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王宮

 私は今、王城近くにある兵士の訓練場にいた。教会から街に出てみれば魔王復活による討伐隊募集の話題でい溢れていた。また国旗が街中に上がっており魔王討伐に街中が浮き足立っているようだった。


 訓練場に来たのは魔王討伐の遠征の人員募集の試験に参加するためである。ここで最低限、戦えるかどうかの試験があるようだ。


「こんな所で試験を受けるより、直接2人で魔王城に向かった方がいいんじゃない?」


 アレンは眉をひそめて言う。どうも不満そうだ。


「だってベルコロネの奥深くは行ったことが無いんですもの。どんな敵がいるかもわからないのに2人だけで行くなんて危なすぎます」

 ゲームオーバーが直接死に繋がるかもしれないのだ。出来るだけ安パイを取る方がいい。ベルコロネの森の中はゲームでも魔王追加により出来た新エリアだ。私はにも全く未知の場所である。



「それに、わたくしはあまり剣や攻撃魔法が得意では無いのです。援護や付加魔法がメインですわ」

 私は恋愛を主軸としてプレイしていたので、戦闘スキルはキャラクター攻略に必要な分だけしかあげていない。


「そうか。僕も得意なのは魔法だ」

 強い魔物が出た時前衛が1人はいないと厳しい。


「それにしてもその格好はどうにかならないのですか?」


 アレンは枢機卿を示す緋色の礼服を纏っている。


「僕が僕でいることになんの問題が?」


 問題だらけだ。他の参加者は、ざわめき遠巻きに私達を見つめている。これで他の参加者と協力して戦えるだろうか。


 私は青いドレスの上に上半身だけとはいえ簡易的な鎧を纏い、髪は高い位置で一つ結びをしている。戦う準備は万全!完璧である。


「おい、なんでこんな所にドレスを着た令嬢が?」

「もしかして、場所を間違えているんじゃ無いのか。」


 ひそひそ聞こえた声にちょっぴりショックを受けた。他のプレイヤーがいないからだろうか、私まで奇異な視線を浴びるとは思っても見なかった。


 すると、人混みが割れそこから責任者と見られる、鎧を着た中年の男が現れアレンに跪いた。


「猊下!お初にお目にかかります。私は、兵士長のフロンデンと申します。本日は、どのようなご用件でしょうか。文を頂ければこちらからお会いしに行きましたのに」


「彼女がこちらに来たいと申したのでね。僕はその付き添いですよ」


「猊下が、付き添い……?」

 兵士長は目を丸くして私を見上げる。


 私はハッとして、慌てて訂正した。

「わたくしは、ただの伯爵令嬢です。この度の魔王討伐に、わたくしも微力ながらお手伝いが出来ればと、こちらに伺いました」

 兵士長は、より訳が分からないと言う表情を浮かべている。

 うーん。気持ちはわかるけど、私も試験が受けれないと困る。


「では、猊下はどうぞ城へ。おそれながら、猊下に試験などとんでもございません。民間の隊列では無く御身を御守りするため騎士と共に来て頂きたく存じます」


「それは出来ない」

 アレンは即答し、私の腰を抱き寄せる。

「わっ……!」

「僕は彼女の側を離れる事は出来ない。何があってもね」


 その言葉に周りにいる者の戸惑いの声が大きくなった。



「お、お待ち下さい、アレン様!その言葉だと誤解しか生まれませんわ。わたくしとしてはアレン様には、安全に参加して頂く方が安心致します。わたくしは、これ以上他の方のご迷惑にならない様こっそり試験を終えてきますので、城で少々お待ち下さいませ」


 アレンは不思議そうな顔で首を横に降る。

「チェルシーと離れ離れになるのなら僕の行く意味はない」


 やめてー!その優しい声音ではより誤解を生むし、なにより恥ずかしくて直視出来ない。


「それではご令嬢は猊下のお客様という事で一度城で兵団長とお話ししては如何でしょうか?私には猊下を民間兵と一緒に隊を組むなどとてもできないのです」

 兵士長は困った様になりながら提案してくれた。これ以上周りに迷惑を掛けてはいけない。


 アレンはチラッと私に目配せする。決めるのはあくまで、私の様だ。

「わかりました。それでは城に案内して下さいませ」





*・*・*


「なに?アレン・デュロイ枢機卿が?」

 城の執務室で書類仕事をしていると、側近から報告を受ける。

「はい。今、応接室で騎士団長と兵士長両名で対応しているとの事です」


 私の名はレイ・スフィア。この国(スフィア国)の皇太子である。

 アレン・デュロイ枢機卿と言えば弱冠20歳にて首席枢機卿になった傑物だ。教皇の信頼も厚く我が国の重要人物と言える。その地位もさる事ながら、美しい容姿故に近づきたい者は老若男女問わず多い。


 王子である自分も直接言葉を交わした事は数えるほどしか無い。そんな縁のない相手が何故こんな急に城へ来るのだろうか。

 ここ数日の大きな予定を思い浮かべてみたが祭典や会議などないはずだ。


「うぬ、私は聞いていないが何があっただろうか?」


「キール兵団長が急遽招待したようです。なにやら枢機卿が今度行われる魔王討伐に参加を表明しているとか」


「ほう、参加して頂くのはありがたい事であるが……。また、急な話だな」


「報告によると最初は民間の兵士募集をしていた訓練場に来たようです。」


「なぜだ!?」

 思わぬ報告に、書類のサインが歪んでしまったではないか。

 レイは一度ペンを置き報告に集中する。


「詳しくは存じませんが、どうやらお連れしている女性の意向とか」


「女……だと?」

 アレン枢機卿の人物像と繋がらない。そう言えば、教会は魔王を倒すには聖女の力が必要だと言っていなかったか……?


 自分のあずかり知らぬ所で何が動いている。


「よし、わたしも同席しよう」



「処理して頂きたい書類がまだもう一山御座います」

 側近は何処からとも無く出した書類の山を机にドンと乗せる。


「固いことをいうな。そんなのは後でも出来るであろう」

 こんな面白そうな事が起きているのに書類仕事などしている暇はないのだ。



 私は側近と護衛を1人ずつ引き連れ、城に有る一番格式の高い応接室に入った。部屋の中には立ち上がって自分を出迎える騎士団長、足が悪く杖をついた兵団長、それに柔和な笑みを浮かべているアレン・デュロイ枢機卿がいた。


「お久しぶりです、枢機卿。枢機卿がみえられているのを知り、遅ればせながら、私も是非同席させて頂こうと思いました。よろしいでしょうか」




「本日はお会いできて光栄です、殿下。この度は私的な訪問故に、唐突な登城の失礼をお許し下さい。殿下に聞いて頂く様な話ではありませんが、耳を傾けて頂く事ありがたく存じます。」


 形ばかりの挨拶を済ませ席に着くと報告にあった女性がいない事に気が付いた。しかし、もう1人客人がいた事を示す様に枢機卿の横にティーカップがもう一組置いてある。



「魔王復活とは、教会も大変でしょう。魔物も活性化するのではないか、と民にも動揺が広がっております」

 私が魔王の話題を切り出すとアレンは真剣な表情を向ける。


「はい、教会としては早く魔王の脅威を振り払い、人々には穏やかな生活を送って欲しいと願っております。その為に、私は如何なる努力も惜しまぬつもりです」


「それにしても、民間の募集に来られるなど、居合わせた民の驚きは如何程だったかだろうか」

 私がくっくっと笑うと各団長はこくこくと頷く。

「猊下に要請頂ければ、我ら騎士団が直々にお迎えにあがりましたのですよ」



 アレン枢機卿は苦笑しながら答える。

「先程も言いましたが、私は今、枢機卿としてでは無く私的にチェルシー・シュガーレット伯爵令嬢と行動を共にしています。こんな大ごとにする予定はなかったのですよ」


 あくまで私的と枢機卿は笑みを浮かべている。彼はプライベートでも礼服が義務付けられているので街にでれば騒ぎになるのはしょうがないとも言えるが。


「それでそのご令嬢は今何処に?」

 私は令嬢が居るはずの空席を見つめる。


「実は花を摘みに行ったっきりもう四半刻程帰ってこないのです。誠に失礼ながら様子を見に席を立ってもよろしいでしょうか」


 アレン枢機卿のその言葉に騎士団長が立ち上がり兵団長も杖をついて腰を上げる。

「私達もご一緒しましょう。何かあってはいけません」


「感謝します」

 アレン枢機卿が礼を述べた際、彼の瞳が兵団長の持っている杖で一瞬目が止めたのに気がついた。それに兵団長も気づいたのだろう。苦笑しながら理由を述べる。


「数年前、魔物と戦った際に足をやられまして。私はもう後方で指示を出すばかりになってしまいましたが、日常生活に不便は御座いません」


「そうでしたか。教会の治療で治せないかと思いましたが、数年前ならもう治療を受けた後なのでしょう」


「ええ。これ以上の回復は見込めないとの事でした。しかし令嬢を探し回るくらいには十分に役に立てます」


 アレン枢機卿はこくりと頷き、使用人が扉を開ける。



「よし、私もいこう」

 私がそう言うと、客人は目を瞬いた。周りの従者は、絶対言うと思ったという顔をしているが気にしない。じっと待っているより探しに行く方が楽しいではないか。

「なりません!殿下自ら動くなど。それに、すれ違いになるかもしれません。誰かこの部屋にいた方がよいでしょう」

 口うるさい側近だ。


「では、お前が残れ。私は行く」

 側近はショックを受けた顔をしている。少しは面白い顔が出来るではないか。


緋色の衣は枢機卿の誇り!スフィアでは礼服は就寝時以外は脱いだりしません。

そもそも転移先がゲームであり、枢機卿の彼は私服衣装の配信がなく、普段は教会本部にこもって仕事をしています。

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