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SKYED7 -リオン編- 上  作者: 九綱 玖須人
ジウの大賢老
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ジウの大賢老 5

 ロブが去った後オタルバは寝所に戻った。


 ロブの気配がしたから慌てて木の上に逃げたは良いがまさか寝所に入って行くとは思わなかった。


 自分が寝ていると思ったのか、そうならば大胆にもほどがある。


 そして趣味が悪いにも程があると思った。


 ふらふらとした足取りで飛び込んだのは干し草の山だ。


 ロブが飼い葉置き場だと思ったそれは寝台だった。


 疲れた。


 何故か疲れた。


 何故疲れたかは分からないが考えるのも疲れるのでもう何も考えたくない。


 オタルバは会議まで仮眠を取ることにした。


 しかし。


「オタルバ、そんな理由ではぐらかすな。俺は本気だ」


 真剣な口元でそう告げられた時のロブの声が頭に蘇る。


 すると全身にむず痒いものが走り、どうしていいか分からないオタルバは干し草を抱きつつ顔を埋め、足をばたつかせて悶絶するしかないのであった。




 ジウ内部、食堂にて。


 広場から半周した所には集団が食事を摂るための空間がある。


 昼時は過ぎているので人はまだらだが、昼夜問わず解放されているそこは誰もが貯蔵庫から好きな食材を出して自分で調理して食べることが出来た。


 そこにラグ・レとブランク、ノーラがいた。


 ノーラは不機嫌そうに眉根を寄せて指で机を叩いている。


 ラグ・レとブランクはそんなノーラにふてくされた態度を取りながらふかした芋を頬張っていた。


 ノーラはロブ・ハーストを連れて来たことを咎めるために、ラグ・レにご飯を食べさせるという名目でブランクを食堂に連れてきていた。


 密書ではブランクにロブとの接触を避け、切りの良い所で引き揚げろと言っていたはずだ。


 ラグ・レには黙っておきたかった。


 だから厨房でこっそりブランクを叱ったのに、開き直ったブランクは事もあろうにラグ・レに全て話してしまった。


 憤る二人にノーラはロブ・ハーストをジウに招き入れることの危険さを説くのだが一向に理解されず苛立ちばかりが募るばかりだった。


「……ブランク、あんたさっきから食べる量調整してるだろ」


 ノーラが一際大きい音で机を指で叩きブランクを睨みつける。


 ブランクは本来なら既に食べ終わってもよさそうな量の芋を未だに少し残し食べ終わるまでの時間稼ぎをしていた。


「してねぇよ」


「してるじゃんか」


「だってこれ食べ終わったらまたがみがみ言い出すだろ。だから食べ終わらないんだ」


「やっぱり調節してるじゃん!」


「食事中はお隣近所と楽しくお話しながら食べるんだぜ! 良くない話は厳禁だ!」


「そうだ! 楽しくない話は食事中は禁止だ!」


 ブランクの抗議に便乗してラグ・レも頬張った芋を飛ばしながら叫んだ。


 そんな事をしても話は後回しになるだけだというのになんと無益な抵抗だろうとノーラは頭を抱えた。


「食べ終わってもいいぜ。でも話はもう聞かねえよ。ジウだってロブが住人になるのを認めたんだ。ここでノーラがああだこうだって言ったって覆らないぜ。ジウは絶対だ」


「絶対じゃない。皆が迷惑する決定なんか無効だ」


「んなこと言ったら俺たちだって皆が反対していたのに合議を破って赤ん坊を攫ってきただろ。返してくるか? 今更」


「それとこれとは話が違う。赤ん坊を攫うのはジウの意志だった。あの男を連れてくるのはジウの意志じゃなかった」


「なんだよ結局ジウは絶対なんじゃないか」


「なんでそうなるかなぁ!」


「こっちの台詞だよ、怒るなよ!」


「ノーラよ、ロブ・ハーストは助けを求めていた。ジウに会いたいと願う者に救いの手を差し伸べるのはジウの住人の務めではないか?」


「場合による! 連れてこいって言われたのは赤ん坊だけだよ。あんな脱走兵がジウにいるってばれてみなよ、帝国が攻勢をかける良い口実にしかならないだろ! あと何回言えば分かるんだよ?」


「赤ん坊だけでも変わらないぜ。その攻勢が目に見えるか見えにくいものかの違いでしかない」


「ブランクあんた……誰かに入れ知恵されただろ。なんにせよ帰らせるべきだ!」


「悪いな、俺のことで揉めているのか」


 熱くなって周囲が見えなくなっていた三人だが声に驚いて入り口を見ると歩み寄ってくるロブが見えた。


 話はだいぶ聞かれてしまったようだ。


「ノーラ、お前の態度がよそよそしかった理由が分かった。当然と言えば当然の反応だったな。俺は招かれざる客だ」


「あ、いや……」


「ロブ・ハースト、そんなことはない。ジウは求める者に門を開く。気に病む必要はないぞ」


「そうだぜロブ、気にすんな! もうジウには住人になれって言われてんだ、今更出て行けだなんて誰にも言えねえよ!」


 渦中の人が来た事によって勢いづいた二人に押されノーラは言葉に詰まってしまう。


 言いたいことはたくさんあったが当人を目の前にするとどうしても憚られてしまい、耐えきれなくなったノーラは拳を机に叩きつけた。


「わ、私だってねぇ! 別に個人的に嫌いだとか、そんなことで言ってるんじゃないよ!」


 ぴたりと静かになるラグ・レとブランク。


 普段なら殴り合いになっても言い返す二人だったがこの時ばかりはノーラの震えた声にたじろいたようだった。


 亀裂が生じかけている両者の間に立ったのはまさかのロブである。


 机の間に立ったロブは腰を降ろし三人の目線よりも低い所から両者に話しかけた。


「ノーラ、分かってる。お前たちも分かっているだろう。ノーラはジウの為を思って言っているんだ。もちろんお前たちもだろう。だから言いたいことがあるなら会議の時に発言してくれ。この場での争いは誰も望んでいないはずだ。俺の処遇が戦士たちの合議に則って定められるのなら俺は喜んで従うから」


「会議……俺たちも出席していいって!?」


「私もか!?」


「断言は出来ないが呼ばれるはずだ。お前たちも当事者なのだからな。ノーラ、ひとまずそれで納得してくれないか」


「なんだよ納得って……あたしがわがまま言ってるみたいじゃないか! あと……馴れ馴れしく呼ぶな!」


 ロブは年長者の務めとして場を取り持とうとしたのだが失敗に終わってしまった。


 ノーラは怒鳴って食堂を出て行ってしまう。


 目に浮かぶ涙を見られたくなかったのだろう。


 一筋縄ではいかないな、とロブは嘆息した。


「追ったほうが良いか?」


「いや、やめておけ」


 不安そうな顔のブランクをロブは制した。


 追いかければ益々こじれるだろう。


 それよりも夜まで待ったほうが良い。


 合議も信を失っている状況ではあるが個別での言い合いで行く末を決めるよりは皆が納得して結果を受け入れられるはずだ。


「ブランク、ラグ・レ。今の内に寝ておけ。今夜は長くなるぞ。議題はレイトリフの書状についてと、今回の計画を強行した大賢老の真意についてと……あとは俺についてだ」


 ロブは二人に睡眠を勧めると自分はジウの中を歩いて回った。


 何処かで戦士に遭遇しないかと思ったが会えなかった。


 それでもまだ時間があったので再びジウの元に向かおうとしたが、先客のオタルバに追い返されてしまった。


 今日は門を早く閉ざし、晩餐兼会議の設営に入るのだという。


 手伝おうと打診したが威嚇されロブは仕方なく食堂で住人たちの相手をして時間を潰した。


 住人達はロブについて悪感情を持っている者はおらず、むしろあまり帝国の情報は知らないようだった。


 果たして自分は合議の後にもこの無垢なる住人たちに顔向けできるのだろうか。


 大勝負の時を目前にしてロブは戦場とは違う緊張を感じていた。




 日が落ちて、大賢老の声が聞こえた。

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