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第11話:新たな体

 それから二日過ぎて。

 喧しい日常を相変わらず過ごしていたがある日、叔母さんから再び連絡がきた。

 アンドロイドが無事に届いたらしい。

 世間の皆さんよりも一足早く新型アンドロイドが直にお目にかかれるとなると気分は最高潮だ。

 今日はいつもよりも授業が長く感じた、放課後を知らせるチャイムがどれほど待ち遠しかったか。


「叔母さん、どう!?」

「おー来たか。見てみな、す~んごいぞこれは」


 作業台に乗せられているそれは――新型アンドロイドだ。

 女性型特有の細身で滑らかさのある骨格、艶やかな銀色が光を反射していた。

 新品ってのは見ているだけでもどこか気分がよくなるものがある。

 髪も生えている、腰まで伸びている長い人工毛髪だ。

 銀色の肌は硬いのかと指で触れてみると弾力があった、人工皮膚のようだ。ニュースでは人肌だったのだが、色の変更が出来るのかなこれは。


「つくもよりも胸があるわ」

「サイズは変更可能よ、つくもちゃんのは無理だけど」

「よーし人間共、喧嘩の時間だぞー?」


 落ち着けよつくも。


「あの……つくもさん、ごめんなさいね」

「なんの謝罪だ? ん? 言うてみい」

「早速彼女を移してみようか」

「あっ、お願いしますわ……」


 これでようやくつくもに抱えてもらう生活ともおさらばか。

 つくもは少々寂しげに彼女の首を運んで作業台へと乗せた。


「うまくいくかな?」

「君が彼女を拾った時は膨大なデータ量を示すAIデータだったのだろう? であれば同じデータを移す作業をすれば問題はないはずだよ」


 ケーブルを繋ぎ、データの移行をこれからする。

 ノートパソコンとも接続して、異常がないかは逐一チェックする。

 前と同じく移行には時間を要するであろう、うまくいくかは……正直分からない。


「後は祈るだけだね」

「神様お願いします、つくも以外の、神様……」

「ちょ、おぉい! 何を私以外の神に祈っておる!」

「お前に祈っても何にもならんし」

「確かにそうね」


 円と二人でつくもとは反対方向を向いて両手を合わせた。

 すかさずつくもは俺達の正面に回りこんで腕を組み始めた。


「私に祈れ!」

「何かしてくれるの?」

「いいや!」


 どうしてこいつはそんなに偉そうにしていられるのだろうか。

 まあいいや、仕方ないから祈ってやるよ。


「つくもちゃん、このアンドロイドに触れていてくれないかい? 物に宿る神様なら何か異変があれば察知できるだろうし、生命エネルギーを少しでも伝えてやれば安定するかも」

「それもそうだな、ふふんっ、私だって役に立つのだぞ~」

「ふーん」

「くっ……反応が薄い、信仰が足りないな本当に人間達は! もう少し神を崇めるべきだぞ、ああ、崇めるだけ崇めるべきなのだ!」


 一応こうして祈ってるじゃないか。

 あ、円はもう飽きてソファに向かってるけど。

 俺もただここでじっと立ってるのも疲れるから座ろう。

 後は任せたぞつくも。

 ……それから二時間ほど。

 データ移行完了のアラームが鳴り、以前まで斜森が宿っていた首だけのアンドロイドは光を失っていた。

 もう中身はない、その光を失った人口眼球がそう告げている。

 ついでにつくもも光を失っていたがまあ、いいや。


「肌の設定は、日本人にして……と。顔や髪型まで設定できるわね。じゃあ……斜森ちゃんの写真をもとに設定しましょうか、声は君が研究の発表をしていた動画から拾って、と」


 機械人形が、少しずつマネキンへ、マネキンから人間へ――そんな変化をし始める。

 肌の色は顔と手足のみ変化していた、体の中心近くは青いラインが蜘蛛の巣のように引かれている。

 端末に送ってもらったアンドロイドの資料によれば、このラインの色がアンドロイドの状態を示しているらしい。

 青が正常、黄色が何かしらの異常あり、赤が危機的異常、そして白が充電中と。

 部分的な損傷の場合、その損傷位置に近いラインの色が変わるようだ。


「おーい、どうかなあ?」


 彼女は、ゆっくりと目を開ける。

 綺麗な青い瞳だ、天井を真っ直ぐに見て、瞬きをしては叔母さんを見た。


「せ、成功、ですわ」


 旧型のアンドロイドの、ロボットらしい声とは違い、雑みの抜けた少女の声。


「おぉ~……うまくいったかな?」

「問題ありませんわ」

「今日はここに泊まっていきなさい、大丈夫だとは思うが一応チェックしなくちゃね」


 上体を起こして、俺達を見ては薄らと笑顔を見せた。

 こちらも笑顔を返しておく。

 何だか、ちょいと緊張するな。首だけだったのと違って、アンドロイドとはいえ中身は一人の人間だ。


「……あ、あのっ、着るものはあります? 裸でいるようで、落ち着きませんわ!」


 はっとするや、胸と局部を隠して恥らう斜森。

 別にアンドロイドの体なんだからいいだろうに。


「ちゃんと用意しているよ、着替えてきな」


 和室へと入っていき、扉が閉められる。

 どんな姿で出てくるのか、気になりつつもしかし今は資料に目を通すとした。

 女性型アンドロイドの重さは87kgか、今まではどのアンドロイドも150kg前後のものばかりだったからかなり軽いほうだ。

 しかもそれでいて車両に跳ねられても凹まないほどの頑丈さがあり、修復用ナノマシンを搭載しているので小さな傷や破損はある程度自動で直るらしい。

 AIデータは……見る必要はないな、叔母さんの事だからデータは確保しているだろうがそのうち誰かに売るだろうな。

 顔や髪型、目や髪、肌の色や体型はパソコンに設定ソフトを入れて自由に設定が可能――さっき叔母さんがやっていたな。

 端末としても使用可能であり、アンドロイド利用者が装着している端末と連携すれば装着者の体調などの情報を読み取り、管理もしてくれると。

 秘書にもなるし、体調管理も任せてくれるとな。

 一体欲しいなあ。


「――お待たせしました」

「……いい」


 グレーのレディースパーカーにだぼだぼっとしたズボン。

 そして、猫耳帽子。

 これに関しては叔母さんの好みであろうか、だがよく似合っている。


「いや~ん似合ってるわぁ!」

「関節部分とアンドロイドのラインが隠れていれば見た目は人間と変わらないな」

「感覚はどう? 着てる感覚や触れている感覚、熱のほうも気になるわね」

「感覚はあります、熱は……」


 叔母さんはコーヒーの入ったカップを渡す。


「……伝わりませんわね。でも視覚にはコーヒーの温度が表示されてますわ」

「おそらく君はデータとして機械に宿っている。その機能も体感できるのだろうが、熱感知に関してはアンドロイドの処理の関係上、温度を測る認識であるから熱さが伝わらないのだろう」

「であれば、熱量に対してアンドロイド側は受ける刺激として処理させれば伝わるかしら。でもアンドロイドの機能としては不必要……ですわね」


 アンドロイドが痛みや熱さを知ったところで一体何の役に立つのかって話だな。

 痛いです熱いですと嘆かれちゃあ扱いづらくなるし。


「動作の問題はなさそうね~」


 叔母さんへカップを返すその動作、人間らしい動きを見せている。

 カクつきはなく、指一本一本の動きも実に滑らかだった。


「力加減は注意しなよ、腕力や握力は人間以上の力を引き出せるようだから」

「ためしに郁生の手を思い切り握ってみよ」

「いやなんでだよ! 俺の手で検証するなよ!」

「ちぇっ」


 ちぇっ、じゃねえよこら。

 何はともあれ、未来から来た幽霊は首だけの状態を脱してようやく体を手に入れられた。

 ある意味では、生き返ったようなものだ。

 だからといって、抱えている問題が解決したわけではない、決して。

 四人分座れるソファに全員腰を降ろした、つくもは相変わらず俺の頭上を漂っている。


「あ、煙草吸っていい?」

「どうぞ~」

「匂いは少し、感じ取れますわね。嗅覚センサーを遮断できるようですわ、煙草の匂いはカットで、と」

「ハイテクはいいね~」


 体についた匂いも消臭機能がついてますの、と付け加える。

 アンドロイドは元々機能が豊富だ、地図検索やネットでの情報検索、計算などの迅速な割り出し、どれも利用者のサポートが主であった。

 しかし最新型は今までにない、ただ利用者のサポートをするだけではなくアンドロイドが自分自身でより良い状態に維持できるような機能も搭載されたようだ。

 そしてこれらを、彼女の場合は自分の意思で自由に使えるとなれば、もはや人間の目指すべき最終的理想――ではないか。

 ちょっと、羨ましいな。


「体も無事に手に入れたし、これからの事について話し合おうか?」

「そうですわね……」

「その件に関してだけど、俺は別に協力しなくていいよな? 君は自由に動けるようになったんだしさ」

「でも、協力者が多いと心強いですわ。街も一人で歩いた事がなくて地理に疎いのもありますし」

「じゃあ叔母さん、後は頼んだよ」


 巻き込まれたくないんだよ、俺はただの学生だ。

 絶対に今が岐路。やばい事に足を突っ込みかけている、この足をなんとか別の方向へと踏み込ませたい。


「私は忙しいから彼女にあまり付き合ってやれんよ。仕事もあるし、今日はまた機怪異に関しての依頼もきているんだ。君達は知らんだろうが、怪異が機械を使って超常現象を引き起こす事件は意外と定期的に起こっているんだぞ、表に出ないだけでさ」


 誰かさんはナノマシンを依り代として俺に取り憑いたしな。


「郁生、お前は機怪異について知る必要があるし、何よりきっかけは君じゃないか。後は出来るよね、はいさよならはちょいと冷たいんじゃないかな~?」

「え~……」

「手伝ってくださいません?」

「俺にできる事なんてあるかなあ……」

「私は手伝ってあげてもいいけど。調べ事は得意だから言ってくれればあんたのお父さんが秘密にしてる趣味であっても調べてあげられるわ」

「し、知りたくない事は調べなくても結構ですのよ。でもありがとうございます、協力してくださいまし」

「ま、それ相応にお金も頂くけどいいよね? 金持ちなんだし」

「当然の事ですわ。加えて、今回このアンドロイドを手に入れるまでに皆様が動いてくださった分もきちんと報酬としてお支払いいたしますわ」

「いやあ~それは嬉しいわねぇ~」

「ん、待て。お金をくれるのか?」


 そうなると話が変わってくるぞ。

 今回貰える報酬もいくらなのか気になるところでもあるが、もし協力すればまた報酬をいただけると?


「ええ、満足のいく額をお支払いいたしますわ」


 円はまたノートパソコンで何やら打ち込んでいる。

 もしや彼女の口座からいつでもお金を動かせるようにしているんじゃないか?

 ……ならば。


「やっぱりアレだよな、お嬢様を街中一人で歩かせるのも心配だし、ここは持ちつ持たれつといこうじゃないか。協力するよ」

「この男、金の魔力に取り憑かれておるわ」

「俺が取り憑かれているのは付喪神だ」


 頼まれたら断れない性格だからなあ俺は。

 仕方ないよなあこれは。


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