第20話:犯人の姿は
いよいよ誕生日当日――だ。
招待状は貰っている、俺と円の分の二枚。
アンドロイドの斜森は会場には入れない、ボディスキャナーに引っかかるからな。
だからその代わりに建物全ての通路を利用できるマスターコードと従業員用の制服が届けられた。
彼女は変装して中に入れって事だ。
スーパーやらレストランやら様々な店舗が入ってるとあって一人二人見知らぬ顔が増えようとも不審に思われる事はないだろう。
俺のほうは今日の夕方から始まる誕生日パーティーに参加するにあたって、服はどうすればいいか悩んでいたが、その心配も束の間。
招待状が入っていた封にはグロリアージュの利用券も入っていた。
午前中、円と一緒にその券を見せに行ったらあら不思議、タダでタキシードスーツが手に入っちゃったよ。円も初めての自分のドレス姿に口をぽっかり開けてやがった。
つくもは自分の分が無いと憤慨していたがどうせお前は人に見られないように出来るんだから問題ないだろと。
さて、夕方までまだ時間はある。
五時くらいからもう会場には入れるとの事だが、最初は入場者が多いから少し時間をずらしてからにする。
入る前に、念入りに周辺を調べて、焦らずじっくり……だ。
スーツは壁に掛けておいて、昨日から続けている作業に戻るとした。
今は叔母さんの家にいるが、叔母さんはどこにもいない。
仕事が忙しいのか、昨日から帰ってきていないのだ。
叔母さんの家によく行くようになって思ったのは、俺が思っていたよりも忙しい人なんだという事。
いつも帰りは遅いし、場合によっては数日は帰らない時がある。その場合は叔母さんの家は自動でセキュリティロックがかかり、閉じ込められてしまう。
泊まる場合はそのままいてもいいがね。
まあそれはさておきだ。
今は斜森を寝かせて頭部に様々なコードをつなぎ合わせている。
何をやっているのかって? 円が機怪異に襲われると知った時に一度試した事をちょっとね。
記憶もデータになっているなら映像データに変換して分析できるかどうか――ってやつ。
変換はできたのだから次は――彼女の、死に際の記憶を蘇らせようって事で昨日から試みてはいるのだが……如何せんうまくいかない。
映像データとして再生できなかったり、破損データになっていたりの繰り返しだ。
装置も斜森重工の物を貸してもらい、高性能の装置へと接続してみたが最初の変換はまぐれだったのか、映像は未だに拝めていないが……手ごたえは、ある。
「もう少しだとは思うんだがなあ」
「この装置の設定にも原因があるわね、やり方が悪かったけど最適化できつつあるわ」
「その調子でお願いしますわ」
「斜森、君は……強くその時の記憶を思い出すだけだ。辛いだろうけど……」
自分が殺された時の記憶をはっきりと思い出さなければならない。
酷な事だ、本当に。
しかしもし死に際の記憶を復元できれば、その映像を分析して大きな手がかりを得られるはずだ、まだ間に合う。
「どれ……私も力を貸してやろう」
「何かできるのか!?」
できるなら早く言ってくれればよかったものを。
「応援じゃ!」
「続けよう」
「何無視しとるんじゃー!」
つくもに少しでも期待した俺が馬鹿だったよ。
お前ってそういう奴だよな、ああ、そういう奴だよ本当に。
だからこそ機怪異の中には悪い奴がいるって言われても俺はお前の事、良い奴だって認識しているんだぜ。本当に良い奴だよお前は。
良い奴過ぎるからこそ、肩パンくらいしていいかなぁ……? 駄目?
「きたわ……!」
「おっ、今度はいけそうか?」
「分からない、でもデータは順調に受け取ってる」
パソコンも装置も熱を持って稼動している、アンドロイドのほうも冷却機能が働いているのか、重低音を発している。
データの受信が完了し、次は映像データへの変換を試みる。
破損もせず、パーセントはゆっくりと100へ近づいている、今度こそいけそうだ。
「……完了よ、早速……見てみる?」
「そうしようか……」
「ドキドキじゃ~」
ああ、俺もだよ。
斜森の最期を見る、ショッキングな映像を見てしまうかもしれない。
覚悟、緊張感、不安、様々な感情が心臓の鼓動を速めさせていく。
斜森も起き上がり、俺達の後ろに回って――円は、再生ボタンを押した。
「再生、できたわね」
「……これは、お前の部屋か?」
「はい、自宅ではなくマンションのほうの、私の部屋ですわね」
彼女の話では誕生日パーティーの最中、途中に休憩をしに自室へ戻ったんだったかな。
自室の照明はつけていない。
しかし街の光が十分に室内を照らし、彼女はゆっくりと窓のほうへ歩いていく。
画質は悪くない、時折ザラつきはするが安定している。
再生時間は五分弱、暫く街の光景と、ジュースを飲むために視界が軽く変わったりしていた。
窓には彼女の姿が薄らと映っている。
赤を基調としたドレス、それに化粧をしており研究所であった彼女とは印象が大幅に違っていた。
……綺麗だ。
整えられた髪に睫毛、りんごのように赤い口紅はよく似合っている。
元々素材がいい。
だからこそであろうか、濃すぎず素材を活かすかのような化粧は、彼女をより栄えさせる。
『――成功ね』
映像内の斜森が話し始めた。
成功? なんだろう、パーティーの事か?
『負担は大きかったけど、これなら……問題ないわ』
どこか、俺の知っている斜森とは違う。
一人でいる時はこうなのか?
再生時間が残り一分を切ったその時――
――パスッ。
と、音がした。
『え……?』
窓には穴が開いていた。
血痕が飛び散り、視界がぐらつき彼女は倒れてしまう。
そこからは映像は画質が悪くなっていき、見れたものではないが……彼女の命が事切れる数秒間だった事は、確かだ。
映像を止める。
沈黙が漂う。
やはり、最期の時を見るというのは、心に……来る。
「……解析してみましょうか」
「ああ……」
斜森重工のものであれば高度な解析も出来るはずだ。
操作は複雑で今一分からないがその辺は円に任せよう、なんかもう使いこなしている気配すらあるし。
何やら専用端末らしきものを取り出してテーブルに置いていた。
するとホログラムとして映像が表示された、それも立体だ。
「す、すごいな……」
「立体解析よ、映像から彼女が立っていた位置、犯人が撃ったと思われる位置や周辺にある物の配置などが分かるわ」
「工事現場での撮影による位置確認や警察が防犯カメラなどの映像が残るものでの解析などで使いますのよ」
「人間やべぇ~のじゃ」
「これって映画でもできる?」
「出来ますわ。加工されているものはまた別の処理が必要になりますが」
映画を一本立体で見てみたいな。
暫く貸してくれないかなこの装置。
「そんな事より。この解析によれば犯人は室内に潜んでいたようね」
「映っていない部分はぼやけているけど、相手は……女か?」
「……そのようですわね、どなたでしょうか」
髪の長さと体躯からして大人の女性を連想させる。
どうにかこの人物を特定できないものか。
「相手の全体像がぼんやりだが表示されてるって事は何かしらそいつが映像内で映っている部分があったのかしら」
「映るもの……鏡、窓……窓はどうだ?」
「反射して映っていた可能性が、あるわね」
彼女が窓の外を見ていたシーンに戻る。
外を見ている彼女の視界、窓には薄らと室内が映っているが角度が悪いな。
「数秒ずつ進めてみるわ」
暫く画面とにらめっこをし、数秒毎の映像を確認していく。
窓の部分を拡大し、僅かに映る人影が解析できる瞬間を探して。
「――そこは?」
「よさそうね、解析してみるわ」
一瞬、顔がやや上に向けられた。
深呼吸をしたのだろう、視線の移りは僅か二秒ほどだが、一瞬でも映れば解析できそうだ。
顔の部分を拡大、画質は荒いがこの装置なら処理してくれるはずだ。
解析が進み、その表情が露に――
「これは……」
「叔母さん、か……?」
なった。
なった、のだが。
信じられない、ものが画面に映っていた。
拡大されたその顔は、確かに――叔母さんだ。
いつもの細目はなく、真っ直ぐに、鬼気迫るような覚悟を持って双眸をはっきりと開いて……いつもの笑顔はなく、冷酷無情な表情をしていた。
「でもどうして……?」
「叔母さんは今どこにいるか分かるか!?」
「いいえ……連絡が取れないの」
まさかとは思うが、斜森を殺すために動いている?
俺はジャケットを――っと、これはパーティー用だ、別の上着を取ってすぐに外へと向かった。
「円はここにいてくれ! 探してくる!」
「い、郁生さん! そんな闇雲に探したって見つかりませんよ!」
「じゃあ手伝ってくれるか?」
「ええ、手伝いますとも」
「ちょっと待っておくれ~。何か、引っかかるんだがのう~」
「何してるんだよつくも、行ってるぞ!」
斜森と二人で先に外へ出るとした。
とはいえ、手がかりはなし。
叔母さんが行くであろう目的地と時間は判別しているが。
今はどこに潜んでいるんだ?
「郁生さん、こちらへ」
「ん? 何かあるのか?」
「ええ……」
すぐ近くの脇道に入る。
整備もされておらず、ゴミ箱が所々の道を塞いで歩きづらい。
ゴスッ――
先頭を歩いていると、突然視界がぶれた。
頭部に何か衝撃が走り――一瞬、頭が真っ白になった。
一体何が起きたのか。
膝から崩れ落ち、力も抜けて地面へただ俺は倒れこみ、視界は暗転した。





