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あけましておめでとうございます。今年も頑張って投稿していきます!予定よりも更新が遅くなりすみませんでした。拙い文ですがどうぞお付き合いください。
治癒が終わりノエルは穏やかな寝息を立てる。
私はその音を聞きホッとしたのも束の間、周りから困惑するような騒めきが聞こえた。
彼は先程まで、どう見ても魔王の風体をしていた。
そういえば回復させた後、どうするか全く考えていなかった。
するとアレンは大声で一声発した。
「魔王は聖女様が滅した」
まわりからは依然困惑の声が聞こえる。その声代表してアレンに尋ねたのはキール兵団長だ。
「その青年は何だ。生きている様だが?」
「彼は人間だ。魔王に体を乗っ取られていただけだ」
アレンはシレッと嘘をつく。私はドキドキしながら、2人を見守った。
「それが枢機卿のお考えですね?」
「そうです。彼の身柄は聖女様に一任することとなっております。これは殿下とのお取り決めです」
2人はじっとお互いを見つた。先に視線を逸らしたのはキール兵団長だ。
「わかりました。後のことは、私は国に任せます」
彼は兵の方を向き、剣を上に突き上げた。
「魔王は滅した!明日からは王都へと凱旋するぞ」
2人のやり取りをそわそわして見ていた兵たちは歓声をあげた。
彼らにとって、キール兵団長が言うなら間違い無いのだろう。
兵たちは気の抜けた顔で宴だーと宴会を催し始めた。キール兵団長もその輪に加わっている。
私はその賑やかさを横目で見ながらアレンに話しかける。
「ありがとうございました」
「貴女が殿下と交わした約束だからね。キール兵団長にも守ってもらわないと」
アレンはノエルを抱きかかえ、寝台に寝かす。
「これで、魔王討伐は完了だ」
「遠征が終わってしまいましたね」
私が声をかけるとアレンはぎゅっと私を抱きしめた。
「王都へ帰ったら一緒に教会本部へこないか?貴女なら聖下も歓迎なさるだろう」
「えっ?」
私は目を軽く開き、固まってしまう。アレンから誘ってもらえて嬉しい。だってもっと私と居たいとそう思ってくれているのだから。
しかし、本部の教会に聖女として迎え入れられれば、これまでのような自由は保証されない。恋愛も結婚も難しい。
私はアレンの胸板を押し、一歩下がった。
「ずっと教会本部にこもる生活なんてわたくしには出来ません。ノエルの面倒も見なくてはなりませんしね」
私の答えにアレンは驚きの表情を浮かべた。
ごめんなさい、私は教会本部に縛られながら貴方と一緒にいたいわけじゃないの。
それにノエルは500年の眠りから目覚めたばかりだ。彼のいた時代とは色々変わっていよう。それに人間界に彼の居場所を作らなければいけない。
「貴女が面倒を見る必要はないだろう」
「ありますわよ。今は彼の体に私の浄化の魔力が満ちているので魔族に戻ることはありませんが今後この状態が保たれる保証はありません」
ノエルに関することはもう私の責任だ。
「それなら益々、僕は君と離れるなんて出来ない」
それでもアレンはこの魔王討伐が終われば、教会本部に戻されるだろう。今だって休暇という名目で外に出ているだけに過ぎない。
「そのお気持ちだけで十分ですわ。貴方は未来あるお方ですもの。遠征が終わったらあるべき場所へお戻り下さい」
私が困った様に笑顔でいうと、アレンはとても動揺しはじめた。
「チェルシーにもう僕は必要ないかい?」
そんな訳ない。でもアレンのルートは、決してアレンにとって幸せなものだとは私には思えなかった。地位も名誉も捨てろなんて私には言えない。
お慕いしております。なんて告げたらゲーム通りこの人はあらゆる物を放り出してしまいそうだ。
「今までありがとうございました」
私は震える唇を精一杯釣り上げる。
「チェルシー、僕は……」
「アレン様。貴方といた日々はとても楽しかったです。また明日からは枢機卿と聖女の関係を正しいものへと戻しましょう」
わかっていた。今までが距離が近すぎたのだ。彼は再び私に手を触れようとするが、触れる寸前でピタリと手を止めた。
「っ……!チェルシーの……〈捕縛〉を解除する」
アレンは低い声でやっとそう絞り出すとその手で拳を握りしめてテントを出て行った。
アレンが出ていくと護衛騎士の一人がテントを交代してくた。私のテントはエリスに切り裂かれた所為で風邪通しが良すぎる。
ついでにノエルも移してもらった。
護衛騎士はノエルも一緒に私のテントに移すことに戸惑いを見せたが、私がどうしてもとお願いすると素直に応じてくれた。
外は賑やかで明るい。彼らの大きな笑い声が私には酷く耳障りに感じた。
新しいテントに着き私は涙を零す。
「う〜〜」
夜は更けていく。嗚咽がとまらない。でも明日にはまたアレンに会う。
こんな腫らしてた目で会うわけにはいかない。
そう思えば思うほど涙が溢れて止まることはなかった。だって優しかったアレンをどうしても思い出してしまうから。
翌朝、目を覚ますと案の定目は腫れていた。どうしたものかと思っているともう一つの寝台の方からがざがさと音が聞こえた。私が覗きに行くとノエルがぼーとした顔で私を見た。
「ノエル?」
彼は焦点の合わない目をしている。
「ノエル!」
私が強く呼ぶとノエルはハッとした様に私をみた。
「チェルシー、この粗末な場所はなんだ?」
「テントの中ですわ」
「何故私がここに?」
私がなんて答えようか迷っていると、考えこんでいたノエルは全て繋がった顔をし、すごく悪い顔をした。
「チェルシーあの人間はどうした?直ちに処刑したのであろうな?」
「ごめんなさい、貴方を回復するのででいっぱいでエリスの事はわからないの」
「回復……」
ノエルはそう言って胸に手を当てる。其処はもう穴などが空いた様には思えぬ程綺麗に皮が張っていた。
瞬間彼は目を見開き自分の頭に両手を持ってくる。
「ない!ツノがないぞ」
「ツノは治療の過程で砕け散りました」
私が淡々というとノエルは流れる自分の髪色にも気づく。
「私の黒髪はどうした!」
「治療の過程で色が抜けました」
またも私が淡々と言うとノエルは鏡を持ってこいと、肩を震わせていうので私は《アイテムボックス》から大きめの鏡をとりだしそっと渡した。
「なんだこれは!」
魔王も真っ青である。もう既に魔王とは言えなくなったのだから。
「すみません、助けるにはこうするしか無かったのです」
「これでどうやって生きろと?」
「とりあえず、しばらくはわたくしが養って差しあげます。大丈夫です。魔力だって全部消えた訳ではありません!」
その言葉にノエルは慌てて自分のステータスを確認した。
「魔力が半分くらいになってるぞ」
「今いくつです?」
「そんなもの、教えられる訳がないだろう!!」
「いいではないですか」
本当は、魔族としての魔力は今は私の中に封じてあるため返す事も出来る。しかし〈聖女〉のスキルの魔力で満ちた彼の体に返すと恐らく反発して爆発するか浄化されて無くなってしまうだろう。今は返せないので黙っておく。返せと迫られても困ってしまうのだ。
「人間になるなんて生まれてはじめてのの屈辱だ」
ノエルは丸くなった自分の耳をなで絶望顔になっている。
「人間のノエルもとっても素敵ですよ」
「私は死にたい気分だ」
「人が一生懸命治癒した命なのです、大事にして下さいませ」
その言葉にノエルは一瞬眉を寄せた後、私の頭に手をポンポンと置きありがとう、と小さく言った。
その言葉に私はまた涙がボロボロしてしまう。
「どうした」
ノエルがびっくりして固まるので、私はその顔が可笑しくて笑ってしまった。
「いえ、ノエルの顔が面白くって」
「チェルシーのコロコロ変わる表情の方がよほど愉快だ」
「そうですか」
「ノエルにお礼を言われるとは思っていませんでした。下手したら襲い掛られるのではと覚悟したくらいです」
「私はそんな恩知らずな事をしない」
ジトっとした目でみられ、私は嬉しくなる。何時ものノエルでよかった。
「それにしても、いつもの小僧はどこにいった?」
私はその言葉に顔が強張る。
「アレン様は」
私はその続きを上手く口に出来なくて下をむいた。
「喧嘩か?それで今日は不細工な顔をしているのか?」
「ひどい言い様です」
「私のことで揉めているのなら……」
「それは断じて違います!」
私は食い気味に否定した。
「わかった」
そう言ってノエルは立ち上がり〈修復〉と唱えた。昨日破れた服がどんどん直っていく。
「魔力の減りが著しいな」と呟くとテントの外へ出て行こうとする。
「ちょっと!ノエル!何処へいくのですか」
私は慌てて引き止めた。流石に魔王全開なその格好で出歩くのは良くない。
「小僧の元へ行く」
「場所がわかるのですか?」
「わからん。が〈転移〉の魔法は今の体では魔力を使いすぎる。全く不便な体だ」
「それでどうやってアレン様の元へ?」
「私が外へ出ていけば嫌でも顔を出すだろう?」
なんて迷惑な人なんだ!