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報告会

 私はなめらかな生地の赤いドレスに着替えノエルを部屋まで迎えにいく。

 

「ノエル。王子殿下がお呼びでいらっしゃるわ。一緒に城へいきましょう」

「何故私が向かわねばならない。王子が此方に顔を出せばよかろう」


 あぁ、この人は!


「殿下よりわたくしの方が立場が低いのです。今回は、どうかわたくしの顔を立てては頂けませんか?」

「私は今いそかしいのだ」

「城では美味しいお茶菓子があります。ノエルが知っているよりもきっと美味しく、そして華やかになっていると思いますわ!」

 ノエルがすくっと立ちあがり薬と剣を装備した。

「今回だけだ」

「ありがとうございます。それであれは何をしているんです?あの黒い不吉なものです」

 部屋の奥の壁に黒い染みが広がっている。私が嫌そうな顔で見ると、好きにつかってもいいと言っただろうと眩しい笑顔で言う。


 私はぐぅと言うしかない。ピンクの髪色の私とノエルは馬車に乗り、レイ殿下の元へ挨拶に行くと殿下に爆笑された。


「何が可笑しいのです」

 部屋の中にレイ殿下の笑い声が響く。

「いや、ずいぶん可愛らしいではないか!アレン枢機卿は見ていないのだろう?悔しがる姿が目に浮かぶ様だ」

 レイ殿下が涙目で私の頭をわしゃわしゃするとノエルは私を引き寄せた。

「髪が乱れるだろう」

「お前は誰だ?随分と邪悪な気配がするが」


 すごい、レイ殿下!ノエルの滲み出るオーラでそんなことがわかるなんて!


「殿下、色々事情を説明したいので人払いをお願いできないでしょうか」

 

「私に、その男とも護衛なしで話せと?」

「今回の討伐に関わる最重要事項です。どうぞよろしくお願いします」


 私が頭を下げるとレイ殿下はノエルをじっと観察する。

「騎士団長でも駄目か?」

「わたくしが絶対的に信頼できるのは殿下だけです」


 正直に言うとレイ殿下はにんまりした。悪くない答えだ、と言うと側近に命令する。

「お前達はいい。私が一人で話を聞く」

「しかし殿下に何かあったら!」

 真面目そうな側近が納得できないと食いかかってくるが殿下は軽くあしらった。

「私になにかあったらチェルシーが死ぬ気で回復する。そうだろう」

 視線を向けられ、私は粛々と頷く。

「おっしゃる通りです」


 側近は悔しそうな表情でノエルを睨む。

「お前の持ち物はこちらで預からせて貰う」

「なんだお前は。私に命令するな。チェルシー、こいつをどうにかしろ」

「わかりました。ではわたくしに腰の剣とアイテムを貸して頂けますか」

「よかろう」


 私はそれらを(うやうや)しく受けとりメイドが持っている箱の中に入れた。

「座る時に邪魔なので持たせます。彼らはその見張りをします」


「ふん。いいだろう」

 ノエルは割と単純である。

「お前達。私の物に迂闊に触るではないぞ。触ったら最後、お前達の魔力では苦しみながら死ぬぞ」

「ひっ」

 箱を持っているメイドが青ざめた。

 なんてことをいうんだ、この魔王は。いや、でも本当かも知れない。触った時少し違和感があったもの。


 部屋から人が出て行き3人になった。


「キール兵団長から報告は届いている。まずは魔王討伐よくやった。こちらは戦争をも覚悟したのだ。なにより其方が無事に帰ってきて嬉しいぞ」

「ありがとうございます。あの遠征はわたくしにもかけがえの無いものとなりました」

 こんな時にも出てくるのはアレンの顔だ。今横にいるのがノエルなのが不思議な感じがする。

「褒美が出るだろう。私が選ぶんだ、楽しみにしておけ。連絡するからちゃんと王都凱旋にもでるんだぞ」

「はい。あっ、でもお金は入りませんよ」

 カンストしているので!使っても魔物を倒せばまたカンストするだろう。



「無欲なやつだ。それでその男はなんなのだ?私の嫌な予感が当たらねばと思っているが」


「魔王です」


 レイ殿下はそれはもう項垂れた。そしてもう一度聞かれた。

「誰だって?」

「魔王ですって!もう、聞こえてたでしょう?」

 私が頰を膨らませると、レイ殿下はバチンと頰の風船を潰した。

「報告書を読んで嫌な予感はしていたのだ。何故魔王が生きているんだ」

 ノエルは鼻を鳴らした。

「そんなこともわからぬのか、人間。私が人間如きにやられるとでも?」


「ノエルも今は人間ではないですか!えっと彼は悪い人では無いので友達になりました」

 レイ殿下は頭を抱えた。

「アレン枢機卿がいなければちっともわからぬ」


 私は推しのそんな姿にあわあわする。出来るだけ丁寧に話したのだが、よくわかってもらえなかった。

「確かに、魔王の後始末はお前に任せると言ったが……。あの時の妙なひっかかりはこれか。其方はいつからこうするつもりだったのだ」

「最初からです。彼が悪い人ではないとわたくしは知っていた(・・・・・)のです」

「それは其方が聖女だからか?」

「そんな感じです。殿下には正直に申し上げましたが彼の事は他言無用に願いたいです。後始末は私に任せていただけるのですから」


 レン殿下はノエルをじっと見る。

「お前が魔王だと証明できるか」

「ふむ。この体では少し負担だが狂気の竜(ルナティックドラゴン)でも喚ぶか」


 私とレイ殿下はぎょっとする。

「だめです、だめです!そんなことしたら街が壊滅します!」

「始祖竜が喚べるのか。しかし一度見てみたいものだ。大人しいのか?」

 ノエルはこくりと頷く。

「とても」

 いやいやいや、殿下ちゃんと報告書読んだんだよね?

「それなら今度喚んでくれ。是非私も会ってみたい」


 殿下の好奇心怖いよっ!


「その際は必ずわたくしを呼んでくださいね?必ずですよ」


 アレンとノエルは常にピリピリしていたが、この2人の組み合わせも結構危険かも知れない。殿下は割となんでも受け入れる姿勢があるので助かるのだが、無茶もし易いのだ。


「それでノエルを刺したエリスという男なのですが、以前からわたくしに会いたがっていたという情報もあるのです」


「何?」

 殿下の顔は一見して険しくなる。私はオリビアから聞いた話を殿下に報告した。


「成る程。エリスは其方の前には現れず、其方はその後、誘拐されかけたわけか」

「誘拐?それはエリスが仕組んだものだろうな。しかし何故君を害したがる一方で私を刺したのだ」

 ノエルは眉をひそめる。

 魔王が邪魔なら遠征が終わった後に私を攫った方が良いはずだし、私を攫い魔王復活を成し遂げたいのなら、魔王を滅そうとはしないだろう。


「我が国に打撃を与えたいのなら魔王をそのままにしておくのが一番だ。エリスの狙いが魔王復活ではないのなら目的が聖女そのものだろうな」


「わたくしを……」


「エリスが企てているのか、ロゼの国が絡んでいるかは判らぬが用心するに越したことはない。護衛をつけよう。城に滞在しても構わぬが」

 レイ殿下はノエルを見る。


「私が見ているので必要ない。むしろ人間など足手まといだ。チェルシーに近づいてくるものがいたら燃やしてしまえばいいのだろう?」

「だめです、話を聞かねばならないので口が利ける状態にして下さいね。後わたくしがお願いした時だけで大丈夫です」


「つまらぬ」

「つまるとかつまらないとかじゃないんですよ。大体は自分で解決出来ると思いますがノエルが居ると思うと心強いです」

「私が得意でないのは君の魔力と教皇だけだ。この時代の教皇がどの位の力があるかは知らんがな」


 ノエルはニヤッと口角を上げて笑う。


「エリスの方は引き続きこちらで追う。目立つ外見だ。すぐ捕まるはずだが」

「それなら私も魔物達に声をかけておこう。奴にはわたしの返り血が着いた筈だ。洗っても魔物にはその痕跡が手に取るように分かるだろう」


「それは助かる。魔物が人間を襲うのをやめさせるのは出来ないのか?」

 私が期待の目でノエルを見るが彼は首を振る。

「彼らにも生活がある。縄張りに入れば攻撃するし、餌を求めて人間を襲うこともあるだろう。そもそも低級の魔物には言葉など通じぬ。召喚する事は出来るが私は魔族の王であって魔物達の王ではない。魔物達を思うままに操れるわけではない」


「そうか。魔物にも色々あるのだな、その話はなかなか興味深い。魔物研究対策課の所にお前を連れて行ったら奴が大喜びしそうだ」

 私はひしっとノエルの腕を掴む。

「だめですよ。ノエルはわたくしのですからね!」

 今の彼に全盛期ほどの力はない。何をされるか恐ろしくてとても連れてけない。


「わかっている」

 レイ殿下は苦笑するとああ、そういえば。と思い出したように、アーロン神父が私を呼んでいると伝えた。なにやら急ぎの案件で、直ぐにでも連絡が取りたいそうだ。王宮に私の帰りはまだかと、よく連絡が入っていたらしい。


「まぁ、そうでしたか。ではこの後に挨拶しに参ります」

「それがいいだろう。アレン枢機卿が居ないのと、其方だけ早く帰ってきたのは同じ理由か?」


 アレンとの決別を思い出し、心がざわめいた。折角、忘れていたのだから思い出させないでほしい。


 私の表情にレイ殿下は何かを察したのだろう。ベルを鳴らし側近達を呼んだ。

「野暮な事はきくまい。しかし居場所に困ったら私を頼るように」

「レイ殿下……。ありがとうございます」

 レイは笑顔で私達を見送る。

「私の客人が帰る。馬車を用意しろ」




 その後教会に寄った。ノエルが入れるか不安だったが、違和感があるくらいでなんともないそうだ。神父は私をみると首を傾げたが、チェルシーだと告げると納得したように手を打った。

「女性は髪型が変わると大分印象がかわりますね。失礼しました。チェルシー様のご無事な姿に安心いたしました。それで枢機卿は……」

 アーロン神父は辺りを見回すがアレンは今帰還中だ。

「アレン様はまだ此方についていないのです。早くても到着は明後日ではないでしょうか」

「そうでしたか」

 アーロン神父はがっくりと肩を落とした。

「それで彼はどなたでしょうか?」

「彼はノエルです。遠征中に知り合いまして、しばらくは王都に滞在することになっているのです」

 まさか、魔王なので私が面倒を見るのだとは言えない。


「よろしく、ノエル」

 神父は手を差し伸べたが、ノエルは動かない。


 あぁ、教会とは仲良くしたくないよね。


「教会と馴れ合」

「神父!彼は少しシャイなところがあるのです。ところでお急ぎのお話があると伺ったのですが」


 ノエルが教会批判をする前に私は言葉を遮り本題を切り出した。ここにはもう連れてこない方がいいかもしれない。

 神父は少し戸惑った顔を見せたが、手を下ろし用件を話してくれた。


「実は、チェルシー様に結婚の申請が上がっているのです」


 そんなはずない、全く心当たりがない。


「どういうことでしょう。わたくしにその様な関係のものなどおりません」


「聖女様お名前の申請だと判り、教会で差し止めているのですがシュガーレット伯爵が不当な行為だと抗議なさっているのです」

「相手はどなたですの?」


「書類にある名前はカーク・ウィルソン。噂ではモヒート商会会長の長男のようです」

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