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第10話:彼女の意外な一面

「では次の問題に移ろうか」

「私ですの?」

「そう、君だ」


 台座を取り出し頭部を乗せる。

 手に取る丸い石がいくつも繋がったアクセサリーを手に取っていた。

 つくもが数珠かと呟き、ああ、そういえば数珠なんてもんだったと思いつつ……でもそれ何? って感じ。


「お主、一般人などと申しておったが、只者ではないな?」

「大層なものを想像しないでね、ちょっとした副業みたいなものよこの手のものは」

「副業ねえ?」


 にしては道具も豊富で、どれも安っぽさはなく俗に言う本格的なものばかり。

 お札まで出てきたな、何か文字っぽいものが書かれているが全然読めない。

 叔母さんは斜森の額にお札を貼り、こめかみを両指でそっと触れる。


「これは~……今まで感じた事がないねえ」

「ほう、お主、分かるのか?」

「それなりに霊感はあるもんでね」


 霊能力者っていうのかな。

 昔のアニメや漫画などの作品でたまにそんな単語が出てきたな。


「君、本当に未来からやってきた幽霊なのかい?」

「私の記憶が正しければ、そしてこの非科学的な現象を信じるならば、ではございますけれど」

「怪異の姿は無し……神や霊体のような感覚、記憶からして、時間にズレが生じている……これは、複雑だねえ。つくもちゃんが実は絡んでる……とかは?」

「私は物に憑き、力を与えるのみ。時間になど干渉できん」

「であれば……いや、今すぐには判断など出来んね~」


 お酒で確認するにも、アンドロイドに飲ませるわけにもいかないのか、白皿に注ぐのみで様子を見ていた。

 とりあえず、濁りはしなかった。

 濁ったら濁ったでどうなっていたのだろうか。


「えーっと、斜森未由ちゃんねえ。誕生日は六月六日、と。血液型は?」

「……? AB型ですわ」


 叔母さんは円のほうをちらりと見た。

 円は叔母さんのノートパソコン持ち出しており、カタカタと文字を打ちこんでいた。


「合ってるわ」


 彼女について円に調べてもらっていたようだ。

 随分と検索が早いね。


「通っている学校は?」

「時東大学付属天正高等学校ですわ」


 高校進学の時に何度か見た学校名だ、頭の良い奴が大体進学するんだよなあそこ。

 中学の時もクラスで一番頭も顔も良い奴が合格して進学していたっけ。

 そいつの名前を知ってるかな? なんて思ったが別に聞かなくてもいいか。

 叔母さんは再び円を見て、円は小さく頷く。

 質問してはその流れの繰り返しで、血液型、年齢、住所、通っている学校、身長、体重、エトセトラ……と。

 この首だけアンドロイドに宿っているのは斜森未由であるという照合はもはや一致とみていいのかもしれない。


「最後の記憶は、誕生日に後ろから撃たれた……と」

「はい、気がついたらこの状態になっていましたの」

「時間や場所、状況は分かる?」


 その辺はまだ詳しく聞いていなかった、首を突っ込んでもいい事などなさそうな気がして。

 今はもう、引き返すのは無理だな。


「マンションの多目的ホールで誕生日パーティをしておりまして……。途中、休憩をするために自室に一度戻りましたの。窓の外を見ていたところを、後ろから撃たれたのですわ……」

「命を狙われる理由に心当たりは?」

「ゆくゆくは斜森重工の社長となる身、社内で私の事をよろしく思っていない方は多数おりますが、命を狙うほどとなると……どうでしょうか」

「分からんぞ~、人間の欲望は時に恐ろしい事態を招くものよ。私の神社なんかは人間の欲望によって潰されたようなものだしのう」

「撃った奴さえ分かれば、これから君が殺されるという未来も回避される、か」

「もし回避できた場合、今の斜森はどうなるのかな?」

「過去が変わって修正か、それとも別々の時間軸だから今の斜森ちゃんはそのままか――なんとも言えないね、こんなの初めてだし」


 物語なんかでもこういうのは、えーっと、タイムトラベルやらパラドックスやらでよくあるけれど、実際に検証されたわけではない。

 どれも仮説ばかり、つまりは……もしこれから殺されるであろう斜森を救った場合、どうなるかを知る事ができる――興味深い。


「ちなみに、今月発表される宝くじの番号を知ってたりはするかい?」

「申し訳ございません、宝くじというものに興味がございませんので……」

「ん、まあそうよねえ~。お金持ちだものねえ」


 すっげえ残念そう。

 分かるよ、うん、その気持ちはとても分かる。


「一先ずこの子を今の状態よりマシにしてあげたいねえ。首だけというのはちょいと可哀想だ」

「ゴミ収集場から使えそうなパーツを持ってきて組み立てるか」

「そんなとこで得たもので組み立てられるのは私としましては……少し、嫌ですわ」

「でもアンドロイドのパーツは高いし……」


 その時、おもむろに円が顔を上げた。


「斜森重工の、あんたの研究所にあるアンドロイド、一体を貰えばいいんじゃない?」

「自分のものではありますから使えるなら使いたいですが、説明して渡してもらえるとは思えませんわ」

「そうね……だから、あんたの権限を使ってアンドロイドの発注をしてもらうの」

「私の権限を使う……ですって?」

「ええ、さっき定期的に発注してるって言ってたわよね? それならちょっと一体、偽装して届け先をここに指定するの。これでも私、こういうの得意なのよ」

「おー、そうだった。円ったら私よりも機械が扱えるんだよねえ」

「ただの胸でか女かと思ったが、意外な特技があるものだな!」

「ありがとまな板」

「さ~喧嘩だあ」

「落ち着け」


 お前は黙って一升瓶飲んでいろ。

 しかし円が叔母さんと仲が良いのもどこか納得がいった。

 二人はここで一緒に作業する時間も多いのだろう。円の特技も活かされる事も多かったはずだ。

 どのような事をやっていたのかは、あまり聞かないほうがいいかな?


「ちょいとやってみようか。円、頼むよ」

「はいよ。けれどあんたが本当に斜森未由なら、の話なんだけどねこの方法は」

「ご心配なく、私は誰がどう言おうと斜森未由ですから」


 画面を見せてくる。

 いくつか開かれているウィンドウの中に、斜森重工のロゴが入ったウィンドウがあり、彼女の認証部分と思われるIDとコードの打ち込み欄がある。

「655547565、コードはA67b533FrU8ですわ。パスワードは週替わりで変えてますのよ」

「お……うわ、マジ? 入れたわ」


 つーかよく憶えてるな。

 俺なら4桁のパスワードくらいしか憶えられないぜ。


「当然ですわ。しかしこの画面、ハッキングですの? 大丈夫なのです?」

「大丈夫。私は尻尾を掴まれるヘマしないから」


 円さん、もしややばい事を今しているんじゃないですかね。

 それに立ち会っている俺もやばいとかそういうのやめてくれよ。


「えーっと……ほとんどが研究データばかりね、発注のほうは? この中から調べられる?」

「個人発注の項目がございます。そこを押してくださいまし、履歴を調べれば新型アンドロイド一式の注文履歴があるはずですわ」

「ああ、これね。細かなパーツまで全て大手が作ってるわ。これ一体だけでいくらするのかしら」

「450万ほどですわね、これでも安くなるようかなりの努力をしましたし実際、安いほうですわ。そこからメンテや保障、データ更新料金もあるから年間50万ほど掛かりますが」

「高っ……」


 でも値段相応に性能も良いはず。

 是非とも我が家に欲しい、料理でも作ってくれないかな。

 古いアンドロイドであれば新品で百万ほど、中古は半額近くだ。

 俺の小遣いじゃあ絶対に手が届かないがゴミ収集場ならタダだ。だからこそあそこを通うのはやめられねえ。

 今回はこのアンドロイドの首を元にAIデータもちゃんと入れて一体丸々作って叔母さんに売ってウハウハ計画だったのになあ。


「最新のアンドロイドですから。最初は値段はそれなりにしますわよ、先月――ああ、こちらでは五月末ですわね、そのあたりに値段の発表がされますが、発売までにコスト面の見直し次第で値下げもプランに入っておりますの」


 それでも数百万の領域からは出ていかないだろう。

 しかし富裕層や大企業を対象としているようだから俺達には手が出なくて当然か。

 暫く画面を眺めていた叔母さんは煙草に火をつけては、悪い事を企てているような、黒い笑顔を浮かべていた。


「うちはそんなプランは必要ないわね~。じゃあ円、やっちゃって」

「やっちゃうわ」


 ノートパソコンをもう一台取り出し、まさかの二刀流で操作。

 普段の円とは思えない――そこには円という名のハッカーがいた。

 彼女の邪魔にならないよう、縄やら塩やら、儀式で使ったものは片付けておくとしよう。

 ここに来て特に何もしてないのだから少しは役に立とう。


「流石の警備プログラムね。でもちょいちょい甘い、本部ほうは厳重で研究所は少し甘いと見た」

「やれそう?」

「亮子さん、私を誰だと思ってるの? やれるに決まってるじゃない」

「いやあ頼もしいわ~」


 目が全然違う。

 君の目はそんなに鋭かったかい?

 キーボードの上を走る指がもはや残像を発生させるほどに早い。

 俺の知らない円の一面を今、見ている。


「何重にも偽装と迂回を組み込んで、当然注文した記録は残さず、荷物だけが発送されるようにすれば、と。お金の支払いはどこからにしようかしら」

「それならば私の口座からでお願いしますわ。アンドロイドを買える金額は余裕であるはずですの」

「でもバレない?」

「普段確認なんかしませんし、数百万程度動いたくらいでは気付きませんわ。私の口座は変動が激しいですから」

「金持ちってすごいねえ~」


 お金持ちのお嬢様の預金はいくらくらいあるのだろう。

 気になりますな。


「……じゃあ支払いをやっておくわ。口座と暗証番号教えて」

「あの、悪用しません?」

「不安なら私だけに耳打ちで教えて」


 少し悩み、斜森は耳打ちを選択した。

 こちらとしては教えてもらいたいものだね、お小遣いとしてちょっとだけでいいから貰いたい。

 というかここまで協力してるんだしいくらかくれませんか?


「これでよし、と」

「どうなった?」

「最新型アンドロイドの発注を頼んだわ、お金も即時振り込みで今日中に発送、いくつか配達業者を通して全て業務終了後にデータが改ざんされるよう仕込んだから先ず足はつかないし、取引はちゃんと済んでて被害があるわけじゃないから問題ないわ。一応、本人が業者に注文したんだからね」


 君は本当に俺の幼馴染、阿左見円なのだろうか。

 何か取り憑いてたりしない?

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