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凌ぎ 6

 ロブは口を結び思案した。


 その表情を葛藤と捉えたかレイトリフはロブの背中を軽く叩き再び椅子に座った。


 今度はブランクを見つめるレイトリフ。


 ブランクは目を泳がせた。


「エインカヴニ、君にも当然協力して貰いたい」


「…………何を」


 ブランクは眉根に皺を寄せる。


 レイトリフが自分を島嶼との橋渡しにしようとしていることは分かった。


 ブランクにはその権利はないもののブロキス帝の野望を止めようとしているという意味では同志である。


 持ち帰るべき話ではあるので聞かないわけにはいかないが、どこまでの話を持ち帰って良いのか分からないブランクは内心で焦っていた。


「まず、君は君の首領に伝えて欲しい。我らが起った時に呼応して欲しいと。当然書簡も用意する」


「……さっき自分たちの力だけでも帝国に負けないって言ってたじゃん」


「援兵を送ってくれるか、物資のみか、それとも静観か、それは君たちの代表が決めてくれればいい。こちらとしては静観を約束してくれるだけでも後顧の憂いが解消されるのだ。そして何よりも呼応を公言してくれることに意味がある。侵攻されている君たちが我らを支持すれば国際世論も味方につけることが出来るのだ」


「国際世論?」


「うむ。今、列強諸国がゴドリック帝国のウェードミット諸島侵攻を静観しているのにはいくつかの理由が挙げられる。彼らもまた植民地政策の真っただ中で介入しても利点がないこと、ゴドリック帝国が大国ラーヴァリエ信教国の力を削ぐ手頃な存在であること、そして侵攻の経緯がどっちもどっちである事が主な理由であろう」


「どっちもどっちって! 元はと言えば帝国が勝手に島嶼国家の主権を認めないって言い出したんだぜ?」


「だから非は帝国にあると? それは違うぞエインカヴニ。元々の話をするならば島嶼の蝙蝠外交が仇を成したに過ぎん」


「なんだと!?」


「落ち着け。セイドラント候の肩を持つわけではないが、島嶼国家の主権を承認したのは三代目ジョデル帝だ。そしてその承認はある条件付きだった。その条件は知っているかね?」


「帝国旗の併用だろ」


「うむ。つまりは帝国の傘下に入れば主権を承認すると、そういうことだな」


「それが何だってんだ?」


「三代目ジョデル帝が即位したのは十年ほど前だ。言い換えれば帝国が島嶼の主権を条件付きで承認したのはたった十年ほど前ということになる。気づかんかね? 長い歴史の中で、それまではどうしていた?」


「……それは」


「君はその時まだ子供だったから実感は湧かないだろう。だが話には聞いているはずだ。帝国で二代目ナイアス帝が病没した時、ナイアス帝は後継を定めていなかった。その時に生じた派閥争いで帝国は内乱となった。それを侵攻の好機と見たラーヴァリエはゴドリックに宣戦布告をした。その際に島嶼はラーヴァリエに無条件で臣従し、侵攻の足掛かりを作った」


「知ってるよ。俺は……もともとはアルマーナ人だったから、アルマーナはずっと中立だから被害には会わなかったけど、他の島嶼から来た奴らはみんなそのせいでラーヴァリエに酷い目にあったって言ってた」


「そうだな。信教国の圧政は想像を超えていた。不平等条約、改宗の強要、従わない者への迫害……。ジョデル帝が一年で内乱を平定し皇帝に即位した時、島嶼諸国がしたことは帝国への救援要請だった。ジョデル帝はその要請を聞き入れ島嶼からイムリントまでラーヴァリエを後退せしめた。その時ジョデル帝は島嶼の主権を承認し、再び島嶼を国家として扱った。裏切りとも言えるラーヴァリエへの臣従があったにも関わらずだ。条件はさっきも言ったとおり帝国旗の自国旗との併用、言うなれば帝国傘下に入ることの示唆だな。ただしそれ以上のことはジョデル帝は求めなかった。理由は色々だがね」


「ちょっと待てよ。その後また島嶼の一部がまた離反したから、それを蝙蝠外交って言ってるのか? でもその離反した国の筆頭はセイドラントじゃないか!」


 ブランクのいう事は正しかった。


 帝国の傘下に入り再び安定したかと思われた島嶼は、三年前突如セイドラントの離反によって再び混乱に見舞われる。


 そして先代を廃しラーヴァリエから姫を娶った新セイドラント王こそブロキス帝であった。


「島嶼が帝国を裏切らざるを得ない状況を作った本人なんだぜ、ブロキスは! それなのにゴドリック帝に即位したら今度は島嶼の主権を認めないって言うんだ。どっちが蝙蝠だよ!」


「帝国が島嶼と交わした条約を破棄することは正しい選択とは言わない、が、破棄を宣言することは出来る。それは国家としての権利であるし、そこに皇帝になった男の今までの所業などは関係ない。そもそも君たちは本来ならば声明を出して糾弾すべきだった。にも関わらず即座に断交を宣言してしまった。国家の舵取りを感情で決めてしまったのは島嶼諸国だ。これは正しい選択とは言えなかった。中にはラーヴァリエと国交を回復させ陣営を変えた国もあっただろう。そしてイムリント撤退戦においては明白に敵対行動を取った。はっきり言えばその行為が今の戦争状態を招いた原因であり、総合的に見れば侵攻の正当性は帝国にある」


「わからねぇ。だからそれがブロキスだっつってるだろ。結局ある意味自作自演じゃんか」


「そこに謎がある。だが話は一つずつ片付けていこう。帝国と信教国、二つの勢力に挟まれたウェードミットは島嶼という地理的要因から大国と渡り合えるだけの力を持つことが出来なかった。だからその場その場で立場を変えねば存続出来なかったという苦しさも理解できる。でも今回は声明をきちんと出して欲しい。島嶼国家が一丸とならねばいつまでも帝国と信教国にいいように扱われるだけだ」


「それは……難しいなぁ。一丸となるったって、それを大転進記念祭までにだろ? 小国の集まりなわけだし。仲が良かったらとっくに纏まってるよ。不可能だね」


「ジウが筆頭となっても、かね?」


 レイトリフの問いにブランクが言葉を詰まらせた。

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