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誤解

「アレン様、わたくしは今日良いことをしてきたのですよ、褒めてください」

 私はサっとレイ殿下の後ろに隠れて様子を伺う。


「良いことをした人は殿下の後ろに隠れたりしないと思うな、僕は」


「それはアレン様のお顔が怖いからです。ねぇ、殿下?」


「私としてはチェルシーは大変役にたったが、聖女としては無茶苦茶だったのは確かだ。ほら、怒られてこい。それも仕事のうちだ」

 頭をポンポンされ前に出される。


 うっ、推しの言う事には逆らえない。

「はい。殿下、またお茶しにきてもいいですか?」

「あぁ、いつでもこい」

 私はすごすごとアレンの元へいく。

「チェルシー、帰るよ」

「はい」


 私はアレンの背中に付いて行き、側近3人と共に馬車に乗る。こんな長い間、無言なのは初めてだ。とても居心地が悪い。


「あの、アレン様。迎えに来て下さりありがとうございます」


「チェルシーはまだ城に居たかったんじゃないの?」

 アレンの声は冷ややかだった。

 出来れば居たかったが、この空気の中そうも言ってられない。


「そんな事はありませんよ。でもレイ殿下とのお茶会は是非また参加したいと思いました」

 だってお菓子がおいしいんだもの!


 私はさっき食べたチョコレートを思い出して口元が緩んでしまう。


 アレンの眉がピクリと動き、私も顔を引き締める。


 絶対私今、地雷ふんだ!

 もしかして一人で美味しいお菓子を食べたからだろうか!?


「チェルシーは……いや、なんでもない」

「なんですの?確かこの前もそうやって途中でとめてしまわれましたが、最後まで言ってくれないと気になります」


 アレンの返事はない。また無言の空間が2人を包み、馬車が教会へと到着した。

 アレンは、じゃあまた夕食時に、と言い残し一人自室へと入っていった。

 怒られないのが逆に怖い。

 というより、寂しいと感じるとは思わなかった。


 確かに最近は甘えていた所もあったかもしれない。反省してる点を述べて謝りに行こう。


 教会のキッチンを借り、クッキーを焼く。

 これで手土産(賄賂)も万全である。

 私はアレンの部屋の前に行き、気合いを入れるが、先程の冷たい視線を思い出した。夕飯の後でいいんじゃない?という逃げの気持ちと、アレンとこの空気のまま夕飯をとるという気まずさを回避したいという気持ちが私の中で渦巻いている。勇気が出すに自分の部屋とアレンの部屋の前をぐるぐる回ってしまう。


 よし、大丈夫、大丈夫!ノックしよう。

 息を吐き決意を固め手を振り上げた瞬間中からドアが開けられた。

 護衛のダニエルがドアを開けたのだ。


「あら、どうしてわかったのですか?」

 偶然ではないだろう。出るために開けたなら、私はダニエルとぶつかっているはずだ。

「足音が聞こえましたので」

 そう言われて、私は顔が赤くなる。

 ぐるぐる歩き回っていたのがバレていたのか。

「す、少し運動してから来たのです。アレン様に話があってきたのですが」

 私は目の前に座っているアレンに目線を移す。


「猊下」

「わかった。おいで、チェルシー。君たちは部屋の外で待っていてくれ」


 アレンがそういうと側近3人は部屋の外へ行く。オリビアは何か言いたそうにしていたが大人しく退出していった。


 私はアレンの目の前の席に座った。

「どうしたの?」

 アレンの表情は穏やかだ。私はホッと息をつき、クッキーを差し出した。


「これ、クッキーを焼いてきました。わたくしが作ったもので申し訳ないのですが、今日はこれで許して頂けないでしょうか。もし次に殿下のお茶会にいったらアレン様の分のお菓子もお土産に包んで貰いますから!」


 アレンはクッキーを受け取ってくれたが、眉をよせ首を傾げる。

「ごめんね、クッキーは嬉しいんだけど、チェルシーが何を言っているか僕にはわからないんだ」


「アレン様は、わたくしだけ王宮で美味しいお菓子を食べた事にお怒りなのでしょう?その上、わたくしだけで美味しいお菓子の出るお茶会に行こうとしているので、呆れて口も聞いてくれなくなったのでしょう?」


 今の状況を口にして、自分がどう感じているか実感し、目が潤むのを感じた。


「アレン様がいつものように怒ってくれないのが寂しいです。口をきいてくれないのが辛いです。アレン様が行くなというなら、殿下のお茶会にも参加いたしません。ですから……」


 私が一生懸命話していると、アレンは私の隣に座り困ったように笑っていた。

「チェルシー、泣かないで。貴女は僕がそんな食いしん坊だと思っていたの?」


「泣いてなどおりません」

 目から溢れてはいない。そう、瞬きさえしなければ。

「チェルシー」

「はい」

「抱きしめてもいい?」


 泣いていると思われるよりはいい。それに何故だか私もアレンの体温に触れたいと思った。

 私がおでこをコツンとアレンの胸板にくっつけると、アレンの腕がすっと伸びて私の頭を抱えた。

 あったかくって心地いい。こうしていると先程感じていた不安が吹き飛んでいく。私が動かずじっとしているとアレンは腕に力を込めた。


「はぁ、チェルシーはなんでそんなに可愛いの?」

「か、かわっ……!?」

「貴女を不安にさせたみたいだ。すまない。色々…….考えていたんだ」

「あっ、お菓子の種類でしょうか?」

 私がパッと顔を上げてアレンを見ると苦い顔を作っている。


 違うのですね。


「僕を貴女と一緒にするのはやめて欲しい。確認だけど、今日こっそり抜け出した目的は、お菓子?」


「いえ、……下着です」

 流石の私も言いづらい。

「なっ!?いや、まだ話が繋がっていないようだ。どうして殿下に下着を受け賜るという話になったの?」

 アレンはおでこに手を当てげんなりしている。


「違います!何故わたくしが殿下に下着を受け賜るのです!今日はわたくしが愛用している下着ブランドの限定モデルが出たので買いに出たのです。オリビアから街に行くことは聞いたでしょう?」


「いや、それは初耳だ。」

「わたくしは確かにオリビアに伝言しましたわよ」

 オリビアが伝えなかった所為でとんだ誤解が生まれてしまったようた。どうもアレンは私がひっそりと教会を抜け出して殿下と逢引きしていると思っていたらしい。

「わたくしは今日冤罪というものが、こうして出来上がるのだと勉強になりましたわ。今度からはアレン様に直接話すように致します。仕方ないので」


「チェルシーが殿下に会う時いつも嬉しそうな顔をしているのが悪い」


「確かに殿下には好意を抱いておりますが、恋情とは全くの別物です」

 私にとって推しであることと、恋愛、結婚することは全部別の事である。妃になって一生派閥争いに生きるなんて私はしたくない。


「それに、わたくしは想い人がいるのにこうして他の男性に触れたりする軽い女ではありません」

 私はアレンの胸に置いていた手で、彼の服をぎゅっと握る。


 アレンは少し固まった後、わたしから手を離した。

「ごめん。今日何があったか夕飯の時聞くから、一人にしてもらっていい?」


「またそう言ってわたくしと距離をとって!今度は何を誤解しているのです?」



 私が、ずずいと顔を見て近づけると彼の瞳が妖しく私を捉えた。

「チェルシー?僕の言うこときけるね?」


 そうされると、私は赤くなって頷くしかできない。

「わかりました。ではわたくしは一度部屋に戻ります」


「ん。いいこ」

 私はアレンに頭を撫でられた。

 耐えきれなくなってすくっと立ち上がる。

「そんなに、わたくしを甘やかしてはいけません!失礼します」

 声が思わず裏返る。


 私は優雅に取り繕うこともできずバタバタと部屋を飛びだした。




 部屋を出ると3人の側近が待っていた。私はじっと見てくるオリビアと目があった。

 報告を忘れていた彼女には思う所があるが、それはアレンから話すだろう。


「チェルシー様、私とお話する時間を頂けないでしょうか?」

「伝言を忘れていた件ならば謝罪は不要ですよ」

 誤解が生じ迷惑を被ったが、ミスは誰にもあることだ。


「なんのことでしょうか。全然違います」


 えっ?すっとぼける気なの?

 それはあまりに無礼ではないだろうか。

何の話かわからないが、受けてたとう。私はオリビアと一緒に自室に入った。

「わかりました。お入りなさい」


私は一人椅子に腰を下ろしにっこり微笑む。

「それでお話とは?」

「猊下を余り惑わさないで欲しいのです。この調子では遠征中に良くない噂が立ちます。猊下の立場を考えて下さい」


「それはアレン様に言って下さいませ。貴女の仕事が出来ていないのをわたくしのせいにするどころか、押し付けるとは恥ずかしいとは思いませんか?」


 オリビアはカッと目を開き、食ってかかる。

「言いました!!でも聞いてくれないんでます。聖女様も猊下の立場が揺れるのは本意ではないでしょう?」


「わかりました。わたくしからも言っておきましょう」

 私はため息をつき言外に、あなたが出来ないのなら仕方ありませんねと述べた。

 オリビアは下を向いて震え、声を絞り出した。

「猊下に……猊下に無条件で愛されている聖女様には、わたしの気持ちはわかりません」


「愛されている、というのは語弊がありますが、何故わたくしが貴女の気持を考慮せねばならないのでしょう」


 その言葉にオルビアは目を丸くした。猊下付きの彼女は教会の中ではそれなりの立場なのだろうが孤児であるシスターと伯爵令嬢の私では天と地ほど立場の差がある。


 教会本部にアレンと篭っていた彼女は外の身分差があまりにも意識から抜けている。


 これは直した方がいいわね。遠征の時は階級のある騎士とも一緒になるもの。



「猊下の立場を考えているなら、まず貴女が彼の足を引っ張らないよう振る舞いを勉強なさい」


 有無を言わせず話を打ち切るがオリビアは部屋を出ていかない。しばらくの静寂の後、決意したように彼女は口を開いた。


「ずっと聞きたいと思っていました。聖女様は猊下のことがどうして好きなのですか?」

「好き、とは?」


 私は呆気にとられてオリビアを見るとオリビアも不可解そうな顔をむけた。

「お2人は口外できない関係なのでしょう?」


 いつからそうなった!?


「貴女の勘違いです」

 好き?私がアレン様の事を好き?気がつけばいつも一緒にいたのでそんなこと考えたことがなかった。


「それは失礼しました。わたしは何があっても猊下の味方で居るつもりです。猊下の道が揺るがぬよう聖女様もお力をお貸しくださいね」

 白々しい、外聞が悪くなるので誰かに言ったりはしないが猊下と関係をもったりするな。という意味である。


「無論です。もしアレン様に何かありましたら、聖女のわたくしが必ずお救いいたしますわ。さぁ、わたくしの部屋でこんなに長くお話しているとアレン様がお困りになりますわよ」


 私が退出するよう促すと、彼女は短い挨拶をのべ、部屋を出て行った。


 あぁ、オリビアと私は合わない。疲れた。


 ぐっと背伸びをして背もたれに体重を預ける。


 私はアレンの事を好き?彼の一挙一動でこんなに私の心が乱されるのは彼が好きだから?


 私は首を振って自分の思考を打ち消した。


 深く考えてはいけない。気持ちに蓋をしなければいけない。アレンルートがどうだったかを私は覚えている。


 枢機卿の身分で、主人公を深く愛した彼は教会から弾劾された。正しいルートでは彼は教会を円満に退会し、主人公と慎ましく暮らした。バッドエンドだと破門になる。教会を破門になると異端者として結婚、お葬式等が出来なくなり、生活が出来なくなると言っていいほど厳しい罰だ。



 私は思い出して身震いをした。絶対アレンルートには乗りたくない。


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