表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/130

希望の子 8

「少尉、君の部隊は解散させる」


 急きょ最悪の人事が少佐の口から告げられた。


 解任だ。降格かもしれない。


 最終的にはそうなるとは思っていたが、まさかこれほどにまであっさりと告知されるとは思わなかった。


 身辺調査や尋問があっても良いものを、自分は釈明も出来ないまま左遷させられるというのか。


 故郷に言い訳が立たなかった。


 エイファは目の奥が熱くなるのを感じた。


「そんな暗い顔をするな。むしろ栄転だと思ってくれ」


 そんなエイファを見て少佐がにやりと笑う。


 エイファは訝しんだ。


「君は知っていたか知らないが、君への僻みの声が結構あがってきていてね。良からぬ噂もそこかしこが出所になっている。だが君があの後に接触したのがファーラン大尉だけで良かった。つまり誰も大怪我をしている君を見ていないということになる」


「大怪我?」


「そうだ、サネス少尉。だいぶ酷い怪我だな。全治三か月といったところか?」


 エイファは合点がいった。


 最初は何を言っているのかわからなかったがつまりはこういうことなのだろう。


 ハースト軍曹を取り逃がしたのはエイファも交戦して重傷を負ったからだと。


 任務失敗の失態は失態として残るがそういう事にしてしまえば周囲の者たちからの批判は緩和されるだろうし、化身装甲使いとしての誇りを失わずに済む。


 エイファは深々と頭を下げた。


「……お気遣いありがとうございます。安静にしている必要があるようです」


 エイファの返答に少佐は満足そうに頷いた。


 噂に違わぬ横暴ぶりだった。


「少尉、陛下は御寛大だ。殺してはいないよ」


 少佐が喋るとエイファの拘束が解かれた。


 エイファはすぐさま呼吸を整え姿勢を正した。


 動けるようになったとはいえ兵長を気に掛ける素振りを見せてはまた不思議な力の餌食になるかもしれない。


 気にはなるが死んでいないならとりあえずは良いとエイファは割り切る事にした。


「話が早くて助かるよ。動ける人員を探していたところだからちょうどよかった」


「動ける人員?」


「そうだよ少尉。君は今から私の独立大隊の一員だ。とりあえず君への尋問は君が退院してからってことになっているから三か月は暇な時間が出来たわけだ。それまでに軍曹の居場所を掴んでもらうよ。いやぁ、君は失態に負い目を感じているだろうから死んでも働いてくれるだろうね。良かった良かった」


「居場所と言いましても……あの様な状況で生きているとは」



「生きている」



 皇帝が断言した。


 はっとして眼を見たエイファは戦慄する。


 そこにいたのは人間の形をした異なる生き物だった。


 その瞳はまるで内側に超大な怪物が潜んでいるような、荒れ狂う潮の下でうねる深淵のような色を湛えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
皇帝って響きだけで、強そう。 敵側にいると特に。 エイファちゃん、色々不器用そうで可愛いですね。 隊員、みんなエイファちゃんより優秀そう。 そんな中で一人で頑張れというのは酷です。 そんな綺麗事…
[良い点] エイファさん少し貧乏くじな感じですね。 仕方なかったと思うのですが、そんなことは通じないでしょうか。なにやら含みも感じます。 [一言]  拝読させて頂きありがとうございます。
[良い点] ヘイデンさんだけは皇帝の前でいつも通りなんですね……きっとこの二人の間に何かあるな( ¯꒳¯ )ウーム そして、皇帝は「生きている」と。断言ってことは、あのマリオネット的な能力の他に…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ