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シュガーレット領②

「なんて分からず屋なのかしら!」

 私が憤慨しながら歩いているとスティーブが後ろからついてきた。

「大丈夫です。お嬢様!どこに行かれても私がご一緒しますよ!」

「わたくしより弱いものなどいりませんわ」


「それはあんまりです!私だって少しは鍛えているのですよ」


 自信満々にいうスティーブに軽くデコピンをしてみたらすごい勢いで吹っ飛んでいった。


「……流石に弱すぎてひきます」

「いきなり何するんですか!お嬢様!ひどいでは無いですか。すごく痛いです」


 スティーブは腫れたオデコをさすりながら涙目で訴えてくる。

「治しましょう」

 私が歌って治癒をするとスティーブは目を見開き呆然と私を見つめた。


「痛く無いです。腫れもないです」

「それはよかったです」

「お嬢様は女神様だったのですか?」

 私を讃える様な目で見るのはやめてほしい。

「貴方も先程聖女の噂を聞いたといっていたでしょう」


「あっ、まさか、今の力が?なぜ教会シスターでもないお嬢様が聖女として名前が上がっているのか不思議でしたが」

 私は少しがくっとする。

「知らなかったのですか」

「此処は田舎ですからね〜。なかなか情報も回ってこないのです。王都の怪我人を全員完治させたとか、王都全域に聖結界をはったとか、魔物を浄化してまわったとか……そんな突拍子もないものばかりですよ。ははは」


 他の領の者には全然信じてもらえてないわけか。


 私はふと窓から外の景色を目に映す。この館は少し高い丘の上にあり下に町が広がっている。周りは山に囲まれ農地が多い。もうすぐ冬に入る為畑には冬の作物の苗が植えてあり、山は紅葉が見頃をむかえていた。

 その中で数カ所禿げているところが見える。

「林業を始めたの?」

 ゲームの中では綺麗な山々で囲まれていた


「材木の方がお金になると伯爵様がモヒート商会を通じて切らせているのです。セドリック様が見たら、山が荒れる!作物の神がお怒りなる!とお説教されてしまいますね」


 セドリックというのは確か先代のシュガーレット伯爵だ。私の祖父にあたる。

「そうね」

 スティーブはしんみりと山々を見つめた。彼は小さい頃から私に仕え、シュガーレット家ともよく接している。私なんかよりずっと山に思い出があるに違いない。



「それにしてもお嬢様、先程の男性の方とはどうお知り合いになられたのですか?」


 南棟3階の一番奥の自室へと向かう。

「お強いでしょう?」

「 ええ、凄く怖かったです。あんなに明確に死を感じたのは小さい頃木登りした時にローズ様に頂上から飛び降りてみろと言われた時ぐらいです」


「お姉様はまた別の意味でお怖い方ですからね」

 ローズお姉様はシュガーレット家の長女で昔からガキ大将気質だった。兄妹間では彼女が赤といったものは黒でも赤となる。

 


「彼が威圧を出した瞬間体が竦み上がりました。あ、どうぞ。お嬢様」

 スティーブは私の部屋のドアを開けて話を続ける。

「魔王がいるというなら正にあんな感じなのでしょうね!正直素直に帰ってくれてホッとしました。お嬢様のご友人とはいえ、いくらなんでも怖すぎます」


「貴様はなかなか見る目がある」

 そう言ったのは、部屋のソファーで寛いでいるノエルだ。


「ぎゃああああああ。なんで貴方がお嬢様の部屋にいるんですか。びっくりするでしょう」

 スティーブは廊下に逃げ出し顔だけ覗かせて文句を言っている。

「大丈夫ですよ、スティーブ。ノエルは貴方に害を与えたりしません」

「私に弱きものをいたぶる趣味はない。スティーブとやら、私が此処にいることを黙っているなら何もしない。早く茶を用意しろ」


「はい!喜んで!」

 ノエルがトントンと机を叩くとスティーブは慌てて厨房に取りに出て行った。


「お待たせしました。お父様との話し合いは上手くいきませんでしたわ」

「そうか。あの商人始末するか?」

 ノエルは散歩に誘うような気軽さで言う。

「物騒なことを言うのはやめて下さい。温便に処理するのですよ」

「大差ない気がするのだがな」

「交渉は失敗しましたが収穫もありましてよ」

 私はさっき伯爵とした話をノエルにもした。

「ふむ。人間とは相変わらず面倒な。いつだって小さな地位にしがみ付きそれを守るのに、より大事な物を失っている」


 ノエルは立ち上がり私の頭を撫でた。

「私はやることができた。一人で大丈夫か?」

「はい」

「困ったら喚べ」

「え?呼ぶ?」

 叫べばいいのかしら?

「明日またくる。〈転移〉(トランスファレンス)


 突風が吹き荒れ、ガタガタ窓は揺れるがしばらく主がいなかったこの部屋には大型家具が置いてあるぐらいだ。特に壊れるものもなく彼は消えた。


「なんの音です!?ってあの人いないじゃないですか!困るなぁ、このお菓子どうすればいいんだろ」

 帰ってきたスティーブはボヤきながらティートローリーを押した。

「ありがとうスティーブ。ではわたくしと一緒にお茶をしましょう。久しぶりですもの、家のお話も沢山聞きたいわ」


「お嬢様!では失礼します」

 スティーブは感動し席に姿勢良く座った座った。

「・・・・」

「・・・・」


「スティーブ、お茶は入れなさい」

「あ、そうでした」


 彼のそそっかしいところが無ければ、主人公も彼を連れて旅に出たのかもしれない。



 翌日、カーク・ウィルソンと面会の場が用意された。少し親を交えて話をした後はカークと庭に出された。お若いお二人でと言うやつだ。

 私はげんなりした気持ちで彼と庭を散歩する。最初はウィルソン家がいかに努力して今の財を成し遂げたか延々と話され、その中で教育を受けてきた自分がいかに優秀だったかを語られる。長い上に10割自慢でつい真顔になってしまう。


「チェルシー、昨日伯爵から話は聞いただろう。私と結婚できてよかったなぁ」

 ニヤニヤ笑うこの顔面に今すぐデコピンをいれてやりたい。

「あぁ、いやだ。寒気がして参りましたわ。まだ日差しは暖かいのに不思議なこと」

「その生意気な口を早く塞ぐのが楽しみだ」

「わたくしもはやく視界から不愉快なものが消えてくれないかと心待ちにしているのですよ」


「聖女とは噂ばかり大きくなって、本人とは大分かけ離れたもののようだ。銀髪の乙女と聞いていたんだがな」

 カークは大袈裟に溜息をつき手を大きく広げ首を振る。

「そうですね。結婚はお姉様とがよろしいのでは?なぜわたくしにこだわるのです」

「父上がお前と結婚しないと商会の跡を継がせないと言い始めたからだ」


 会長が?どうしてかしら。


「それくらい、わたくしに頼らずなんとかなさい」

 私があきれた口調で言うと、カッとなりカークは青筋を立てた。プライドを刺激してしまったようだ。カークは私の手を引っ張る。

「俺だってなぁ、誰が好き好んでお前みたいな生意気な女なんて!結婚したら覚えとけよ」

「お離しなさい。無礼な」

 私が掴んだ手を叩くと、ぎゃあと男は叫びのたうち回った。


 いや、全く力入れてないけど?


 私の加減がおかしいわけではない。なんで転げ回っているか理解できず、その姿をボーと見下ろす。


 アレンに会いたいなとふっと思った時、屋敷の中から見計らったように彼の父である会長と伯爵が飛び出してきた。


「カーク、大丈夫か!」

「骨が折れたかも知れません」


 そんなばかな。マンボウじゃあるまいし。


 私は適当に鼻歌を歌い、淡い光をあててやったが、カークは何をする!と言っては痛い痛いと叫ぶ。


 いくらなんでもこれで治らない筈がない。どうみても嘘の申告だ。私が白い目で見ていると、お前に人の心はあるのかとカークが騒ぎ始めた。


「なんともなっていないので大丈夫ですわよ」

 彼らはギクリと肩を動かした。もしかして会長とグルで何か企んでるの?私がじっと彼ら見ると伯爵が後から撃ってきた。

「お前に診察など出来ないだろう。鼻歌など歌って!失礼にも程がある」

 なんでこんな人達を擁護するのだろう。目を丸くしていると、急いで教会へ行く準備をと馬車の用意までさせ始めた。


 私の信用がなさすぎるでしょう。


 伯爵と会長の従者をぞろぞろ連れて教会に到着すると、伯爵の顔を見た神父が慌てて対応する。


「如何なされました?」

「大事な客人が苦しんでいる、直ぐに診て欲しい」

「はい、かしこまりました」


 神父はカークの腕を診て不思議な顔をする。

「なんとも御座いませんが……」


 そうでしょうね。


「そんな訳ないだろう。あれほど痛がっていたのだ。やはり貴方に神父は向いておられないのではないか?」

 伯爵の問いに神父はもう一度痛がるカークの腕を診て伯爵を盗み見る。目が泳いだ後、神父はきゅっと唇を結び小さな声で診断を出した。

「どうやら私の手に余る程の怪我のようです」

 私はあまりの出来事に愕然とした。伯爵に配慮してわざわざ誤診している。

「貴方教会の神父様でしょう?何もなっていないことは明白です。なにより私が治癒を施したのですから」


「失礼ですが貴女は?」

「チェルシー・シュガーレットです」


 神父の青い顔が土気色にまで変わる。

「聖女様……?」

「そうです」

 私の治療を疑うことは私を認めた枢機卿、ひいては教会を疑う事に等しい。


 神父はグルグルと目を泳がす。見ているこっちが心配になる程だ。彼は長考の後、私に告げた。

「聖女様でも治せないとなると大変な事態かも知れません。王都のアーロン神父様をご紹介しましょう」


 この神父、そうとう伯爵に追いつめられているらしい。枢機卿も、こんな小事で手を出してこないだろうと踏んだに違いない。この神父は今の目の前にいる伯爵には逆らえないのだ。


 これが、神父?


 呆然としていると目の前で包帯を巻かれ首に吊るされたカークが私を見下すように笑った。


「この責任はとって貰うからな」


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