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SKYED7 -リオン編- 上  作者: 九綱 玖須人
交錯の果てに
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交錯の果てに 8

 エイファたちとエリス・ウリック特務曹長が合流して更に二日後。


 帝都ゾアのエセンドラ城では密議が行われようとしていた。


 卓議の間と呼ばれる部屋は謁見の間の隣にあり、重鎮たちが重要な決定を行う際に召集される場所である。


 必要以上に広い空間は隣室で心無い者が聞き耳を立てても詮無き事だと知らしめる意味もあった。


 そこの末席に老人が座っていた。


 痩せぎすではあるが品のある顔立ちで、豊かな白髭を蓄えた老人だった。


 しかしその瞳は少年のように輝いている。


 彼は帝国技術部技術課長、トルゴ・アシンダル中将であった。


 アシンダルは調書を読んでいた。


 事前に渡されたテロートの官憲及び諜報部の調査報告書である。


 そこには成程、自分だけが召集される意味がよく分かった。


 事務的に淡々と書かれたその報告書の最後にはエリス・ウリックの署名が成されていた。


 奥の扉が開き、アシンダルは顔を上げた。


 現れたのは醜悪な容貌をした男だった。


 濡れた鴉の羽のような黒髪に紫色の顔、その皺だらけの顔中には吹き出物が膨れ上がり赤黒く腫れている。


 一見して老人にしか見えないその男は皇帝だ。


 ザニエ・ブロキス、ゴドリック帝国第四代皇帝だった。


 皇帝は普段の仰々しい華美な服装ではなく至って軽装をしていた。


 王冠も戴いていない。


 対して軍服の礼装を纏ったアシンダルは立ち上がり最敬礼で迎え入れる。


 ブロキス帝はアシンダルを一瞥すると軽く手を揚げた。


 皇帝の後ろからは若干遅れて中年太りの男が入ってきた。


 冴えない男である。


 髪も額から頭頂部にかけての砂漠化が深刻だ。


 皇帝が上座に座ると男はアシンダルと皇帝の調度中間の位置に当たる椅子に座る。


 皇帝が座ったことを確認してからアシンダルもようやく腰を下ろした。


「中将閣下、御足労恐れ入ります」


 冴えない男が労をねぎらうとアシンダルは恭しく頭を垂れた。


「さて、報告書を読んで頂いたばかりで恐縮なのですが中将の御意見をお聞かせ願えますか?」


「なんなりと。陛下の御前は神前に等しく」


 男が顔を向けるとブロキス帝も男を見て頷いた。


「では議題は二つです。内容は調書に沿います。一つはロブ・ハースト軍曹が纏ったとされる黒い稲妻について。もう一つはテロートの官憲のアルバス・クランツ巡査が使用したと思わしき兵器についてです」


「うん、じゃあまずは黒い稲妻についてだね。実際に見たわけじゃないから何とも言えないけど、これは直近でニファ・サネス一等兵の操縦する化身装甲にも同様の事象が起きているよね。単刀直入に言うとこれは未知数。僕も分からない。一等兵の事象だけだったら化身装甲に由来するものだと仮定していたかもしれない。事実、化身装甲は暴走すると帯電してまるで稲妻を纏ったような状態になるから。でも黒色の稲妻なんて今までに事例がなかった。装甲が黒い稲妻を帯びたのは前例がなくあの件だけ。そして今回は生身の人間である軍曹から発生した……でいいんだよね? ありえないよ。わからない。いずれにせよ検体が少なすぎて憶測ですら何も言えないのが現状だよ」


「中将殿でも分かりませんか」


「ニファ君、衛生部に取られちゃったもん。検証も出来ないよ。陛下の御意志だから仕方がないけどさ」


「サネス一等兵は重傷であり実験に耐えられるだけの体力はもうありませんでした。まずは最先端の治療を施して早期回復を図るべし、というのが陛下の御意志です」


「分かってるけどさ、イクリオの人がうちに常駐するとか、逆に僕らがイクリオに行くとかじゃ駄目なの?」


「駄目です」


「じゃあやっぱり何も言えないよ」


「申し訳ありません。では、アルバス・クランツの件はどうでしょう」


「どうもこうも、君の部下の調査書の通りでしょ。マノラの家は爆発の衝撃を受けたような被害だったのに火薬を使用した痕跡が見当たらない。ね、こんなことが出来るのは攻城兵器か化身装甲か装甲義肢くらいなもんさ。そしてクランツ巡査が口走ったとされる装甲義肢のこと。これは間違いなくマノラで装甲義肢が使われたとみて良いだろうね」


「そこが問題です」


「うん、それが僕が呼ばれた理由だよね。誰かが装甲義肢を公安に横流ししたかもしれないってことだよね?」


「…………」


「そしてその人物は僕であると?」


 アシンダルの双眸が光った。

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