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クロエ・カヌレ

前回の投稿の「パーティ」と書いた部分を「凱旋式」に統一しましたm(__)m

 私はレイ殿下の腕に手を乗せ階段を降り、大広間へと進む。レイ殿下の服装は青と金が基調になっており、私の今のドレスと完全に対になっている。

「枢機卿が怒りそうだな」

「城のメイドにしてやられたのは2回目です。ですが、殿下とこうして入場出来るのは光栄ですわ」


 私はなるべく殿下が気にしない様努めた。

 私達が入場すると会場の貴族達は感嘆の声を上げた。やれお似合いだとか、やれこの国は安泰だとかそんな声が聞こえる。外堀を埋められていくこの感じが本当に恐ろしい。


 アレンを探すと直ぐに見つかった。ノエルとスティーブと一緒にいるのだが、改めて見ると顔面偏差値が高すぎる。ご令嬢達の熱い視線が集まっていた。


 子爵令息のスティーブは兎も角、ノエルはどうやって入ったのだろう。

 わたしがその輪の中に入ってくとご令嬢達の視線が厳しいものに変わるのがわかった。


 今まで社交界なんて放ったらかしだったものね。


「チェルシー、ちょっとおいで」

 わたしはアレンに呼ばれ近くにいく。

「どうしました?」

 アレンは小声でわたしに指示を出した。

「今、僕との関係が社交で噂されると今後良くない。僕は殿下と婚約の話を否定して回ってくるから貴女は大人しく待ってて。いいね?大人しくだよ」


 2回も言われた。


「わかりましたわ。よろしくお願いします」

 アレンはレイ殿下と共に身分の高そうな人達の輪に消えていった。


 私はノエルとスティーブと一緒に食事をとった。ノエルは500年前に封印されていたので今の宮廷料理に興味津々だ。

「何だあの赤い食べ物は」

「トマトですよ。綺麗でしょう?」

 スティーブはノエルが何が尋ねる度、にこやかに返事をする。

「ふむ、毒にしか見えぬ。食べてみよう」

 ……あ、食べるんだ。

 ノエルとスティーブの会話はとっても微笑ましい。

「ノエル、楽しいですか?」

 私が聞くとノエルはくくっと笑い、退屈しないと言った。


「そう言えば、わたくし良いものを褒賞で頂いたのですよ!なんだと思います?」

「勿体ぶらずに早く言え」


「実は……、わたくしベルコロネの森を頂いたのです!これで城もルナちゃんも守れますわ」

 私が胸を張って言うと、ノエルは少し目を見開いた後、嬉しそうに微笑んだ。

「よくやった」

「ありがとうございます。そこで相談なのですが、森の管理はわたくしと一緒にして頂けませんか?」


「任せておけ。私以上に詳しい者はいない」

 ノエルは嬉しそうだ。彼にとってあの土地はそれほど大事な場所なのだ。


「ノエルが嬉しいとわたくしも嬉しいです。こうしてわたくしとも思い出を作っていきましょうね」

 私が笑うとノエルは生意気だ、と私の頭をクシャッとした。

「もう、崩れてしまうではありませんか」

「解いて仕舞えばいい。お前にその様な装いは似合わぬ」

「それは失礼だと思います。せめて馬子にも衣装くらい言ってくださいませ」


 私の抗議にスティーブがうんうんと頷く。

「そうですね、ノエル様の貫禄はセドリック様の様で安心致します」


 流石にスティーブもここで、魔王様とは言わない。


 っていうかセドリック様って私のお爺様じゃない。孫じゃなくて馬子だから、馬子!



「ふん、私から見れば貴様らなど赤子の様なものだ。それでその色とりどりのものはなんだ」

 ノエルの視線の先には色とりどりのチョコレートが一粒ずつに綺麗に飾られている。上にはナッツやドライフルーツが飾られ見るだけで胸がときめく。


「チョコレートですわ。カカオとミルクとお砂糖で出来ています」

「固形になっているのか、砂糖ということは苦くないのか」


「お一つどうですか?」

 本当に苦くないのか、と疑うノエルにスティーブが食べてみてくださいとゴリ押しした結果、ノエルは渋々ナッツの付いたものを一つとる。


 眉間に皺をよせ口に放り込むと、すぐその目は驚きに見開かれる。


「甘い……!」


「美味しいでしょう?こっちにリキュールが入ったものも有りますわよ」


「貰おう」


 ノエルはまた一粒口に放り込む。

「なんだこれは。中から酒が出てきたぞ!」


 あぁ、その感動わかるよ!私も初めて食べた時感動したもの!


「これも思い出になりますか?」

「あぁ、森をカカオで埋め尽くしたいくらいだ」

「まぁ」


 よっぽど気に入ったらしい。


 スティーブがあれもこれも進めていると人垣が割れ、令嬢の一団が私を取り囲んだ。

 それを率いているのは社交界の花、クロエ・カヌレ公爵令嬢である。きついウェーブのかかった金髪に赤い瞳が特徴的だ。


「はじめまして、チェルシー様。この度は遠征ご苦労でしたわね」

「ありがとうございます」

「わたくしもいけたらよかったのですが国政のお勉強が忙しいでしょう?チェルシー様はさぞ優秀なのでしょうね。羨ましいわ」


 明らかに牽制かけてきている。


「クロエ様、わたくしはこの度の遠征の主役として取り立てて頂いたに過ぎません。国の事はしかるべき方にお任せ致します」

 私は王妃になるつもりなどないよと暗に告げるとクロエはワザとらしく大声で驚く。


「まぁ、王妃としての責務を投げ出すつもりですの?」

 この声に周りが静かになる。私達の会話に聞き耳を立てているのだろう。

「いいえ、わたくしはクロエ様こそが王妃に相応しいと思っています」

「ご冗談を。聖女の地位がそこまで高貴なものだなんて知らなかったわたくしが愚かなのです。わたくしも妃としての品位ではなく魔力を上げる訓練をすればよかったのですわ」


 クロエの仕草は正に悲劇のヒロインだ。強さを秘める瞳からは今にも涙がこぼれ落ちそうで、同情を誘う。そこに一人の取り巻きが横から支える。

「お可哀想なクロエ様、誰よりも婚約者としてのお立場を考え行動してきたと言うのに」

 そう言って取り巻きは私をキッと睨む。


 えぇ!?私王妃なんてならないって言ってるのに!



「貴様のその粗悪な魔力では何者にも成れぬ、控えよ」

 いきなり話に入ったノエルの一言でその場の皆が固まる。

 

 この人は魔王だ。誰よりも強い力を持つ。しかし、この場でそれを知っているものはいない。


 この空気に一番に反応したのはクロエだ。

「貴方、何処の家のものですの?」

「貴様に答える義理はない、下がれ」


 彼の尊大な態度に場は騒めきを隠せない。公爵令嬢にこんな高圧的な態度を取れる身分のものは限られている。周りにいた貴族からは、何処の高位の家のものか、隠し子かと聞こえてくる。



 軽く扱われたクロエの表情は屈辱の色に染まる。

「あら、ではそこの伯爵令嬢はさぞ素晴らしい魔力をお持ちなのでしょうね?」


 ノエルは当たり前だと頷く。


「では皆にも確かめて貰いましょう。聖女の力がどれ程のものなのか」


「へ?」

「なんだ、毒でも使うのか?」

 ノエルは冷笑を浮かべる。


 いや、そんなことするのは貴方くらいですよ。


「そんな無粋な真似はいたしません、パーティの最中ですもの。そうですね、是非わたくしたちの誰かに癒しをかけて下さらないかしら。一人でも貴女の能力に納得出来るいる者が出たら、わたくしも貴女の魔力の質がいかに素晴らしいものか知ることができるでしょう」


 クロエはにこにこして私を見る。私が王都を大規模浄化した時は、クロエ含む、土地持ちの貴族は王都には居なかった。私の力など半信半疑なのである。


 そして、まだ年若いご令嬢達に癒しをかけてもどこも悪くないので私の力は証明出来ない。大魔法をパーティの場でいきなり使うのは混乱を招くし、また騒ぎ立てる者も出よう。



 取り巻きのご令嬢達はにやにや私を見ている。腰の痛みや靴擦れなどを治してやっても、人前に露出できない部位であるし、骨折した時のカークの様にしらばっくれられて終わりだ。だが、ここで逃げ出せば聖女の名に傷が付く。


 私は令嬢達の顔を見渡す。

「やれるだけやってみましょう」

 それを聞いたスティーブがこそっと私に耳打ちをする。

「お嬢様、デコピンはしてはいけませんよ!」


 そんなことする訳ないでしょ!



 私は一人のご令嬢に近づく。

「失礼します」

 一言断りをいれ、令嬢の顎を持ち自分の方に向かせた。


「なんですの?」

 私は怯えるその顔をじっと見つめて手の指だけに〈聖女〉の魔力を集中させる。この位だったら歌なし……つまり無詠唱でも可能だ。


 指から淡い青色の光が溢れ、それを令嬢に向けると彼女はひっ、と小さく悲鳴を上げ体を強張らせた。


「痛みはございません。どうぞリラックスしてくださいませ」


 私は指を令嬢の頬に当てる。そしてしばらくして、手を離すと彼女は一変して勝ち誇った顔で私を見る。


「何も変わった所などございませんでしたわ!」


「アンジー、ちょっと待って!」

 そう言って彼女の顔を覗き込んだのは恐らく彼女の友達だろう。じっと覗き込み、驚きを隠せぬように呟く。


「貴女のそばかす……全部消えてるわ」

「えっ!?」

「お化粧で隠してたからどこまで消えているかは分からないけど、今は全く見当たらないわ」


 アンジーと呼ばれた令嬢は目を見開き、周りにいた令嬢やご婦人からはギラリとした視線が注がれた。


 その中でクロエの取り巻きの一人がおずおずと私に話しかけてきた。

「あの、……とかでも治せますか?」

「?」

 肝心な所が早口のうえ小声で聞き取れない。


「吹出物です」

 話しかけてきた令嬢は顔が真っ赤だ。確かに彼女の肌は荒れている。スキンケアを怠っている訳ではないだろう。思春期ならではのものだ。


「治せると思いますわ、失礼しますわね」

 私は掌を令嬢の顔にかざし魔力を注ぐ。しばらくして、わたしが手を下ろすと彼女は自分の顔を触り、あるべき筈のものをあちこち触る。


「…….ないわ。ツルツルになってる」


 その声に反応した数々の令嬢やご婦人がにじり寄せてきた。女性が美にかける執念とは恐ろしいものである。多分私が社交界やお茶会に姿を現さないのもあるのだろう。この機会を逃せば次にいつ、縁があるかわからないのだから。


 そして私は太った年配のご婦人に手を引かれる。

「聖女様、次はわたくしともお話しいたしましょう。此処は騒がしいのでバルコニーの方に行きませんこと?」


「お待ちくださいませ、わたくしまだクロエ様とお話しが」

 私がクロエに視線を向けると皆の視線が一斉に彼女に目を向ける。彼女はこの状況に呆気に取られたようで目を瞬いている。

「へ?あ?あぁ、もういいですわ」


 えっ?いいの?もっと引き止めてよ!


 私がご婦人に挨拶している間、クロエの横にノエルがスッと並びたち嘲笑った。

「お前ではチェルシーの足元にも及ばぬ」


 クロエの顔がカッと赤く染まった。

「ああ〜ノエル様はまた!クロエ様はチェルシー様のような破茶滅茶な方では無いのです。お気を悪くさせてしまってすみません。これ、最後の1つのチョコレートなのですが宜しければどうぞ。とっても美味しいのですよ」

 屈託無く笑ってフォローするスティーブをクロエは睨み、結構です!と言って取り巻きを連れ去っていった。


 そして私はと言えば周りをご婦人に囲まれたままである。


 クロエ様!この状況を収拾しないまま去って行かないで下さい!


 私が人に溺れていると、チェルシー!と私を呼ぶ声が聞こえ、モーゼが海を割ったように人が左右に分かれていった。


 そこにはレイ殿下の姿があった。

「其方はまた何をしているのだ。心配したぞ」

 私の手を引き、救出してくれる殿下は神様のようだった。

「ありがとうございます。少し人に酔ってしまったようです」


 すると、私達のやりとりに色めき立つ令嬢の声が聞こえた。

「聖女様が心配でいらしたのね」

「素敵だわ。殿下に見初められて結ばれるなんて。本の世界見たい」


 ()に油を注いでしまったみたい。


 そこにアレンもやってきて、恭しく私の手をとる。

「聖女様、御力をその様に振り撒いてはいけませんよ。貴女は教会の大切な方なのですから」

 出来る枢機卿モードのアレンの笑みは女性達を虜にする。


「はぁ、私も一度アレン・デュロイ枢機卿にあんな風に守られてみたいわ」

「無理よ。近づくのも畏れ多い方なんですから!」

「お守り下さる禁断の愛の枢機卿と、見初められて求婚された殿下。どちらも素敵ですわ」


 ご令嬢は皆妄想に耽りため息をついている。


 ……貴方達本当に訂正して回ってきたの?

 噂がより酷くなった気がするんだけど。


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