでメイド姿を見られてしまったのだけれど。


 わたしの口元が緩む。

 殿下にもお礼を言わなければ。


「チェルシー様は嬉しいかも知れませんが。僕は監督不届きでお叱りを受けるのではないかと、今から胃がキリキリします」


 ノックがし、兵がディナーの迎えに来てくれる。私とスティーブは兵の後をついて歩き先程アレンといた客室に案内された。


 中に入ると既にレイ殿下とノエルが席に着いていた。

「お待たせいたしました」


 私がスティーブが引いてくれた椅子に座ると、メイドが前菜とワインを用意してくれる。


 ふと、視線をあげると給仕しているメイドはアリアだった。アリアは手が震え見たことがない程、顔が強張り緊張していた。


 全然私に気づいてないみたい。


「怪我はよくなったか?」

 殿下が心配そうに聞くので私は首に手を当てにっこり笑う。まだ跡は残るもののもう包帯はない。

「アレン様に直して頂いたのでもう大丈夫です。殿下がアレン様に伝えてくれたと伺いました。ありがとうございます」


「いや、私には何も出来なくてすまないな」

 苦笑して答える王子にアレンがフォローを入れる。


「適材適所ですよ」




 ノエルは面白そうにククっと笑いながら私を見た。

「チェルシーに下女の真似事をさせたり、か?」

「さて、なんの話でしょうか」


 なんでノエルが知っているのよ。さては、殿下に聞いたわね。


 アリアをちらっと見ると、少し距離があるからか、若しくは聖女が言葉通りメイドとなって部屋の外に出ているなどと思いもつかないのか、特に何かに気付いた様子はない。


 しかし、私がすっとぼけているのに、スティーブが後ろで青い顔をしているので皆にはバレバレも良いところである。


 アレンは私ではなくスティーブの方を見て咎める。

「下手に貴族と関わりをもたない為に城に居るのだから、ちゃんと大人しくしているようにね」


「かしこまりました!」


 スティーブ、元気に返事をするのは良いけれどシラを切る事も覚える必要があるわよ?


「それにしても軟禁に近い状態だと聞きますが、もう少し出歩けるように出来ないですか?」

 私はアレンの言葉に耳をピクリと動かす。


「すまない、私も掛け合ったのだが父上の許可がでないのだ。実際、このままカヌレ公爵令嬢と結婚するべきと複数の男爵や子爵達が先日のパーティで騒いでいたようだ。城にも連日きては喚いている。チェルシーは十分に気をつけるように」


 ……と、言われてもあの部屋ではする事があまりに無いのだ。せめて、好きな本くらいは差し入れしてもらわないと。


「わかりました」

 私が肩を落としていると、殿下はコソッと私に耳打ちをする。

「ただし、居住塔をうろつく位は目溢しをしよう」


「まぁ!ありがとうございます」


 流石、殿下!話がわかる!


 私が嬉しそうにすると殿下も目を細めて私を見る。城に来てからは沢山お話しさせて貰っているので、最初よりずっと仲良くなれた気がする。



「人間とは面倒なものだな….…。あぁ、そう言えば」

 皆の目がノエルに集まる。

「エリスの居場所がわかったぞ」

「何処だ?」

 殿下の表情が険しくなる。エリスは魔王を剣で刺し、私を狙っている可能性がある人物だ。早く捕まえるに越した事はない。ノエルは魔物と協力し痕跡を辿っていた。


「カヌレ領だ」

「海があるな」


 殿下が苦々しい顔をしたのは無理もない。海があればロゼの国に直ぐに逃げられてしまう。それに加えて、カヌレ領からエリスの情報が上がらないことから領地で匿っている可能性もある。


 カヌレ領を治めているのは宰相だ。その事に眉を顰めたのは私だけではないはずだ。


 殿下の後ろにいた真面目君が軽く手を上げると、部屋から使用人達が出て行く。人払いの合図だ。


 スティーブが一緒になって出て行こうとするので、私はこっそりジャケットの裾を引っ張る。

 地面を指差してここにいろっとジェスチャーすると、半泣きになっている。


 下手に詳しい話を聞きたくない気持ちも分かるが、私が狙われている可能性がある以上、スティーブも敵の姿をきちんと知っておかなければならない。


「エリスの目的が聖女ならばそのままロゼ国に帰るということはないと思うが……。宰相がエリスと汲んでいる可能性は?」

 アレンの質問に殿下指を顎に置く。

「ない。とは言い切れないが……。動機や目的が解らぬ。」



「殿下とクロエ様の婚約破棄は理由になりませんか?」

 私にはそれしか思いつかない。

「クロエとの婚約破棄については、事前に交渉していると思う。父上はいきなりあんな突拍子もない事は言わない」


「そうですか」

 宰相はレイルートで他国と手を結び戦争を引き起こした人物だ。私の中では要注意人物なのである。


 すると、何やら気がついた眼鏡くんは殿下に耳打ちする。

「先程話した、結婚に騒いでいる貴族達は皆カヌレ領の貴族だそうだ」


 つまり、どういうことだろう?


 私の顔を見たアレンが可能性を上げ、指を立てていく。

「宰相が貴族を煽っている可能生、エリスが関与している可能性、ただ単に自領の領主の娘と結婚させたい可能性……。いずれにせよ、カヌレ領は今ごたごたしているのだろうな」


 アレン様、教えて頂き有難うございます。


「何事もなければよいが。できれば直接調査に行きたいが……」

 真面目君がメガネをクイっと上げて一刀両断する。

「だめです」

「どうしても?」

「この間シュガーレット領に行ったばかりでしょう!もう殿下のわがままをきく業務のゆとりはありません!どうしても気になるなら兵を派遣します」

「私はいつも留守番ばかりだな」


 王子ですからね。


「エリスの件については顔を見た護衛騎士達を集め似顔絵を書かせましょう。カヌレ領を重点的に調べさせます」

 それで妥協して下さい、と真面目くんは言う。


「その似顔絵をカヌレ領の教会にも回して欲しい」

 アレンの頼みを殿下は快く引き受ける。

「わかった。こちらも教会に協力してもらえるならありがたい」


 話が纏まったところで、真面目君がベルを鳴らす。メイドが再び給仕に戻り、デザートを運んでくれる。


 アリアは先程と変わらない手つきで配膳し、私の元には紅茶を運んでくれる。


 頑張れアリア!


「……あっ!」

 アリアは紅茶をグラスに引っ掛けて溢してしまった。

 ひっくり返した訳ではないのでドレスが汚れる事は無かったが、デザート皿、フルーツ皿に紅茶が入ってしまった。


「も、申し訳御座いません!直ぐに新しい物をお持ちいたします」

 アリアの顔は可哀想なくらい真っ青だ。あと、真面目君の顔がこわい。


「慌てなくて大丈夫ですよ。それよりも手に怪我はありませんか?」


 紅茶は熱い。

 私はアリアの手を取って少し観察する。


「いえっ!そんな!大丈夫です!」

 アリアは真っ赤な顔で遠慮するが、一応鼻歌を歌い治癒魔法をかけておく。


「丁度、もうお腹いっぱいでしたの。紅茶のおかわりだけ頂ければそれでいいわ」


 本当はデザートのケーキ、すごく楽しみだったけれど、アリアが厨房に行って怒られるのも可哀想だ。


「かしこまりました!」

 アリアは新しいカップに紅茶を注いでくれる。


「ありがとう」

「い、いえ」


 真っ赤なアリアも可愛い。


 メイド達が下がるとノエルがすっとケーキ皿を私に渡した。


「?」

「楽しみにしていたのだろう?」


「でも、ノエルもスイーツは好きでしょう?」

「よい」

「じゃあ、半分こしましょうか」


 私がそう言うとアレンが、嗜めるように私の名前を呼ぶ。

「チェルシー」


「良いではありませんか。もう見られて困る者は居ないのですから」


 私はナイフでケーキを割って1つをノエルに渡す。

「ありがとう、ノエル。嬉しいわ」


 ノエルはくしゃっと私の頭を撫でる。

「あまり無茶はするな」

「困ったら遠慮なくノエルを喚ぶので大丈夫です」


 私が得意げに笑うと、それなら良いとノエルはケーキを食べる。





 こうして皆との食事はあっという間に終わってしまった。

今週は忙しいので更新が少なめになりそうです。

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