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日程

「珍しい、隣国ロゼの国顔立ちですね。民間兵の様ですしハーフでしょうか」

 エリスを見送る護衛騎士の問いに私は倒れそうな頭を木に押し付け気丈に振る舞う。

「どうでしょうね。とても可愛らしい少年でしたが」

「民間兵のテストに合格したのですから、それなりに剣も使えるのでしょうが、少し心配になりますね」

 護衛騎士と微笑んでいると、奥から剣を持った別の護衛騎士が前に出てきた。


「あの、もしよろしければ私の魔剣にも御力を注いで頂けませんか?」

「あっ、抜け駆けだぞ。聖女様私にもお願いします」

 空の魔石がある護衛騎士が我先にと私の方にやってくる。


「こら!お前達!」

 先程から話し相手をしてくれる、護衛騎士のリーダーと見られる男が諌める。

「構いませんよ。でももう少し後でも良いですか?」

「聖女様……あいつらを甘やかしてはいけません」


「いえ、わたくしに出来ることは限られていますので」

 ここでは守られてばかりで、労働一つさえしていない。

「エリスの話も聞いて、また夜にでも魔力を注ぎましょう」


 私はそろそろ立ち上がろうとするが力が全く入らない。どうしようかと思っていたらアレンが私の元へ走ってやってきた。

「チェルシー!魔力をまた使っただろう」


 うーん。やっぱりバレるよね。


「顔色が悪い」

 そういって、アレンは私を抱き抱えた。立てないので大人しく首に手を回し掴る。

「助かりました」

「貴方方は騎士だろう!チェルシーをちゃんと止めてくれ」

 アレンの言葉に騎士達の顔色も真っ青になる。

「申し訳ありません。お元気そうでしたので大丈夫なのかと」


「そんな訳ないだろう。チェルシーが今日どれだけ魔力を使ったと思っているんだ」


「アレン様、わたくしが勝手に色々したのです。彼らを怒らないで下さいませ」

私がぐったりしながら笑うとアレンはため息をつき騎士達を睨め付けた。


「出発まで少し休む。今日はチェルシーの魔法の使用を禁じる」

「はっ!」

 私は人気のない場所までアレンに運ばれて、そこで癒しを受けた。


「ありがとうございます」

「わかっていると思うけど、元気になったらお仕置きだからね」


 わかってないけど!?


 もたれかかっているのが精一杯なので碌に反論もできず、少し休んだ後アレンに馬に乗せてもらい移動をした。

 魔物はやはりどんどん強くなっている様で戦闘の音が激しくなったり最初に比べて立ち止まる時間が長くなっていった。


 夕刻に野営地に着くと私は既に設置してあるテントに放り込まれた。

 馬に乗っている最中少しうたた寝してしまった事もあり、結構元気になった。

 アレンは仕事のため少しテントを離れるようだ。大人しく中で待っているよう言われたが、兵の負傷の具合が気になり、いてもたっても居られずこっそりテントを抜け出した。外に立っていた護衛には魔力を使わないからと言って丸め込み兵が作業するテントへと向かう。


「失礼します。兵団長様、今日の兵達の傷の具合はいかがですか?」

 兵団長は何やら書類を書いていたようだ。役職も大変である。

「おや、チェルシー様。もうお体はよろしいのでしょうか」

「心配をお掛けしました。今日1日は魔力の使用を控えなければいけませんが、もう概ね大丈夫です」

「そうですか。それは何よりです。今日の魔物には兵達も大分苦戦を強いられたようです。1匹当たり10人程組ませましたが負傷者が結構出たようです。あ、命に関わる怪我を負ったものはいませんよ」


 私の顔が曇ったからか、兵団長は安心する様にと付け加える。

「今日は休まねばなりませんし、明日は魔王城に着くでしょうから回復してあげることは難しいかもしれません」


 私が申し訳なさそうに言うと兵団長は首を振る。

「あの者たちは兵士です。貴女にばかり頼ってはいられません。しかし今朝チェルシー様が回復魔法をかけて下さらなければ兵が足りず、恐ろしい事態になっていたことでしょう。本当に貴女様が聖女様でいてくれて良かったです」


「いえ、そんなこと……!」

「あるのですよ」

 兵団長が力強く言ってくれるので私は照れるのを隠すために目線を下にむけた。

「そういえば」

「はい」

「民間兵の少年がとても活躍していたそうだ。数匹だけだが魔物を数撃で滅したと」

「まぁ。エリスでしょうか?」

 私は期待に胸がふくらむ。そんな有効なら配って歩いても良かったくらいだ。


「ああ、そうだ。噂では貴女に魔石を貰ったとか」

 やっぱり戦士。キール兵団長は興味津々である。

「まぁ、お耳が早い。もっとはやく試すことが出来れば良かったですわね」


「あぁ、それは魅力的な話です。実際色々な武器に使って効果を試したいですね。しかし、これだけ有用性があれば貴女の魔力の恩恵を受けようと良からぬことを考えるものもでてきます。これから先、特に遠征が終わった後アレン様の側を離れぬ様進言いたします」

「ご忠告ありがとうございます」


 確かに売ったらお金になりそう。人間に害を及ぼすものではないけど、変な人には気をつけよう。そう気持ちを固めていると、私のテントに残した護衛騎士の一人が慌てて駆け寄ってきた。

「どうしました?」

「枢機卿が探しております」


 私は肩で悲鳴をあげた。


 それを察したキール兵団長には苦笑しながら、お戻り下さいと告げられた。


 こんなに早く帰って来るとは思わなかった!


とぼとぼテントに戻り中に入ると、阿修羅像を背後に背負った笑顔のアレンがいた。

「お帰り、チェルシー。僕の言うことが聞けないくらい元気ならもうお仕置きしてもいいよね」

 ひえっ!すごい怒ってる!こわい!

「あ、足が。元気だと思ったらまだダメでした。今日はこれから寝ますわ」


 アレンはチラッとステータスを確認し、護衛達に外に出て行くよう命じた。

「あ、アレン様??」

 私がドギマギしていると抱き上げられ寝台に乗せられた。

 アレンの意思で〈捕縛〉(アレスト)の魔法が働き、私の両手は胸の前に持ってきたまま動かなくなった。


「覚悟はいい?」

 私はブンブン顔を左右に振る。


 お願いします、あんまり心臓に悪くないのにして下さい!



* * *



「ごめんなさい、反省してるわ」

 テントの中は私の荒い呼吸で満たされている。そんな私の首にアレンが再び手を這わせた。

「貴女がそんなに首が弱いとは思わなかった」


「ちょっと、まっ……!もう無理、きゃ」

アレンはその指を動かし私の首をもしょしょする。


「や、くすぐった……あははははははははははは」


 散々お仕置きと称して私はくすぐられた。やっと手が自由になったのだが、笑い疲れてしまった。ベットの上でぐったりしてしている私を、アレンは気まずそうにじっと見つめる。


「チェルシー、絶対他のものにくすぐられてはいけないよ」

「こんなことをするのはアレン様くらいでしょう」

「貴女は隙が多い。そんな姿を男に簡単に見せてはだめだ」


 アレンは少し赤くなりながら説教をする。私はハッとなって起き上がって衣服を整える。

「こ、これはアレン様がやったのでしょう?もう髪もぐしゃぐしゃですわ」

「そういえば、それを取るのは僕の役目だったね」


 そう言ってアレンは立ち上がり前からピンをスッと抜いた。バサリと髪が落ちなんだか照れ臭いものがある。


「ちょっと、恥ずかしいです」

「先程の貴女には劣る」


 私はわなわなと肩を震した。

「あ、あれはアレン様が……」

「そういえば、妙な噂を耳にしたんだが」


 アレンは私の言葉を遮るように話題を変えた。そして私もその言葉にドキーンっと心臓が跳ねた。


「魔石に聖女様の魔力が込めれるらしい、とか。それが魔の物に多大なるダメージを与えられるらしい、とか。そういえば貴女は出発する前に魔力を使っていたね?」


「これはさっき怒られた分の内容の重複になるので、もうくすぐるのは無しですわよ!」

 手を構える私を見てアレンは黒い笑顔を浮かべた。

「さっきもっとやっておくんだった。」


 先に終わって良かった……!


「貴女の能力を信用ならない者にほいほい貸し与えてはいけない。どのように波紋となって広がるか、考えれるだけでも問題だらけだ」

「はい、先ほどキール兵団長にも言われました」

 私がショボンとしているとアレンは椅子に座りなおし私の手を握った。

「どのような効果をもたらすか、確認が取れたら貴女の信頼できる者には渡せばいい。勿論、貴女が元気な時に」


「はい。そうしたら一番にアレンにお渡ししますね」

「もう一番じゃないでしょ」

 拗ねながら言うアレンがとっても可愛い。私がにこにこして見ていると、それに気づいたアレンは一瞬赤くなって、手で目隠しをされた。


「アレン様が見えません」

「見なくてよろしい」


 私達が攻防を繰り返していると、突然テントに突風が吹いた。

 中の家具は倒れ、書類や布が待った。


 まさか!


 そこにはノエルが立っていた。

「魔王!?」

「えっ?どうして」

 アレンは私を庇うようにして立った。

「来ないではないか」


「あ….…、そういえば本日伺う予定でしたね。ルナちゃんと戦った際、被害が大きくて日程がずれてしまったのです」


「私は今日1日待っていたのだぞ」

 ノエルはムスッとした顔をしている。まるで孫がなかなか遊びにこないおじいちゃんのようだ。


「申し訳ありませんでした」

 なにやら今日は謝ってばかりな気がする。


「猊下、大きな音がしましたがいかがなさいましたか!?」

 テントの外から護衛の声がし、私はぎゅっとアレンの裾をつかんだ。


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