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城での退屈な生活②

「本当にあのマッドサイエンティスト!こんなに魔力を絞る取るとは思わないじゃない」


 結局、箱いっぱいにの魔石に魔力を満たすことは出来なかったので、また明日も行くことになった。


 来た道をとぼとぼ引き返すと兵の数が何故か倍以上になっている。幸い暗くなって顔が見づらいのか、私だとバレることは無かった。


 私はクロエの部屋に行く。手紙の返事を渡さなければいけない。返事はマッドの研究所で書いた。


 勿論、内容はまたご縁があればというお断りのものだ。悪役令嬢と関わるなど面倒なことこの上ない。


 いざ、たどり着くとクロエの部屋の前には兵がいた。


 さっきはいなかったのに。


 ドアの前の兵に聖女の手紙をもってきた事を伝える。兵は部屋の中の者と数度やりとりをし、中に入れてくれた。



 入室すると皆の目が私の首や手に巻かれた包帯にいき、ハッとした顔になる。

「あなたもでしたのね!大丈夫ですか?」

 侍女に不思議な心配されて私は適当に頷く。

「ええ。大したことはありません。こちらが聖女様からのお手紙でございます」


 私が差し出した手紙をクロエが受け取る。

「ありがとう。この度の幽霊騒ぎは大変でしたね。後はゆっくりおやすみなさい」


「幽霊騒ぎ、ですか?」

「あなたもやはり記憶が無いのね」

「はい」

 

「まさか城にこのような騒ぎが起きるとは思わなかったわ……。あぁ、貴女。また明日の朝掃除に来て下さる?」

 にっこり笑う公爵令嬢に逆らう術はない。

「かしこまりました」


 釈然としないままバルコニーの下に戻った時には日が完全に落ち、真っ暗になっていた。こっそり壁を伝って自分の部屋に戻る。


 バルコニーに着きガラスの窓をノックすると部屋にいたスティーブは泣きながら出迎えてくれた。


「まぁ、スティーブ!そんな泣かなくてもいいのよ」


「泣きたくもなりますよ!兵がチェルシー様の安全を確認にきたりして、誤魔化すの大変だったんですからね!って、なんですかその包帯は!?まさかお怪我を?」

 スティーブはいつも下がっている眉尻をより垂らし包帯を見つめる。


「確認?珍しいですね」


 私は怪我を深く聞かれる前にスティーブの話の続きを促す。兵はいつも扉の前に立っているだけで、中には干渉してこない。


「どうやら、今日兵士が廊下でバタバタ倒れていたらしいですよ。目が覚めても何者がやったか、彼らは全く覚えていないとか。中にはメイドにやられたって証言している者もいて、メイドの幽霊でも出たんじゃないかって……」

 私がどんどんと気まずい顔になっているに気づいたスティーブは私が今なんの服を着ているか思い出したようだ。


「ま、ま、まさか……?違いますよね?」


「知り合いだったので、こうシュッと」

 私は空中に手刀を入れる。


「もぉ〜!何やってるんですかぁ。散策くらい大人しくして下さいよ」


 スティーブに肩を揺さぶられ私はさっきのクロエの部屋の出来事に納得した。私もその幽霊騒ぎの被害者だと思われたらしい。


 襲われた兵達が何も言わなかったのは私に気を使っての事だろう。遠征中一緒だった兵もいた。ありがたい事だ。



「今日はもう疲れたし、朝早いからさっさとお風呂に入っちゃおうかしら」


「そのお怪我のお話をしてくれなければお風呂の用意など出来ません!」


 珍しく強気なスティーブに私はキョトンとする。

「痛い所はお湯に浸からないわ」

「そういう問題ではありません!お嬢様に何かあったら皆悲しみます。勿論、僕も」

 スティーブは私をソファに座らせて包帯を解いていく。怪我の様子を見たいのだろう。


「ありがとう、スティーブ。毒を被ったのだけれどすぐに浄化したから平気だわ。後は薬をつけて治すだけね」

 私は《アイテムボックス》から緑色の瓶を取り出す。中にはマッドに分けてもらった塗り薬が入っている。

「城で毒を、被る?」

 有らぬことを想像してそうなので私は急いで補足した。

「違います。毒を持った人とぶつかっただけですわ。わたくしだからと狙われた訳ではありませんよ!」


 傷口を見たスティーブはため息を吐いて、お風呂場の方に足を向けた。

「今日は体を拭くだけにしておきましょう。それ、痛いでしょう?」

「・・・・」

 私は押し黙る。アレンが側にいてくれたら良いのにと思う程には痛い。


「それと明日は殿下からディナーのお誘いが来ていますから、無茶してはいけませんよ!」

「殿下から?わかりました、気を付けます」

「お願いしますね」



 スティーブに半目で見られた私はさっさとベッドに入る。そして、その日の夜は思った以上に傷が痛み、最悪の夜となった。




 翌朝喚くスティーブを放置し私は再び部屋を出る。今晩は、レイ殿下と一緒に夕食をとる予定となっているので早めに戻らなければならない。


 今から向かうのは悪役令嬢のクロエの部屋だ。掃除用品を用意して欲しいと伝えたら、なんだかんだ準備してくれるのがスティーブの良い所で有る。


 昨日クロエの部屋の前に立っていた兵士は見当たらない。代わりにそこに立っていたのは一人のメイドだ。掃除道具を抱え途方に暮れた顔をしている。


 私に気がついたメイドは十代半ばだろうか、幼さが残った顔立ちをしている。

 同じく掃除道具を抱えた私を見て、顔を少し明るくした。


「貴女がクロエ様が言っていたお掃除の方?」

「はい」


 彼女は縋る様にぎゅっと私の手を握る。

「よかった。クロエ様、掃除を頼んだ人がいるから連れてきてって、そればかりで。誰に頼んだか、名前もわからないと仰るので困っていたの!ってあわわ」

 メイドが両手に抱えた掃除道具がバランスを崩し廊下に散らばった。


 そりゃあ、手を離せばそうなるわよね。この子かなりのうっかりさんとみた。


 彼女はきっと本来のクロエの部屋の担当のメイドだろう。私はしゃがみ、メイドが落とした掃除道具を拾うのを手伝う。


「はい、どうぞ」


 ブラシを渡すと、メイドはポーと私を見つめている?

「どうかしました?」

 私が首を傾げるとメイドはハッとなり、あわててブラシを受け取った。


「すみません、所作やお顔が余りにも綺麗なものだから、つい」

「まぁ。ありがとうございます」

 直球で褒められれば嬉しい者だ。笑顔でお礼を述べたらメイドは顔が真っ赤になってしまった。


「早くお掃除しちゃいましょうか。私は不慣れなので一緒に手伝って貰えますか?」

「はい!」

 


 ノックして返事を待ってから入室し、侍女と短い挨拶を交わすと掃除を始める。私は手始めにパタパタと埃を叩いた。


 すると、背後から部屋の主から声がかかった。

 

「あなた、聖女様から直筆の手紙を貰ってくるなんてどうやってなさったの?」


 どうやって、っといっても本人だし。


 私が意味を考えているとクロエの侍女が補足をする。

「噂で聞いた限りでは聖女は兵に囲まれ、誰にも面会や手紙のやりとりの許可を出さないそうです」



 あっ、手紙返しちゃダメだったのかな。そう言えばここに来てから誰からの手紙も受け取っていない。


 私は、少しひやりとしたものを感じながら、適当に話を作る。


「そうでしたか。では返事を頂けたのは幸運でした。新兵だったからかもしれませんね」


 人が押し寄せない様にレイ殿下が禁止にしてくれてるのかな?



「そう。貴女に伝手があるかとおもったのだけれど」

「いいえ!まさか」

 クロエはジッと私の顔を見る。

「そういえばあなた、名前は?昨日聞いてなかったので、朝は苦労したのですよ」

「ルーシーです」

 名前なんて特に決めていなかった。適当に自分の名前のもじる。


「そう、ルーシー。ではまた手紙を書くから聖女様に渡して下さる?」

「はい。かしこまりました」


 クロエの手紙を受け取りお辞儀をすると上からパラパラと破られた紙が落ちてきた。


 なに?


 頭を下げたまま床に落ちた紙を凝視する。


 それは昨日私が書いた返事の手紙だった。


「あら、失礼。手が滑ってしまったわ。これもお掃除お願いね」


 もう返事は書かない方がいいな。



 散らばる紙を拾い集めそう思った。



 その後、私は黙々と掃除を続ける。その間もクロエは私の側に来ては掃除の不手際をチクチクと指摘してくる。


 じゃあ自分でやればいいのに、と思うがそうは言えないのがメイドである。

 

 掃除が終わり一礼して部屋を退出すると隣のメイドは深く息を吐いた。


「はぁ、緊張したー。ルーシー……はなんだか目をつけられてるみたいだし、気をつけなきゃね。ルーシーって呼んでも良いかな?」

「嬉しいわ。あなたの名前も教えてくれる?」

「アリアよ。暫くは2人で掃除ね。よろしくルーシー」


 この世界にきて初めての女の子の友達ができるかもしれない。それが少し嬉しい。


「ねぇ、ルーシー。お腹空かない?私、良い場所知ってるんだけど」

「へぇ、何処です?」

「こっち!」

 私が興味を持つとアリアは細い脇道に入り階段を下っていく。使用人用の通路だ。帰り道を忘れないようにしなくては。


「じゃーん。休憩室でした〜」

 アリアは悪戯っぽく笑ったが私は初めて来た場所だ。

 古びた4人がけの机がいくつも並んでいる。奥にはカウンターがあり厨房が併設されている。と言ってもメイドや下働きの者用の厨房だ。


「トーマスー!いるー?」

 アリアは掃除道具を終い、カウンター越しに呼びかける。


「いるよ、ってまた来たのか」

 トーマスと呼ばれたその男の子はアリアと同い年くらいの短髪の少年だ。

 呆れた顔をしてカウンターから顔を出した。


「トーマス、私友達が出来たわ。ルーシーよ。ルーシーこの人はトーマス。私の幼馴染で料理人見習いなの」


 アリアの友達なら愛想よくしなければいけない。


「よろしく、トーマス」

 私が手を差し出して笑いかけると、トーマスは後ずさった。


「アリア!この人どう見ても貴族だろ!なんでこんな所に連れてきたんだよ!」


 えっ、もうバレた!?


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