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ジウにて 6

 秘密の浜辺に着いたブランクとロブは夜を待つために浜辺へと上がっていた。


 ロブの登場の仕方が予想とは違っていたのでなんとも言えない空気になり、そこからぎくしゃくしっぱなしであった。


 もちろん、開けた箱の中に膝を抱えて座るロブがいて目と目が合ったらそれこそもっと気まずかったかもしれない。


 だからロブがザッカレアの用心棒に扮してくれていたのは良かったのかもしれなかった。


 ちなみにロブが入っているとばかり思っていた箱の中には普通に食料などが入っていた。


 どうやらウィリー・ザッカレアの餞別らしかった。


 ずいぶんと気前が良いが、商売人の気前の良さはある意味恐ろしい。


 大きな見返りである武器の購入がきっと近いに違いないと踏んでいるからだからだ。


 ロブとブランクは手分けして周囲を警戒した。


 どうやら追っ手が来ている気配はなかった。


 昼ごろまでは何とか索敵で過ごせたが、知らない男同士で時間を潰すという状況はかなり苦痛であった。


 岩場の影で日を避け、二人はザッカレアの餞別を食べることにした。


 ブランクはロブを観察してみた。


 目隠しはずっと取らない。


 聞けば斬られてすごい傷があるのだという。


 しかし普通に歩いていることから恐らく目の下か上を斬られたのだろう。


 意外と布越しに透けて見えるものなのかもしれなかった。


 見れば腕も怪我している。


 その他にも全身が大なり小なり傷に覆われていた。


 無精ひげを生やし無表情で麦餅をかじる様子は浮浪者にしか見えなかった。


 これが本当に最強の男なのかとブランクは疑問に思った。


 たしかに体つきは良いが、腕力なら到底自分の方が上だろう。


 何を以てして最強なのだろうか?


 ブランクは湧きおこる興味が抑えられなくなった。


「さてと、夜まで暇だな」


「そうだな」


「ちょっと腹ごなしにさ、手合せしてみないか?」


「断る」


 食事が終わり、ブランクは手合せを打診してみた。


 ロブは間髪入れずに拒否した。


「断るなよ。あんた最強の男なんだろ? だったら戦ってみたいと思うのが男じゃんかよ」


「…………」


 尚も食い下がるブランク。


 ロブは溜息をついて立ち上がった。


「へへっそうこなくっちゃな。ちなみにあんたの得意武器はなんだ?」


「槍だ」


「槍? 近代国家の兵隊さんがずいぶん原始的なもん使うんだな。まぁ俺たちはよく使うけど……」


「だが槍はない。素手でいい」


「馬鹿いうなって。格闘は俺の得意分野だぜ? ちょっと待ってろよ」


 そういうとブランクは船に走って戻り櫂を持ってきた。


「これでどうだ?」


「ああ、調度良い太さだな」


 振り回してみてしっくりきたのかロブは構えた。


「いいぞ、来い」


「それじゃあ最強の男さん、ご教示、お願いしますよっとぉ!」


 ブランクの筋肉が締まり全身に筋が浮き上がった。


 足元の砂が爆ぜ、ブランクは一瞬でロブとの間合いを詰めた。


 しかしロブは想定済みだったようでブランクの腹突きを難なく交わすと逆に櫂の柄先をブランクの顎に付けてみせた。


 頭の中では一瞬で膝を付き沈み込むロブを想定していたブランクはいつの間にか自分が攻撃されていることに驚き飛び退いた。


「攻撃は最大の防御とはいうが長得物の間合いに入ったからと言って安心するな。これが槍ならお前の顎は石突で破壊されているだろう。そして」


 飛びのいたブランクが着地するか否かの所で腹に軽く櫂先が当てられる。


「不用意に離れるな。槍の刺突は後退の速度より遥かに早い」


 倒れ込む体制から足で砂を巻き上げたブランクは負傷しているロブの利き手側から回り込み再び攻撃に転じた。


 だが間合いに入っているはずなのに繰り出す拳は全て後退するロブに届かず空を切るばかりだった。


「当然だが拳は攻撃範囲が狭い。そして当たらないからと言ってむきになって拳ばかりを出していると文字通り足元を掬われるぞ。足を使え」


 それどころか急に前に出たロブにひるんで一瞬だけ止まってしまった隙を突かれる。


 足をかけられ仰向けに転ぶブランクの喉元に櫂先が軽く置かれた。


「三回死んだな。砂を使ったのは良かったが、お前の動きは正直すぎる」


 ロブの冷静な物言いにブランクは怒った。


「ふっざけんなよ! 喋ってばっかでさ! おちょくってんのか!」


「教示しろと言ったのはお前だ」


 言ったかもしれないがそれは言葉のあやでブランクは正直覚えていなかった。


「なんなんだよ! 喧嘩が俺が一番強い……んだぞ! 船乗りとしてだってノーラの次に優秀なんだ! モテるし!」


「喧嘩と戦闘は違う」


「うるさい!」


 癇癪を起して櫂を振り払い、蹴りを繰り出してロブから離れるブランク。


 離れたと思ったら常人離れした反復で再びロブに殴り掛かってきた。


「馬鹿にしてないでちょっとは本気出せ!」


「分かった」


 ブランクの鋭い正拳突きを交わしつつロブは軽く櫂を振った。


 ぱぁんと大きな音が響く。


 櫂先の平らな部分がブランクの顔面を直撃した。


 ブランクは脳震盪を起こし盛大に鼻血を吹いて倒れるのだった。




 気が付くとブランクは手当され日陰の部分に寝させられていた。


 近くにはロブが座っている。


 ロブはブランクが起きた事に気が付くと優しく水を差し出してきた。


「気が付いたか。夜までまだ長い。もう少し寝ているといい」


 ブランクは居住まいを正してロブに非礼を詫びた。

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