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ジウにて

 エキトワ領カヌークの漁村で朝の買いつけが行われていた。


 買いつけとはその日に早朝に水揚げされた魚の朝市である。


 ただし通常の市場のように店舗は設けない。


 船から直接魚を受け取る方式が買いつけと呼ばれていた。


 漁村の人々は魚を多く消費する。


 故に買いつけるのも箱単位だ。


 大手の客は村の食堂と方面軍である。


 特に方面軍の購入する魚の量は規模が違うので最大の得意先となっていた。


 他には時々アルバレル修道院の下男や炭焼きの山男、遠方の業者なども買いに来る。


 遠方の業者は流石に生のまま持ってはいけないので、干物や塩漬けといった加工品を買っていた。


 桟橋は今朝も大賑わいだ。


 その中で声援を浴びる男がいた。


 浅黒い肌に鋭い目、無駄が完全にそぎ落とされたかのようなしなやかな肢体を持つ男だった。


 名をブランク・エインカヴニといった。


 ブランクは荷揚げを行っていた。


 船頭と客が声と指とで手早く競りを行った後、落札した客が引いてきた荷車へ船から魚箱を運ぶのが荷揚げの仕事だ。


 ブランクの荷揚げはささやかではあるが買いつけ時の催しになっていた。


 脅威の怪力の持ち主であるブランクが魚箱を背負う様が人々の余興になっていたのだ。


「よいしゃ、今日の一番買いつけはファーラン中隊様だ! すげえ数だぜ、これを運べる奴はいるか?」


 船主の言葉に周りの漁師が返事する。


「いないね!」


「俺も無理だ!」


「残念、小分けにして運ばなきゃだ」


「時間かかっちまう!」


 集まった客たちも余興を見ようと大騒ぎだ。


「大丈夫さ。何故なら俺たちにはこいつがいる……ブランクがいる!」


 大仰に紹介されたブランクは準備運動をしつつ拳と拳を合わせ咆哮した。


「しゃあーーーーっ!」


 ブランクの前に用意されているのは大きすぎる魚箱だ。


 それは本来は水揚げされた魚をまとめて放り込んでおく生簀であり、中には魚が大量に入っている。


 普通なら大男四人がかりでも持ち上がらないだろう。


 しかし括られた荒縄を掴んだブランクは持ち手と腰の位置を体を小刻みに揺らして確かめた後、かっと目を見開いて全身に力を込めた。


 ブランクの全身に筋が浮き出る。


 そして魚箱が浮き上がった。


 客からどよめきと嘆息が漏れる。


「昨日よりも普通の二箱分多いのに、やっぱり持ち上げやがったぜこの男は!」


 完全に担ぎ上げ歩き出すブランクに大きな歓声があがった。


 ブランクはアナイの戦士ラグ・レの同志だ。


 海獣使いノーラからの密書を得て、数日前にテルシェデントからカヌークへ移動していた。


 テルシェデントは今、厳戒態勢が敷かれている。


 それに比べてカヌークは平和だ。


 ノーラとブランクは今回の極秘任務を果たす以前よりテルシェデントの漁師を騙りカヌークの漁民に接近していた。


 余談ではあるがテルシェデントではカヌークの漁師だと騙っていた。


 漁師は町の所属の線引きなく手伝える者が手伝うのが海の掟だ。


 そのため漁師であれば皆が仲間であるかのような特殊な意識があり、漁師としての腕前が十分であればある意味どこでも潜り込むことが出来るので間者活動に最適な職業であった。


 ノーラは任務を果たしたラグ・レを連れて一足早く撤退している。


 しかしブランクは未だにゴドリックにいる。


 それはラグ・レの希望を叶えるためだ。


 ラグ・レはゴドリックの反逆者ロブ・ハーストを連れ出してほしいとノーラに懇願していた。


 ノーラは密書の中でその件に触れつつも、ロブ・ハーストには接触せずに暫くしたら戻ってこいと書いていた。


 ロブ・ハーストを連れ帰ったことが帝国に露呈すれば敵対が明白になってしまう。


 そうなれば今まであやふやにしていた国家間の関係が壊れてしまう。


 当然帝国は引き渡し要求をしてくるだろう。


 そこで引き渡せば誇りを失うし、拒否すれば敵に戦争の大義名分を与えてしまうのだという。


 暫くブランクが留まりロブ・ハーストを待っていたふりをすればラグ・レにも言い訳がたつ、とノーラはブランクに頼んでいた。


 だからブランクはカヌークに留まっていた。


 方面軍の荷車に魚箱を降ろすと車輪が大きくきしむ音が聞こえた。


 人々からは賞賛の声が浴びせられる。


 ファーラン隊の買い付け担当者も大喜びだ。


 健闘を讃えられてブランクも笑顔を見せつつちらり横目で遠くを伺った。


 少し離れた所ではカヌークの治安維持隊が今日も暇そうにしている。


 いくら管轄が違うといっても両都市を知るブランクからすればカヌークはあまりにも警備が杜撰過ぎた。


 このままでいて欲しいとブランクは切に願っていた。


 このままであれば、ロブ・ハーストを連れ帰る際に余計な戦闘をしなくて済むだろうから。


 ブランクはノーラよりもラグ・レとの約束を優先していた。


 何故なら顔も知らぬロブ・ハーストの男気に感動していたからである。


 大事な義の為に国家を捨てた最強の男。


 その説明だけでブランクはいつまでもロブ・ハーストからの接触を待てるのだった。


 国家のやり取りとかはよく知らない。


 いくら説明されようがロブ・ハーストを連れ帰ることの危険性とかはよく分からない。


 怪力のブランクは義侠心に弱かった。


 そしておまけに頭も弱かった。

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