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城での退屈な生活④

退屈な生活①で出たクロエの侍女の名前が間違っておりました。

「アンジー」を「ロベリア」に変更いたしました。大変失礼しました。

 私は兵団長に見送られて部屋に戻る。壁をつたって戻っていく姿に呆気にとられてしまったが、正面からは帰れないので仕方がない。


「チェルシー様!お待ちしてました。早く殿下をお迎えする準備をしてしまいましょう!」

 バルコニーから出迎えてくれたのは側近のスティーブだ。


 

 お風呂に浸かり、部屋に用意されていた薄紫のドレスに着替える。髪はスティーブに結い上げてもらった。すいすい動く手はまるで美容師のようである。


「スティーブったらちゃんと流行の髪型をおさえてるんだもの。すごいわ」

「ただ部屋でぼーっとしている訳には参りませんからね。日々勉強です」

「わたくしの外出が貴方の役に立っているようで何よりだわ」

「えっ!?ちがっ……」


 彼の言葉はノックの後に続いた兵の声にかき消された。


「聖女様、レイ殿下が到着しました」


 私が頷くとスティーブが扉を開けて殿下をお通しした。


「いらっしゃいまへ」


 噛んだ……。


 スティーブは、未だに殿下にガチガチに緊張している。


 普通なら雲の上の人だものね。


 真面目くんと一緒に現れた殿下はとても凛々しく一目見た女性を虜にしてしまうこと間違いなしである。


「こんばんわ。お待ちしておりましたわ」

「あぁ」


 ここに来て数回食事をしたが殿下はだんだんと口数が減っている気がする。


「元気がないようですが最近はお忙しいのですか?宜しければ癒しをおかけしますが」

 私が殿下の顔を覗きこもうと顔を近づけると、両肩をぐっと掴まれた。


「大丈夫だ。気にするな」

「でもなんだかお顔も赤く……、お熱があるのかもしれませんよ」


 私が手をおでこに当てようとすると、その手を握られた。

「だから大丈夫だと……」

 やっと私を目に映した殿下は手首に巻かれた包帯を見て目を見開いた。


「これはどうした!?」

「あ……えっと、転んでしまって」


 流石に城の中をうろうろしているとは言いづらい。


「首も怪我をしているようだが」

「寝違えたのです。お恥ずかしい」


 殿下は半眼になって、スティーブを見る。その目は本当か、と問いただすものだ。


 あわあわしたスティーブはただひたすら、頷く。


 全く嘘のつけていないその表情が、私の言葉の信用性をガタリと落とした。


「教会の者を呼べ。直ぐに治療させる」

「殿下、大袈裟ですわ。ほら、お料理が運ばれてきます、先ずは食事を楽しみましょう」

「しかし!」

「薬も塗っていますしこんなもの、直ぐ治りますわ」



 私が席に座るとレイ殿下も暫く迷った後、椅子に座る。すると配膳の者がそれを待っていたかの様に前菜とワインを運んできた。

「明日の夕食に枢機卿が来ることになっている。その時には必ず診て貰うからな」


 アレン様がっ!?今からでも逃げ出したい。


「まぁ、彼ならば私が何も言わずとも血相を変えて癒しをかけるだろうがな」

 殿下は苦笑して見せる。私もその姿が目に浮かぶようだ。


 逃げ出したい気持ちと、はやくアレンに会いたい気持ち。その2つが私の中でせめぎあっている。しかし、勿論最終的には会いたい気持ちが勝ってしまうのだ。


「明日、お会いできるのですね」


 はやく顔が見たいな。


 アレンの事を考えると私の頬はゆるゆるになってしまう。


「明日はノエルも呼んでいる。久しぶりに賑やかな夕食になりそうだな」

「あら。わたくしはこうして殿下とお食事をとるのも楽しみですのよ。毎日ご一緒出来ないのが残念です」


 一人で食べるご飯ほどつまらないものはない。誰かがいてくれるのは本当にありがたい事だ。


 ふと、殿下を見ると耳まで真っ赤になっている。


「殿下、やはり顔が赤い」

「ふむ。今日の酒はどうにも酔いやすいようだ」

 そんなに度数が高かっただろうか。殿下はワインをぐいっと(あお)りグラスを空にする。


 酔っているのならあんまり飲まない方が良いのでは無いだろうか。


 私の心配も虚しく、食事が終わる頃には殿下は大分酔っていた。

 真面目くんは、殿下がグラスにワインを継ぎ足す度ハラハラと挙動不審になっていたのでそれを見ていた私は逆に冷静でいられた。


「今日はこれで帰る」

 食事を終えた殿下は口元を押さえて立ち上がった。いつもはもう少し話して帰るのに、余程気分が悪いのだろう。


 立ち上がった殿下はなんだかふらふらとしており歩きだした途端、体勢を崩した。


「危ない」

 私は椅子をガタリと鳴らし立ち上がり殿下を正面から受け止めた。

 殿下の頭が私の肩に落ち、柔らかい髪が頬に触れた。


「殿下、少し休んでいきましょう。このままお帰しするなんてとても出来ません」

「しかし……」


 偉い人になると人に弱った所を見せたくないのかもしれない。でも、少しでも楽になって貰いたい。


 真面目くんを見ると、あわあわしながらも頷いているので私はそのまま殿下に肩を貸しソファーへと運ぶ。


 膝に殿下の頭を乗せて、お腹に手を当てて軽く鼻歌を歌う。私の回復の調節も慣れたもので、ゆっくりと調子を整えていく。一気に回復させるのも良いのだが、お酒をあれだけ飲んだのだ、酔いたい時もあるのだろう。


 ほろ酔いくらいに、アルコールを抜こう。


「温かくて心地よいな」


 殿下の言葉で、自分がアレンに治癒を受けていた時の事を思い出す。


 良かった。私も人に安らぎを与えられてるのね。


 返事の代わりに笑顔を返すと、殿下の手が伸びスッと私の頬を包んだ。


「もし」

「?」

「もし、私との婚約が正式なものになったら其方には何不自由ない幸せな生活を約束しよう」


「殿下……」

 前に私が城は嫌だと言った事を気にしているのだろうか。


「そんな事気にしないで下さいませ。殿下との婚約など、わたくしには恐れ多くて想像も出来ませんわ。無事にクロエ様と婚約出来ると良いですわね」


「そう、だな」


 殿下はひどく傷ついた顔をして腕を下ろし、自身の目の上に置いた。


 私は殿下のその表情は酷く私の心に残る。何か、失礼な言葉があっただろうか。


 私は再び鼻歌を歌い、殿下の治癒を続ける。


「カヌレ領付近の下位貴族達の動きがおかしい」

 レイ殿下はポツリと呟いた。

「と言いますと?」

「どうやら私と其方の噂が街にも流れている様だ。カヌレ領の子爵、男爵が目の色を変えて反対を示している」

 カヌレ領は宰相の領地だ。表立って私との婚約は反対はしないものの、やはり娘と結婚をさせたいという事だろうか。


「一応警戒をしておいた方が良い」


 殿下はそういうとまた静かになり、部屋には私の鼻歌だけが響く。


 殿下の顔色が良くなった頃には、寝息が聞こえ始めた。顔の上にあった手はズルッと下に垂れ下がり、彼の寝顔が見える。


 かっ……かわいい!!


 流石、私の推し!寝顔が神々しい。このスチル追加して欲しい。せめて写真を撮りたい。


 何も出来ない事を嘆いていると、真面目くんが毛布を持って近づいてきた。


「殿下は最近寝つきが悪く睡眠が不足しておりました。宜しければしばらくこのまま寝かせて差し上げて下さい」


 私が頷くと真面目くんは殿下に毛布を被せ灯りを少し落とした。


 動けなくて退屈な私はスティーブに本を取ってもらい読書をするが、如何せんここにあるのは眠たくなる教養の本ばかりだ。


 体は人肌が触れて温かく、薄暗い部屋では殿下の寝息だけが聞こえる。


 私が寝落ちしてしまうのは言うまでもない事だった。


次回はルーシーと殿下が出会います。

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