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城での退屈な生活③

「そうなのルーシー?」

 アリアは気まずい顔をしている。

 このままでは折角築けそうな友情にヒビが入ってしまう!


「家の事情がありまして……。今は只のメイドのルーシーだわ」

 

 2人はハッとした顔になる。何か察してくれたようだ。肌荒れ1つないこの手では下手な誤魔化しはしない方がいい。良家のお嬢様は働きに出てもメイドなどの下働きではなく、自分より格上の家の令嬢の侍女になる事が多い。

 私の事は転落した貴族とでも思ってくれればそれで良い。


「ルーシー、変な事を言ってしまってごめんなさい。美味しいものがあるの一緒に食べよう?」

 アリアが雰囲気を変えようと明るい声をだした。ちくりと胸が痛む。嘘をついてしまって私こそ謝りたい。


「ほらよ」

 トーマスがカウンターに出したのは美味しそうなケーキやマフィンだ。


「わぁ、こんなに!今日は凄いのね」

「ルーシーは新入りだろ?特別だ」


 アリアはふふっと笑って私の耳元で、ごめんって言いたいのよっと教えてくれた。


「ありがとう」

 私とアリアはケーキを一つずつ貰い席に座る。

「美味しい」


 私が舌鼓をうっているとトーマスも3人分の紅茶を持って席に座る。


「上等な菓子だろ?聖女様から下賜された分だ」

「ぐっ……」

 変な所に入ってしまった。


 そっか、これ昨日の私のおやつか。道理で上等なわけだ。


 軽く咳き込んだ私の背中をアリアがさすってくれる。

「大丈夫?」

「ありがとう。聖女様のケーキなんてなんだか贅沢ね」


「ご利益ありそうだろ?」

 トーマスはニカッと笑う。


 うーん、あるかなぁ……。


「トーマスがこっそり用意してくれるから、私もこうやってたまにゆっくりお茶するの。幼馴染の特権なんだよ」

「おう、もっと褒めてくれ」

 くすくす笑いあう2人はとってもお似合いだ。私の頬まで緩んでしまう。


 しかしその雰囲気を壊すように、キッチンの奥の扉がバタンと開いた。

「トーマス、またクズだ!処理しとけ〜」

「はい、今行きます!」


 キッチンの奥には扉がありそこには貴族用の厨房があるのだとアリアは教えてくれた。そこから来た中年の男性は、トーマスの上司だろう。木で編んだバスケットに野菜が入っているのが見える。

「これ全部だ」

「今日はまた多いですね、わかりました」


 中年の男はバスケットをトーマスに渡すとまた奥の扉に戻っていき、ガチャリと鍵をかけた。


 トーマスはため息とともにバスケットを厨房に置いた。


「どうしたの?」

 アリアが尋ねるとトーマスは野菜を厨房から、私達に見せてくれる。両断されたなすのような野菜は中身の一部がスプーンでくりぬかれたようにない。


「害虫?」

 私の問いにトーマスは首を横に振った。

「わからないんだ。そもそも城の御用達の畑から用意しているのに、こんな状態なのもおかしい。最近こんな野菜が度々混じるんだ」

 トーマスは手に持った2つのなすをぴったりと合わせる。

「外は綺麗なのね」

 アリアが呟いた。綺麗だから余計ダメになっているかどうか、わからないのだろう。


「ただこの野菜甘いんだよなぁ」

「不思議ね」

 私の住んでる世界とは異なるのだ。この世界特有の現象かもしれない。


「野菜本来の甘味だったらいいんだが、全部一辺倒に甘いというか……。棄てるのが勿体無くて、前にスープにしてみたことがあるんけど、一口でやめたよ。舌がバカになる」

「甘いのなら食べやすそうだけどなぁ」

「お前は野菜が嫌いなだけだろ」

 トーマスに突っ込まれたアリアはうぅっと唸っている。



 私の友達のアリア超かわいい。




 ケーキも食べ終わった私はアリアと別れ休憩室を出て元の大きな廊下に戻る。


「よかった、迷わなかったわ」

「それはようございました」

 一安心から出た独り言に、背後から返事が返ってきた。聞き馴染みのある声だ。おそるおそる振り返るとそこには見知った顔があった。


「キ、キール兵団長……」

「昨日の幽霊事件は兵がなかなか口を割らぬので大変でした」


 あぁ、だから昨晩いた見回りの兵が居なくなっていたんだわ。


「兵達を怒らないで下さいね」

「あいつらには情けないと喝はいれさせて頂きましたよ」


 庇ってくれた兵に感謝である。


「わたくしは部屋に戻されるのでしょうか?」

 私がショボンとしていると兵団長は一度髪をクシャッとして、首をゆっくり横に振った。

「お戻り頂いても、貴女はまた違う手段に出るのでしょう?でしたら、私も貴女の散策のお供をさせて下さい。そちらの方が安心できます」


「まぁ!キール兵団長!」


 私のことをよく分かっていてくれて嬉しい!


「貴女があの部屋で大人しくしているはずがないと、私もレイ殿下も王妃様に申し上げたのですが。不便をかけ申し訳有りません」


「いえ。わたくしも騒ぎを起こして申し訳ありませんでした」


 お互い頭を軽く下げると、キール兵団長と目が合って互いに自然に笑みが溢れた。


「それで、どこへ行くつもりだったのですか?」

「これから、魔物対策研究課まで……」


 キール兵団長は嫌な顔をした後、私の包帯に目をやった。


「ま、まさか……?」


「あっ、いえ!これはたまたま……うーん、不慮の事故!なのです。決してマッドに何かされたとかそういう事ではないのですよ!」


 私が言葉を重ねるたびキール兵団長の目の色が変わっていく。


 本当の事を言ってもマッドが疑われるのは、彼の日頃の行いのせいだろう。


「魔物対策課の彼はとても優秀で王の役にも立っている。だが、それを補って余りあるほどの変人だ。君も、あそこには不用意に一人で出入りしてはいけない」


「はい」


 厳しい口調で窘められれば、私は言う事を聞くしかない。それに、私もノエルが出入りしていたら同じことを言うはずだ。


 キール兵団長が魔物対策課のドアをノックすると、嬉々としてマッドが飛び出してきた。


「聖女様!待ってました〜。さぁ、はやく昨日の続きをしましょう」


 私はマッドに腕を掴まれ強制的に中に連れ込まれる。


「きゃっ。待って下さい、マッド!今日は兵団長も一緒にきたので挨拶を……」


「挨拶なんていらないっす。時間が勿体ない」

 マッドは私をストンと椅子に座らせた。目の前の机にはまだまだ大量の空の魔石がある。少々げんなりしてしまう光景だ。


「あら、なんだか最後に見た時よりも増えている気がするわ」

「昨日実験で少し使ったっす」


 やっぱり増えてるっ!


「これ終わるのかしら」

 私はぼやきつつ掌に収まる手頃な石を2つ拾い、それぞれ両手に持って魔力を込める。


 すると、ずっと見ていたキール兵団長が真っ青な顔でマッドに話しかけた。


「まさかこれ全部を魔力で満たすつもりなのか?」

「はい!今日の分っす!ぐぇ」

 にこやかに答えたマッドの首を兵団長はキュッとしめた。


「ぎゃ!兵団長何をしているのですか」

 私はパタパタ兵団長の腕を叩く。


「はっ、つい!いいですか、マッド。こんな量を一人の人間が満たせる訳がないでしょう!それとチェルシー様に傷を付けたのは貴方ですか?話の内容次第では減俸どころではすみませんよ」


 通常数日で1個の魔石を満たせれば良い方だ。本当に、マッドで無ければ私もここまで協力しない。


「兵団長、まずは手を離しましょう。マッドは聞いておりませんわ」


 マッドは顔を青くしてガクンと首を下に垂らしている。


「失礼した」

 キール兵団長はゴホンと咳払いをしマッドの首から手を離すと、マッドはゴホゴホと咳をした。

「ひどいっす」

「聖女様にこんな無理をさせてはいけない。少し考えれば分かるだろう!」

「兵団長だって、こんな武器欲しいな。あんな武器欲しいなって報告書送ってきたじゃないっすかぁ〜!」


 私はスゥッと白い目を兵団長に向ける。


「いや、私は遠征中の報告書にそう書いただけです。こんな絞り取るような方法は反対です」


「心配頂きありがとうございます、キール兵団長。無理のない程度にやりますわ」

「そうっす。次いつ補給して貰えるかわからないんで、今の内に貰っとかないと!」

「城を出ても定期的に来ますわ、安心してくださいませ」

「聖女様っ!」


 マッドにひしっと抱きつかれたが、キール兵団長が剥がす。襟首をつかまれて猫のようだ。


「くっつくな!」

「っす〜」

 こうやってみると、マッドが天才だとは思えない。



「そうだ。キール兵団長がいるなら丁度いいっす。この石の効果が人間に対してどの位効くのか色々見てみたいっす。大怪我している兵士はいないっすか?」


「兵はチェルシー様の治療を受けたばかりで皆元気だ」



 マッドは途端にテンションがダダ下がりする。

「誰か一人くらい残しといて下さいよぉ」

 そんな顔されても。


「うーん、そうですね。もし怪我人が欲しいのなら、模擬戦でもしますか?わたくしも体を動かしたいのですが」


「そんな所にチェルシー様を連れ出せませんよ!」

「大丈夫です。行くのはメイドのルーシーですから」


「ルーシーっすか?」

 マッドの疑問に答えるように私は立ち上がりメイド服でお辞儀をしてみせる。

「メイドのルーシーです」


 マッドの顔がきらきらし始めた。

「完璧っす!」

 対照的に、キール兵団長は頭を抱えている。

「その変装は遠征に参加した者には簡単に見破られていたが……」


「大丈夫です!明日は髪色も変えますわ。模擬戦楽しみです!」




次はレイ殿下の出番です。


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