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希望の子 6

 一同は皇帝の間に進んだ。


 巨大な石柱に支えられた天井は高く、若干暗いのは無数の室内灯が蝋燭の明かりだからだろう。


 数段高くなった王座は権威の集大成ともいえる技巧が凝らされている。


 そこに皇帝が深く腰を下ろしていた。


 皇帝を見た瞬間、エイファの全身に悪寒が走った。


「陛下、ただいま到着いたしました。エイファ・サネス少尉、以下一名です」


 ヘイデン少佐が双方の中間に立つ。


 エイファとピーク兵長は片膝をつき頭を垂れた。


 その様子をブロキス皇帝──ゴドリック帝国を乗っ取りたった半年で周辺国から悪魔の国と呼ばせるに至らしめた男が見降ろしていた。


 エイファは床を見つめながら顎に冷や汗が流れるのを感じていた。

 

 皇帝が魔王、暴君などと揶揄されるのが一目見ただけでよく分かった。


 皇帝の外見は明らかに異様である。


 肌は青みがかった灰色をしており、顔全体を覆った吹き出物が赤く腫れていた。


 目は隈で落ち込み眉間には深い皺が刻まれていた。


 頬も今まで笑ったことがないのかと思える程に筋肉が衰え垂れ下がり遠目からは酷く年配のように見える。


 しかし、どうすればここまで老け込むことが出来るのだろうかというくらいに生気のない顔の中心で瞳のみが歪な輝きを煌めかせていた。


「顔を上げろ」


 しわがれた声が響く。


 皇帝の御言葉であると理解は出来たがエイファは再びあの恐ろしい顔を直視したくなかった。


「私の顔が見れんか?」


 最初の言葉よりも低い声がかけられる。


 エイファは慌てて顔を上げた。


 いきなりとんでもない失態を犯したものだ。


 皇帝の機嫌を損ねたらどうなるか分かったものではない。 


「滅相もございません。ただ、見た事のない顔色をなさっておいででしたので拝顔に勇気を出す時間を要しました」


 エイファは素直に答え、後ろに控えた兵長から息を飲む気配がした。


 ヘイデン少佐も眉を挙げてエイファを凝視した。


 エイファ自身も言ってしまってから無礼だとは思ったが皇帝に方便は通用しないと助言したのはヘイデン少佐だ。


 エイファはそれを愚直に守ったにすぎない。


 後ろから小声で咎めるように少尉、少尉と繰り返すピーク兵長の声が聞こえるが怒られる筋合いはない。


 皇帝は特に反応を示さず、表情も変えずにエイファを見下ろしていた。


 とりあえずは機嫌を損ねさせずに済んだようだ。


「以後無礼な発言は控えるように」


 呆気に取られていたのかヘイデン少佐もようやく咳払いをしてエイファを嗜めた。


 なんとなくだが、エイファはどうやら状況に慣れてきているようであった。


 ヘイデン少佐はある意味でエイファに感心していた。


 皇帝に初めて謁見してここまで早く順応した者は初めて見たからだ。


「……本題に入るぞ。少尉、君が呼ばれた理由は分かっているか?」


「は、はっ。理由……それは私の失態の処断であると心得ております」


 エイファがすぐさま答えるもヘイデン少佐は首を振る。


「少尉、処断だったらわざわざ君を帝都まで召集する必要はないだろう。私は何故、陛下が、君を呼んだのか分かっているのかと聞いているんだよ」


 エイファは考えた。


「呼ばれた理由は……その、皇帝自ら処断なさるのかと思っておりましたので、それ以外の答えは思いつきません」


「くだらんな」


 エイファの台詞は皇帝自身が一蹴した。


「陛下。少尉は混乱しているようです。時系列を整理いたしましょうか」


 口を挟んできた少佐を一瞥し、皇帝は頷いた。


「では僭越ながら。……二日前、サネス少尉率いる小隊のハースト軍曹が帝都より重要機密を盗み出し逃亡。ハースト軍曹配下の分隊は拘束され、サネス少尉らの分隊も一時謹慎となる。そして昨日、厳戒態勢のなかハイラント陣営付近の漁村カヌークで漁師相手に船の提供を交渉していたハースト軍曹を警邏中の治安維持隊が発見。追討任務にサネス分隊も加わりこれを追う。嵐で一時見失うもサネス分隊が軍曹を再度発見し追い詰める……が交戦の末、特別に連れてきたハースト分隊のサネス一等甲兵の乗る化身装甲が破壊され、同一等兵も重傷を負う。そしてハースト軍曹も重傷を負うが崖から転落、行方不明となり重要機密の奪還も不能となる……以上です」


 聞けば聞くほど惨めな結果だ。


 エイファは自分がこれ以上ないくらいに小さくなるのを感じた。


「サネス少尉、何か言うことがあるだろう?」


「あ、ありません……私の不徳の致すところです」


 エイファはそう答えるのがやっとだった。


 すると後ろでピーク兵長が立ち上がった。


「ご無礼いたします! は、発言をお許しください! 私に少尉の潔白を証明さ……さ……」


 声高に叫んだ兵長が急に言葉を紡げなくなる。


 ただならぬ様子に振り返ったエイファは異常を目の当たりにした。


 ピーク兵長が首を抑えながら悶えていた。


 足は完全に力が入っていないのにまるで透明な縄で首を吊られているかのように起立を余儀なくされている。


 いや、首つりというよりは誰かに首を絞められているようだ。


 エイファは素早く皇帝を見た。


 皇帝は右手を全面に出しピーク兵長を見つめていた。


 明らかに皇帝が兵長に何かをしていた。


 しかしどうやっているのかがさっぱり分からない。


 話には聞いていたが実際に見るのは初めてだった。


 皇帝が不思議な力を使うという噂は本当だったのだ。

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― 新着の感想 ―
やる気に満ちた一等兵はサネスくんでしたか。 ディミタール・サネス! 今後の彼の活躍に期待したいです。 (生きていれば) 皇帝もヤバそうだし、九綱先生はヤバめの殿方がお好みとお見受けいたしました。 …
[良い点]  得体の知れない恐怖により忠誠を求めるのも一つのやり方だと思いますが、それではハースト軍曹と同様に離反者がでるかと思います。アメと鞭なら……アメに当たるものは何になるのでしょう。素直に従っ…
[一言] おお? 皇帝が魔王?? 意外な展開です。 やはり巧みですね〜! 不思議な力。 それも気になりますな〜。 やはり皇帝ともなればカリスマ性ありますね!
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