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褒美

 周りの貴族達がざわめきだした。それはそうだ、元々殿下には婚約者がいる。それをただの伯爵令嬢である私が急遽割り込んだのだ。王宮の派閥もあろう。巻き込まれた私は頭が一瞬真っ白になり気が遠くなるのを感じた。

 まさかこんな場所で、レイ殿下とはなんのフラグもなくこの台詞が来るとは思わなかった。


 殿下はいい人だ。それは間違いなく言えるが私が好きな人はアレンただ一人である。

 目の端に映るレイ殿下を見れば取り繕っているが真っ青な顔をしている。カークとの結婚騒動で奔走したレイ殿下はアレンが私に結婚を申し込む事を聞いているはずだ。


「畏れながら陛下、私の話を聞いて頂いても宜しいでしょうか」

 後ろから聞こえるアレンの声に私はホッと息を吐く。彼ならきっと助けてくれる。


「其方は教会のアレン・デュロイ首席枢機卿だな。許す」

「陛下に覚えて頂いていたこと誠に光栄にございます。聖女様の婚約の事なのですが、実は発表前ですが教会の者と婚約を予定しております。教皇様にも許しを得ているため、殿下との婚約は難しいと思われます」

 王はそれを聞いて愉快そうに笑う。

「そうか。予定ならなんら問題あるまい。枢機卿、情報感謝する」


 婚約するって言ってるよね?私の意見はまる無視なの?確かに伯爵令嬢じゃ何の発言権もないけれど!


「いえ。陛下が何をもっても聖女様をお迎えしたいとの御意志は、聖女様を保護している教会として誇りに思います」

 私はアレンのその言葉に背筋をゾッとさせる。


 今、この人王様脅した……。


 王といえど教会に破門されれば失脚し、生きていくのは難しい。私に手を出せば全てを失うぞと言ったのだ。勿論、王を破門するなどそう簡単に出来るものではないのだが。


「ふむ、教皇様とは近いうちに会うことになりそうだ」

 王はアレンの脅しにも微動だにしない。

「畏まりました。お伝えしておきましょう」

 アレンは粛々と礼をする。


「陛下、畏れながら私からも宜しいでしょうか」

 私は震える手を隠し発言の許可を得る。私も自分の意思を伝える必要がある。

「申してみよ」


「陛下の褒美はわたくしには過ぎたもので御座います。わたくしには人を癒す力しかありません。王妃になる者に必要なものは何一つとして持っていないので御座います」

「お主は今までの様に聖女として国を、王子を支えればそれで良い。それだけで我が国は栄えよう。期待している」

「勿体ないお言葉で御座います」


 ここまで言われてはこれ以上この場で固辞することは出来ない。不敬に当たってしまう。それに、隅にいる宰相が何も言わないということは、王宮内でもきっと根回し済みなのだ。

 何故なら宰相の娘、クロエ・カヌレが殿下の婚約者だからだ。彼が表立って何も言わなければなかなか反対の声も上がらない。

 あくまで表面上は。

 因みにレイルートで登場する彼女は悪役令嬢として登場する。今から嫌がらせが始まるのかと思うと胃がキュッとなる。


 あぁ、折角アレンと気持ちが通じたのに。

 今度はもっと大変な結婚話が出てきてしまったわ。


 次に宰相は話題を褒賞の件に移した。

「またこの度の褒賞として子爵の地位を授ける」

「ありがたく頂戴します」


「どこか希望の場所はあるか?」

 宰相の言葉に私は悩む。子爵は使っていない城や、小さい町などを貰うことが出来る。


 管理するのって面倒くさいのよね。他の上位貴族と揉めるのも大変だし。


 土地は必要ないと口にしようとした瞬間、ひとつの場所が私の頭に浮かんだ。

「ではベルコロネの森を下さいませ」


 その言葉に宰相始め皆が驚きの表情を浮かべた。あそこは代々魔王の土地である。


「ベルコロネの森……あそこは城もあれば実りも多いが魔物も多い。それで良いのか?」


「はい。頂けるのであれば、あの土地以上に欲しい場所はありません」


 その言葉に王は面白がるように笑う。

「良いだろう。聖女は魔物をものともしないとの象徴になるだろう。ベルコロネ子爵の名を其方に授ける」


「ありがとう存じます」


 これは嬉しい。これでノエルの城も始祖竜のルナちゃんも守ることが出来る。


 その後私は記念品としてドレスと装飾品の授与をされ、この後始まる凱旋式の控え室に通された。


 そこにぐったりしたアレンがやってきた。

「先に手を打っておいてよかった。危うく貴女を殿下に奪われるところだった」「今でもかなり際どいですけれどね。わたくしはアレン様と以外結婚するなんてごめんです」

 私が唇を尖らせるとアレンに抱きしめられた。

「僕の婚約者が可愛すぎる」

「ア、アレン様!こんな事している場合では無くてよ」

 私がバタバタ暴れていると、より強く抱きしめられた。

「今しかこんな事が出来ないだろう?」

 そう言って耳元にキスをされた。

「きゃっ!アレン様、それはドキドキします」

「これで?」


 私に悪戯をするアレンの顔はとってもいやらしいと思います!

「心配しなくても結婚するまだ何もしないよ、残念だけれどね」

「もう十分しているでは有りませんか」

「結婚したらこんなものじゃ済まさないよ。期待してて」

 アレンはそう言って髪にキスをした。

「アレン様は存在が犯罪的です!」

「それはチェルシーが犯罪的に可愛いからだよ」

「もう!」


 私は一生アレンに勝てる気がしない。アレンにいいように遊ばれているとトントンとノックの音が聞こえ、女性の声でレイ・スフィア殿下が参りましたと聞こえた。


 私はアレンとサッと離れ入室を許可した。侍女が開けた扉からはレイ殿下を先頭に真面目くんと護衛騎士が現れた。殿下は侍女に暫く部屋の外で待っている様に指示をする。


 レイ殿下は私達の向かいのソファに座り、大きくため息をついた。

「父上が面倒をかけた」

 その言葉に真面目くんが殿下を諌める。

「陛下の事をその様に言うものではありません」

「ここはプライベートな場だ。お前は黙っておれ」

 真面目くんはグッと言葉を飲み込み後ろに下がった。


「教会と王宮の対立が始まってしまいましたね。王宮内を纏めるのは殿下の仕事でしょう」

 アレンが不服そうにレイ殿下に言う。

「まさか、父上がその様にお考えになっているとは気づかなかったのだ。聖女となら釣り合いも取れ、利用価値も大きい。なんせ怪我や病気を一瞬で直し、魔王さえも滅する力を持っているのだからな。取り込めるのなら取り込んでおきたいのだろう」


「へぇ、僕からチェルシーをとるつもりですか?」

 アレンが不敵に笑うと護衛に緊張が走り、レイ殿下は護衛達を手を上げて抑える。

「そのつもりはない。私はチェルシーを妹の様だ、面白い奴だとは思っているが恋愛感情はない。ところが父上はそうは思わなかった」


「どういうことですか?」

 私は首を傾げる。


「私はチェルシーの為にあっちこっち根回しのため奔走し、時には密会もしている。遠征後アレン枢機卿は教会に戻りチェルシーとは離れる可能性もあると思っていた。なので実は、王宮で其方を保護する手配もしていた」


「まぁ。すごく嬉しいです!」

 なんて優しいのだろう。お兄様と呼びたい気分だ。


 ところがアレンは難しい顔をしている。

「それで陛下は誤解なされたのだな。陛下はいい情報網をもっているようだな」


 アレンの皮肉にレイ殿下は親指を後ろに立っている真面目くんの方に向ける。

「こやつが報告していたのだ」


「陛下に報告するのは私の業務の一環ですので」

 真面目くんは眼鏡をクイっと上げる。


 あぁ、密談や私の結婚の阻止をしていたら陛下に思い人だと誤解されたのね。聖女という理由もあるだろうけど、息子思いのいいお父様だこと。


 自分の父親と重ねると随分と父親としても立派である。ただ誤解というのが惜しいところだ。


「陛下に誤解だと伝えては?」

 私の提案にレイ殿下は首を振る。

「あの後、父上に訴えたが照れ隠しとしか思われなかった」


 私はガックリ肩を落とす。

「わたくしとアレン様の婚約は春以降になる予定です。レイ殿下とはなるべく友人関係ということを周知させる様努力しましょう。まさかの褒賞に文字通り驚きましたわ」

「私も其方の褒賞は魔力広域化のアイテムを考えていたのだ。父上は王族になるのだから必要ないと考え、ドレスにしてしまったが」


 広域化!!ぜひ欲しいアイテムだ。全く酷い王である。


「チェルシーを渡す訳には行かない。私も枢機卿として打てる手は打たせて貰う。僕はチェルシーを守ると誓ったのだから」


「アレン様……」

 感動する私に真面目くんは水を差す。

「私としましてはあの公爵令嬢よりも聖女様の方が殿下には相応しいかと思います。あの方の性格はどうにも好きになれません」

 婚約者のクロエはあまり真面目君からの評価は良くない様だ。とても苦い顔をしている。


「そんなこと言ってはクロエ様がお可哀想ですわよ。只でさえ、婚約破棄の瀬戸際に立たされているのですから」


 現状は王から婚約の打診がある段階である。私のお父様が了承を出せば晴れて殿下との婚約が成立する。が王の言葉だ、それを跳ね除けるのは容易なことではない。


 お父様!春まで頑張って下さいね!



 凱旋式の準備をしなければいけないのでそれぞれの部屋へと解散し、先程ドアの前で待機していた侍女達が中に入る。私は王より賜った記念品のドレスでの出席となる。戦闘での効果を確認したが、全く普通の高価なだけのドレスだった。残念な贈り物である。多分もう着ないだろう。


 私は侍女に着せて貰う。眩しい純白の生地がふんだんにあしらわれ高級そうなレースが所々に豪華さを演出してある。メリハリをつける様に金の刺繍があしらわれ、聖女をイメージして作ったドレスなのだと感じさせられた。


 頭も編み込みをそこら中に結われ、上品な化粧を施される。もうどれだけ鏡の前にいるだろうか、城にいたらこれが毎日あるのだと思うとげんなりしてしまう。


 侍女に案内され私は入口へと向かう。予定ではアレンにエスコートされて入場する予定となっていたが、そこにいたのはレイ殿下だ。


「あら?アレン様は?」

 殿下はゲンナリ答える。

「やられた。先に入場させられた様だ。私と其方が最後となる」


 あまりの周到さに私は愕然とした。

 城の人間など信用してはいけない。早くこの凱旋式を終わらせよう。

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