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凱旋式

 30分ほどの歓談の時間が終わった後、凱旋式が始まった。


 アレンが枢機卿として式の挨拶、魔王討伐の遠征中の詳細を告げた。私は跪き、今回の遠征に勝利をもたらした聖女としてアレンから月桂樹でできた冠を頭に乗せられる。これは教皇様が普段被っている物の複製でありとっても栄誉なことらしい。


 頭に冠を乗せられる際小さな声でよく頑張ったね。と聞こえた。その声がなんだかくすぐったくて口元が緩まないようにするこが大変だった。


 約束、ちゃんと守ったからね!


 私が立ち上がり礼をすると貴族から拍手喝采をうけた。

 

 その後、王から労いの言葉と爵位、森を賜った。


 ベルコロネの森を賜った事は貴族にとってとても衝撃だったようで彼方此方から驚きの声が聞こえた。普通はもっと有益な土地を貰うものであるからだ。


 私は大満足なんだけどな。


 これで私は正式にベルコロネ子爵の称号を得ることになる。

 土地を貰ったので税を払わなければならなくなったのがただ1つのネックである。この森は結構広大な土地を有しているのに、働き手はいないので流石に金策を考えても良いかもしれない。


 キール兵団長や騎士達も功績が讃えられ魔王討伐の遠征の武勲や褒賞の授与などが終わると、貴族達がアレンや王へと挨拶に向かった。


 一通り式が終わったので貴族達がこちらにくる前に私はノエル達の元へと向かう。しかし壇上から降りる前に背後からから声がかかった。


「聖女様」


 その上品な声に緊張が走る。振り向くとそこには30代くらいの美しい女性が扇子を広げ微笑んでいた。


 この場で誰よりも華やかに着飾った女性、即ち王妃様である。

 私は慌ててカーテシーをする。

「お初にお目にかかります、妃殿下。チェルシー・シュガーレットでございます」


「貴女にようやく会えて嬉しいわ。魔王討伐は本当に大儀でした。それにしても噂通りお人形さんみたいな顔をしているのね。レイはいつも貴女の話をしてくれるのよ」

「光栄です。殿下はいつもわたくしを助けて下さるので感謝してもしたりません」


「ふふ。2人の仲が良いみたいでわたくしも嬉しいわ。あっ、そうだわ。レイ、聖女様をエスコートしてあげて頂戴。先ほどのように沢山の人に囲まれてしまっては大変でしょう」


 王妃様は少女のような顔で笑う。その笑顔になんだか絆されてしまいそうになる。しかし、人をこうさせるのがきっとこの人が王妃様である所以なのだろう。


 丁重にお断りしてさっさといこう。


「殿下に挨拶したい者もございましょう。わたくしが独り占めしてしまっては申し訳ありませんわ」


「いや、先程は余りに騒ぎになったのでな。私が側にいよう」


「……ありがとうございます」


 私は解せない気持ちを隠しお願いした。囲まれて困る、と言うよりは王族の誘いを何度も断る訳にはいかない。


 私は殿下にエスコートされ外のテラスまで歩いた。此処では2人きりになる。


「殿下、わたくしとの噂は消して回るのではないですか?」

 私が不満全開で唇を尖らせると殿下は苦笑しながらテラスにもたれかかった。

「君の制御を出来る者が側にいないと1の事柄が100になってしまうからな。凱旋式は教会が催すものだ。枢機卿は主催として壇上を降りれないのだから、私しかいないだろう」


「教会はそんなこともするんですね」

「あぁ。だからこそ対立はしたくない」

「そうですわね。上手く片付けば良いのですが」

「そうだな」


 殿下が見上げた星空を私も見る。もう秋の夜は肌寒く肩が出たドレスでは些か寒い。私が口元に両手を当てはぁ、と息を吐くとレイ殿下は自分が着ていたジャケットを脱ぎ私の肩に掛けてくれた。


「殿下はお寒くはありませんか?」

「いや、少し暑いと思っていたくらいだ」

 そんな訳ないのに。殿下の優しさが嬉しい。私はジャケットの襟をキュッと掴んだ。


「ありがとうございます。温かいです」


 私がお礼を言うと殿下も優しく微笑んだ。

「そう言えば、其方が以前捕まえた誘拐犯のことだが」


 遠征に行く前に捕まえて、城に引き渡した人達のことだ。


「何かわかりましたか?」

「うむ。どうやら其方を捕らえてくるよう依頼を受けてたようだ。御者は王都の門まで運んでくるよう指示を受けたらしい。其方をどこに、なぜ連れて行くのかは誰も知らなかった」


「そうでしたか。それで依頼主は?」

「奇妙な少年だったようだ。ロゼの国の風貌をしていたらしいが」


 それを聞いて私はうなづく。


「エリスとやらだと思われる。ノエルからも奴の足取りの報告を聞きたい」

「兵からはエリスの足取りは掴めませんでしたか?」

 レイ殿下はため息を吐き首を軽く振った。

「おかしなことに何処からも目撃報告が上がらない。下手したら国内に協力者がいる可能性もある」

「それはゾッといたしますわね」

 


 私はガラス越しに、ホールにいる貴族達を見つめる。この中の誰かが裏切り者なんて、考えたくはない。


 これだから、社交界って嫌なのよね。

 でもそんな事も言ってられない。


「この後、わたくしのところに沢山お茶会の招待状が来るでしょう?少し探ってみませんか?」

 レイ殿下の耳はピクリと反応する。

「面白そうだが、其方を一人で行動させるにはやはり不安が大きいな」


 やっぱりダメかぁ。


「一人じゃなきゃ?じゃあわたくしの側近のスティーブあたりに女装させてみるのは如何でしょうか?」

「可哀想だからやめてやれ」

 心底憐れな目をした殿下に止められた。

「お役に立てず残念です」


 私が悔しがり肩を落とすと、殿下は私の頭をポンポンとした。

「そう、落ち込むな。其方には其方の、出来ることをやれ」

「わたくしの出来ること……」

 何かが閃きそうな気がする。


 何かあるだろうか。この先の、各キャラクターのルートを思い出せ。


 私が目の前で風に揺れる木々をぼぉっと見つめていると、体の中の魔力が揺れ動くのを感じた。


「チェルシー!!」

 殿下のその声に私はハッと意識を戻す。違和感を感じ手のひらを見れば指先が少し透けて向こう側が見えた。


 なに……これ。


 私が呆然と自分の手を見つめていると殿下が覆いかぶさった。

「殿下?」

 私の指は殿下の胸板をすり抜ける。

「万が一、人目に触れたらまずい」


 他にも透けている箇所があるのかもしれない。私はうなずき魔力を体に巡らせる様に集中させる。


 治れ治れ治れ!


 私が集中すると、どんどん色が戻り殿下に触れる事が出来た。


 私は冷や汗が垂れると同時に腰が抜けてしまい、殿下の方に倒れこんだ。


「すみません。足に力が入らなくって」


 まだ心臓がバクバクうるさい。

「いや、大丈夫だが……先程のは?」


「わたくしにも何がなんだか」

 そう言って私は一つ心当たりがあるのに気がついた。


 私が喚ばれたのは魔王を滅して欲しいと言われたからだ。

 異分子の私を世界が拒絶している……?その考えに私は青くなり首を振った。


 何か他の理由があるのかも。まだ確定するのは早い。


「このことはアレン様に秘密にして頂けませんか?」

「しかし……」

「お願いします。それともレイ殿下は、わたくしが何者か不審に思われたでしょうか」

「いいや。私はチェルシーが心配なだけだ」


 自傷気味に言った私の言葉に殿下は強く否定し、私の手を握った。殿下からは、不気味がる様子などないことにホッと息を吐く。


「魔物だと言われたらどうしようかと思いました」

 私の苦笑に殿下はこつりと私のおデコに握った手を当てる。

「そんな訳ないだろう。前にも言ったが私は其方のことを大事な妹の様に思っている。もっと私を信じろ」


 その言葉にぐっと胸が熱くなる。

「ありがとうございます。なんならお兄様と呼んでもいいですよ」


 私が冗談めかして言うと殿下は私の両頬を挟んだ。

「我が妹になるならそれなりの教育をしてやるぞ?」

「遠慮いたします。すみませんでした」


 するとバタンとガラスの扉が開き、殿下の側近の真面目くんが真っ赤な顔で叫んだ。


「ででででででで殿下!この様な場所で何をしていらっしゃるのですかぁ」


 声が裏返っている。少し落ち着いて欲しい。


「チェルシーと話していただけだが?」

 同意を求める様に殿下は私の方を見るので、私も頷く。


「私めからは、くくくく」

「く?」

 真面目くんが何を言いたいかわからなくて私は首を傾ける。

「くちづけ、をしている様にしか見えませんでした」


 私はギョッとし、そして真面目くんの後ろには王子の動向を興味深そうに見ていたであろう貴族と目を爛々と輝かせているご令嬢、そして壇上に小さく、怖い笑顔をしたアレンの姿が見えた。


 私は慌てて手を振る。


 そんな注目を浴びていたなんて!


「誤解です!」

「まぁ、全て誤解とは言えぬがな」

「誤解しかありませんでしてよ?」

 私が真っ赤な顔になって否定すると殿下は面白がる様に私の頭をポンポンとした。


「お前は面白い妹だ」

「アレン様には一緒に説明して下さいよ」

 私が恨みがましく言うと、レイ殿下には自分で頑張れと言われてしまった。

 本当に私の推しは自由な人である。


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