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SKYED7 -リオン編- 上  作者: 九綱 玖須人
ジウの大賢老
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ジウの大賢老 6

 ロブにも聞こえたジウの声はオタルバに戦士を集めるように命じる内容だった。


 いよいよか。


 見れば大樹の真上に広がる緑は夕焼けに染まり輝いていた。


 夜といえる時間には多少早いのかもしれないが、皆が集まる頃には日が落ちているのだろう。


 ロブはジウの声が聞こえているので素直に神殿へ向かっていたが道中でブランクと合流した。


 喧嘩したばかりなのでノーラは当然一緒ではなかった。


 どうやらラグ・レも呼ばれたようで、ブランクと共にいたラグ・レの顔には戦士としての喜びが滲んでいる。


 まだまだ年端もいかない子供ではあるが合議制の会議に招かれた以上は立派な戦力だった。


 九人が集う今合議において大賢老を筆頭にイェメト、ロブ、ブランク、ノーラ、ラグ・レが先の合議を反故にした側の面々だ。


 立場でいえばジウを構成する主軸である二人がいる陣営に立っていた方が議題を可決の方向に持っていきやすいはずだが代表自ら掟を破ったという点は留意する必要がある。


 また、ノーラの立場が微妙なところではあるし果たしてロブが一票として捉えられるか分からないという点も懸念事項だった。


「まずは何が議題になるかな」


「当然大賢老の真意だろうな」


「それに関しては満場一致であろう。直接ジウから聞けるならば私も聞きたいぞ」


 全ては大賢老がイェメトを使いブランクたちをけし掛けさえしなければ起らなかったことだ。


 大賢老の答えによっては他の議題の結論も大きく変わってくるだろう。


 三人は神殿に降り、中を覗いた。


 大賢老の光が物の輪郭を捉え合議の場の全容がロブにも見えた。


 神殿には円を描いて藁が敷かれその一端に大賢老の椅子が被っていた。


 座る位置で対立させない円卓の構図だ。


 とはいえ軍議などを机で行っていたロブにとって藁の座席はなかなか斬新な光景である。


 それぞれの藁の前には粗食が並んでいるようで芋の良い香りが漂っていた。


 そういえば亜人は人に近い外見のものから獣に近い外見のものまでいるわけだがカルナグーも芋を食べるんだろうか、とロブはどうでもいいことも気になった。


「どこに座ればいいんだ?」


 ロブたちは最初に来てしまったようで誰もが合議に参加経験がないからどこに座っていいか分からない。


「大賢老、どこに座ればいい?」


「入口に立ち尽くす……な! 何処でもいいからはやく座……れっ!」


 ロブが大賢老に尋ねた後にすぐに返ってきた答えは後ろからで、かなりの大喝であった。


 驚いて三人が振り返ると湿地帯の小路いっぱいに歩く大男がいた。


「ロブ。ルーテルだ」


 ブランクが耳打ちしロブはルーテルと対峙した。


 ルーテルは人間の中でも大柄なロブが子供に見える程の巨漢だった。


 そして外見は明らかに牛だと分かる亜人だった。


 大きな角に全身を覆う漆黒の毛、そして顔は完全に牛である。


 胸の部分だけ毛が極端に少なく人間の胸板のようになってはいるが、胸毛の奥の胸ははちきれんばかりの筋肉と太い血管が浮き上がっておりかなりの筋肉自慢であるように思える。


 ブランクは怪力のブランクという二つ名が欲しいと言っていたがルーテルにその称号が与えられていないのだから無理だろうなとロブは思った。


 ルーテルはロブを見降ろすと興奮で息を荒げながら血走った目で睨みつけてきた。


 ついでに何故か鼻血まで垂らしていた。


「貴様がロブ・ハーストだ……なっ!?」


「そういうお前はルーテルだな。よろしく頼む」


 どうやらかなり怒ってるようだ。


 気持ちは内に留めているようだが漏れ出ている怒気はかなり濃度が高く、爆発したら手が付けられないだろう。


 ロブは本来招かざる客であるので当然の反応なのかもしれないと思ったがそれにしては何やら私怨のようなものを感じた。


「なぜ俺様の名を知ってい……るっ! ブラン……ク! 貴様また……か! 後で覚えてろ……よっ!」


「えっ俺!? なんで!?」


 一触即発に見えた二人をはらはらしながら見守っていたブランクであったが急に話を振られて飛び上がるほど驚く。


 ブランクにとっては身に覚えのないことだったが、ルーテルはついさっきブランクに年齢をばらしたことを理由にオタルバの全力の拳を顔に喰らっていたのだった。


 かつてルーテルは寝食を共にした師弟時代にオタルバに夜這いをかけた事があった。


 その時は完膚なきまでに撃退されたのだが否定された愛の怒張を隠す事も出来ずに惨めな姿で許しを請うルーテルを哀れに思ったオタルバがこれ以上ルーテルの自尊心を傷つけまいと、拒絶の言い訳にしたのが年齢差であった。


 自分はもう愛を受け入れるような年齢ではないと。


 ルーテルはその時に知ったオタルバの年齢をブランクとの何気ない会話の中で言ってしまっていた。


 巡り巡ってオタルバの耳に入ったのは自業自得かもしれないが別に内緒にしておいてと頼まれたわけでもないのにそのことで怒られるのはルーテルにとっては腑に落ちないことだった。


 そしてルーテルはブランクにしかオタルバの年齢を言った記憶がなく、結果ルーテルの中ではオタルバに告げ口したであろうブランクが一番悪いという結論に至っていた。


「ブランク、おまえルーテルに何したんだ?」


「わかんねぇ……」


 神殿の中に入り大賢老に挨拶をした後は自分だって席に着かずに壁に寄りかかるルーテルを尻目にブランクはルーテルに嫌われる原因が思いつかず青い顔をするのだった。


 思わぬところで別の懸念事項が増えたもんだ、と実は元凶であるロブは嘆息した。

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