希望の子 8
「少尉、君の部隊は解散させる」
急きょ最悪の人事が少佐の口から告げられた。
解任だ。降格かもしれない。
最終的にはそうなるとは思っていたが、まさかこれほどにまであっさりと告知されるとは思わなかった。
身辺調査や尋問があっても良いものを、自分は釈明も出来ないまま左遷させられるというのか。
故郷に言い訳が立たなかった。
エイファは目の奥が熱くなるのを感じた。
「そんな暗い顔をするな。むしろ栄転だと思ってくれ」
そんなエイファを見て少佐がにやりと笑う。
エイファは訝しんだ。
「君は知っていたか知らないが、君への僻みの声が結構あがってきていてね。良からぬ噂もそこかしこが出所になっている。だが君があの後に接触したのがファーラン大尉だけで良かった。つまり誰も大怪我をしている君を見ていないということになる」
「大怪我?」
「そうだ、サネス少尉。だいぶ酷い怪我だな。全治三か月といったところか?」
エイファは合点がいった。
最初は何を言っているのかわからなかったがつまりはこういうことなのだろう。
ハースト軍曹を取り逃がしたのはエイファも交戦して重傷を負ったからだと。
任務失敗の失態は失態として残るがそういう事にしてしまえば周囲の者たちからの批判は緩和されるだろうし、化身装甲使いとしての誇りを失わずに済む。
エイファは深々と頭を下げた。
「……お気遣いありがとうございます。安静にしている必要があるようです」
エイファの返答に少佐は満足そうに頷いた。
噂に違わぬ横暴ぶりだった。
「少尉、陛下は御寛大だ。殺してはいないよ」
少佐が喋るとエイファの拘束が解かれた。
エイファはすぐさま呼吸を整え姿勢を正した。
動けるようになったとはいえ兵長を気に掛ける素振りを見せてはまた不思議な力の餌食になるかもしれない。
気にはなるが死んでいないならとりあえずは良いとエイファは割り切る事にした。
「話が早くて助かるよ。動ける人員を探していたところだからちょうどよかった」
「動ける人員?」
「そうだよ少尉。君は今から私の独立大隊の一員だ。とりあえず君への尋問は君が退院してからってことになっているから三か月は暇な時間が出来たわけだ。それまでに軍曹の居場所を掴んでもらうよ。いやぁ、君は失態に負い目を感じているだろうから死んでも働いてくれるだろうね。良かった良かった」
「居場所と言いましても……あの様な状況で生きているとは」
「生きている」
皇帝が断言した。
はっとして眼を見たエイファは戦慄する。
そこにいたのは人間の形をした異なる生き物だった。
その瞳はまるで内側に超大な怪物が潜んでいるような、荒れ狂う潮の下でうねる深淵のような色を湛えていた。