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時を待つ 7

 一見するとそれは老木だった。


 しかし玉座に置かれた手、重力で項垂れた頭が確かに老人の遺体の形状をしていた。


 蔦との境目が分からないほどに同化し、辛うじて風化しかけた法衣が散見している。


 一体どれ程の長きを在り続ければそうなるのかロブには見当もつかなかった。

 

「ロブ、あれが大賢老だよ。見ての通りずっと昔の人だ。ジウっていう名前なんだ。このあり得ないでかさの木が存在してるのはジウの奇跡が今も続いているからなんだそうだよ。だから木の名前もジウ、組織の名前もジウ。俺たちはジウと共に生きてるってわけさ」


「なるほどな、なんとなくわかった」


「まあすぐには理解出来ないと思うよ。じゃあ次はイェメトに会いに行こう。ある意味ジウの代表だよ。イェメトはジウの言葉の代弁者なんだ」


「いや、待て」


「ん?」


「……言っただろ。何故か俺にも聞こえるんだ」


「あ」


「ジウが俺に語りかけている」


 ロブはブランクに静かにするように促した。


 ジウの声は直接頭に響いてくるので聞こえないことはない。


 しかし同時に耳に何かしらの言葉を拾ってしまうと聞き取りにくいのだ。


 おそらくオタルバや、まだ見ぬイェメトは慣れているからどのような状況にあっても聞き取れるのだろうがロブは集中を要した。


 辺りが静かなことを確認しロブは枯骸に話しかけた。


「あなたがジウの大賢老だな。会いたかった」


――ロブ・ハースト。我もだ。君はきっと我が元を訪ねると思っていた。


「不思議なんだが……あんたとは以前会った気がする」


――そうだろう。嵐の夜に君が海へ落ちた時、我が君を見ていたことを、君は覚えているのだ。


 ロブは思い出した。


 サネス一等兵に斬られ上下も分からない状態で海に落ちたあと、誰かに見られている気配を感じていた。


 確かに二つ感じた視線の一方と大賢老の放つ雰囲気は似ている気がする。


 それにしてもまさか大賢老に既に存在を知られていたとは思わなかった。


「何故……いや、どうやって見ていた? なんのために?」


――魔力……を知っているかな。魔法を使う為の源の力だ。魔法を理解する者は魔力の流れを見ることが出来る。我はあの時、君に宿った魔力を見ていたのだよ。


「俺に魔力が宿った?」


――我が皇帝の赤子を連れてくるようにそこのブランクたちを差し向けたことは知っているだろう。我は遠く離れたこの地にて動向を見守っていた。その時にハースト、君は偶然巻き込まれてしまった。それも最悪の因果を背負う形でね。


「最悪の因果?」


「ロブ、俺にも分かるように喋ってくれよ」


「後で話す。少し黙っててくれ」


「ちぇっ、じゃあ外にいるよ」


「すまん」


 いじけたブランクが退出し、神殿にはジウとロブだけになった。


――既に我が肉体は朽ち動かす事ままならぬ。我が言の葉はもはや限られた者にしか届かぬ。


「ブランクはあんたの声が聞こえていないらしい。でも俺には聞こえる。何故なんだ?」


――言っただろう。君が魔力を解するからだ。ブランクは亜人ではあるが血が薄い。魔力を理解しようにも魔力を持たぬ。


「なるほど、オタルバは見るからに亜人だったからな。亜人の血が濃いと魔法を使えて、あんたの声が聞こえるのか」


――いずれにせよ魔法は理解せねば使えない。アルマーナの住人とて我が言の葉を耳に出来るものはそうおるまいよ。


「ならば俺は何故あんたの声が聞こえるようになった? 海に落ちて死にかけたからか? 俺にも魔力があったのか?」


――いや、君が我が言の葉を解することが出来るのは奇しくも蛇神アスカリヒトの火に焼かれたからだろう。


「また知らない言葉が出てきたな」


――身に覚えはないかね?


 ロブは一つ思い当たる節があった。


 火ではないが自分と対峙したサネス一等兵の化身装甲が稼働限界に陥った時、装甲が黒い稲妻を纏って起き上がったのだ。


 そして斬られた後、ロブは荒れ狂う海中でゆっくりと身を這うような憎悪に牙を向けられた感覚を感じたのだった。


 夢かと思っていたがあれが蛇の這う感触と思えば蛇神アスカリヒトという単語と一致する。


 荒唐無稽ではあるがサネス一等兵の化身装甲に宿っていた蛇神の力がロブにも移ったと考えれば一応の筋が通った。


「つまり、俺は何故か蛇神の力を授かってしまったというわけか」


――そういうことだ。


「なるほどな……斬られて見えないはずの目が妙な光を感じると思えば……これはその蛇神とやらの影響で魔力を視認していたってわけか」


 オタルバやジウを見たときに強烈な光を感じたのは彼らが魔力を持ち、魔力を理解しているからだったのだ。


 草木などの万物が僅かに発光して見えたのは、それらにも魔力が宿っているからなのだろう。


 逆にブランクやマノラの人々は自発的に発光せず光の輪郭を感じていたのは、魔力がなく理解もしておらず、されど魔力の影響を受けていたからだ。


 三者三様に微妙に発光の仕方が違っていたのには理由があったのだ。


「面白いもんだな……まあ、不可思議な境遇の謎が解明出来て良かったよ。だがな、大賢老。俺はここにはそんなことを聞きにきたわけじゃない。俺は償いにきたんだ」


――償い?


 ロブは大賢老に会いに来た理由を話した。


 戦争中に殺めてしまった無実の子供の償いがしたいので彼らの親族に会いたいこと。


 ラグ・レに出会いジウの名を聞き、大賢老の噂を確信に変えたこと。


 だからラグ・レに手を貸し今に至ること。


 一方でレイトリフの依頼もこなした。


 大賢老は文字を見ることが出来るか分からないので書簡はイェメトに渡すことにした。


 ひとしきり話を聞いたジウは思案しているのか暫く無言でいた。

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― 新着の感想 ―
蛇神の力かっこいいですね! 今年は巳年。 母方の祖母の実家は蛇石なんですわ。 ご縁ですね(^^) 蛇神で黒い雷といいますと、騰蛇でしょうか。 十二神将でてきちゃうのかな。 ロブの恋バナも、ニファち…
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