魔力
かぜが止むとそこには黒髪黒目の男がたっていた。
「チェルシーは、一体ここで何をしているんだ」
彼は呆れた表情で言い放った。まさか魔王に呆れられるとは。
「わたくしが聞きたいです。ノエルは魔王城で待っていて下さいと伝えたはずでしょう。何故ここに?」
「お前がチェルシーの名を気安く呼ぶな」
アレンは怒りの表情をノエルに向け戦闘態勢になっている。
「私が自分の下僕を名前で呼ぶのに誰の許可を取る必要がある」
「下僕….…だと?」
アレンは魔王に殺気を放ち始める。
あぁ、どうしてお互いを煽っちゃうかな!
私は心の中で頭を抱え、アレンに駆け寄り腕をつかむ。
「アレン様、あれはノエルの冗談です。魔王ジョークというものですわ。今は場所が場所です。アレン様とノエルとルナちゃんがこんな狭い洞窟で暴れたら大変な事になってしまいますわ」
私がね!
巻き添いを食らいたくないので必死でアレンを抑える。
「それでノエルは何をしにいらしたのですか?」
「狂気の竜の巣から魔力が上がったので気になってきたのだ。まさかお前だとは思わなかったが……。随分変わった魔力を持っているのだな?」
アレンは警戒の色を濃くした。
「ええ!わたくしは聖女ですから!」
私は胸を張る。
「なっ!?チェルシー?」
あっさり話す私にアレンは私を見つめた。
「大丈夫ですわ、アレン様。わたくしが誰であろうとノエルは気にしません。わたくしはチェルシーでノエルはノエルなのです。ね、ノエル」
私が笑うとノエルは声をあげて笑った。
「はっ。そうだな。私はチェルシーが何者でも気にしない」
「ありがとうございます。ここに居るのはルナちゃんに連れてこられたからですわ。実は出られなくて困っていましたの」
ルナちゃんは先程と変わらぬ位置で魔王を見つめ甘える様に鳴いた。
「ふむ」
そう言って魔王は目を凝らし私の体をじっと見る。
するとアレンが私の前に立ち塞がった。
「邪魔だ、小僧」
「チェルシーを見るな、何をされるかわかったものではない」
ノエルは明らかに苛立っている。
「どけ」
今度は言葉に圧力がかかっている。
空気がぴりぴりしてきた。
「アレン様ご心配ありがとうございます。本当に大丈夫ですよ。ほら、アレン様の横なら安心でしょう?」
「いいや、全く」
そう言ってアレンは再び私を後ろに隠す。
「うっ。ノエルは一体何が見たいんですの?教えて下さいませ」
「魔力だ」
「魔力……?ですか?」
私はアレンの後ろからひょこっと顔を出す。
「あぁ。名のあるドラゴンは宝玉を持っている。しかし彼女は先日それを誰かに持ち去られたようだ。私は昨晩それを探していたのだが」
そこで私は昨日妖精に会った時の出来事を走馬灯の様に思い出した。
「あっ!!」
ノエルは、やはりかと呟いた。
「それってこの位の大きさで、中で炎が燃えているものではありませんか?」
「そうだ」
魔王は苦いものを飲み込んだ様な顔をしている。
「昨日妖精がもっていました」
「チェルシー、僕はその報告を受けていないぞ」
「あら、そうでしたっけ?おほほほ」
アレン、ノエルと同じ顔になってるよっ!
「その中に込めた魔力をお前の中から感じる」
「それが……。中の炎は私の体の中に入ってしまって。代わりに水晶に私の魔力を入れてお返ししたのですが」
炎が入った後、少し感じていた違和感も今や全く感じない。
「そうか。見た感じ、もうかなり混じってしまっているな」
ノエルも驚いた顔をしている。
「見えるのか?」
アレンが疑いながらも質問をした。
「あぁ。私に見えぬ魔力などない」
アレンは詐欺師を見るような目つきで魔王を見る。
「つまりルナちゃんはわたくしのことを大事な宝玉だと思っているのですが?」
「そうだ」
「うーん、大事にしてくれるのはありがたいのですがここから出られないと困りますわね」
「何、あの子にはお前の魔力を込めた新しい宝玉でもあげておけばいい」
ノエルはそう言って〈転送〉の魔法を使うと透明な水晶を取りだしアレンに放り投げた。
「魔力を込めろ」
アレンはノエルをじっと見つめた。
その後、悪態をつきノエルを視線から外さず、私に声をかける。
「水晶は僕が持つ。魔力を込められそう?」
「やってみますわ」
水晶と言えば占い師の様に両手を水晶にかざすポーズである。私は手を水晶の上に持ってくると思いっきり魔力を込める。
昨日少しやったんだから出来るはず!
すると、水晶が真っ黒にに染まりの中に昨晩見たような火が灯った。最初に見た水晶のような力強さはなく、小さくゆらゆらし、水晶の中をぼんやり照らした。次に現れたのは無数の花だ。白銀の花が水晶の中に咲き誇った。極め付けにきらきらした光が舞いはじめた。
「わぁ、綺麗」
まるでスノーボールドームのようだ。
私が感嘆の声を上げるとノエルはルナちゃんの瞳を除いて聞いた。
「あれでいいか?」
立ち上がると、それが返事と言わんばかりにアレンの持っている水晶を受けとり嬉しそう寝床に入り丸まった。
よかった。なんとか外に出れそうだ。
「ノエル、ありがとう。これでここを出られそうだわ」
「お前の仲間がそこにいるのに、まだ私が魔王城で待つ意味はあるのか?」
アレンは冷たい目をノエルに向ける。
「洞窟ではお前と戦えないだろう?」
「お前ら人間はいつの時代もそうだ。何故そんなに戦いたがる?」
「魔王がいては人々は安心できない」
「勝手なものだ。魔力の強い人間とどこが違う」
「えっ?同じなのですか?」
私は思わず口を挟んだ。そもそもノエルは姿形だけなら私とそんなに変わらない。精々耳が少し尖ってて、牛のような角が頭から離れて生えているくらいだ。
「私達と魔王の違いはなんなの?」
「チェルシー、惑わされるな。こいつは魔族だ。人間とは根本的に違う。魔物なんだ」
「でも、私と何も変わらないわ」
「こいつが前の戦いで何をしたのか忘れたのか!多くの仲間が死んだ。当時の聖下も亡くなられた。強い魔物を使役できる魔王は存在してはならない」
「お前のような小僧が、先の戦いの何がわかる。実際に経験したわけでもあるまいに」
直ぐにでも戦いが始まりそう!なんとかしなくては。
何か、何かいい手は……。
「そうです!良いことを思いつきました!」
私が目をキラキラさせて二人の間に入った。
「なんだ言ってみろ」
ノエルは面白がる様に続きを促した。
「わたしくしがノエルの魔物の部分を浄化するというのはどうでしょう?」
「はぁ!?」
「私に人間になれと?」
アレンは言葉をなくし、ノエルは試すような視線を私にむけた。
「あっ、そうなるのでしょうか?だめでしたか?」
私が首を傾けて聞くと魔王は私を諭すように答えた。
「私は人間が嫌いだ。人間に落ちるくらいなら死んだ方がましというものだ」
「そうですか、いい案だと思ったのですが残念です。でもそうですよね、他のお友達は魔族ですものね」
私はがっくり肩を落とす。
「いや、魔族はもういない。こいつだけだ」
「えっ?」
「前の戦いで死んだか、封印されそのまま滅んでいる」
「そうでしたの」
アレンに魔族のことを教えてもらうとノエルは不愉快そうに声を出した。
「どうした、娘。同情ならいらんぞ」
「いいえ、ノエルの友達になることが出来てよかったとわたくしは思いましたわ!わたくしがいればノエルは一人ではありませんものね!」
私が笑うとノエルは一瞬困ったような表情をしたが私の頭を撫でた。
「魔王、チェルシーに触るな」
アレンはノエルの手を払う。
「チェルシー、これはお前のなんだ?」
私は直球の問いに顔が赤くなる。
好きな人……だけど、そのまま言う訳にもいかないし、友達?上司?相棒?
ピンとくる言葉が浮かばず頭の中をぐるぐるさせていると、ノエルはムスッとして大体わかった、と言った。
えっ?何も言っていないのに何がわかったの?
「そろそろ仲間のの元へ帰れ。ここに人間の群れがくるとあの子が怒る」
ノエルは寝床にいるルナちゃんをチラッと見た。
「はい」
「また会えるのを楽しみにしている。今度はその男を置いてこい」
「魔王、次会うときはお前が死ぬときだ」
アレンは私の手を引いて出口に向かう。
「また会いましょうね!」
手を振って別れの挨拶をするが、その手をノエルに、ぎゅっと掴まれた。
私は両手に花状態である。
「ノエル?」
「あの子がここまで連れてきてしまった詫びだ〈転移〉」
「なっ!」
アレンの怒りの声はかき消されわたしとアレンは白い光に包まれた。
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