交錯の果てに 7
意味がよく理解できなかった。
セロやバルトスが自分の心配をしてくれたことは分かる。
しかしこの話の流れで何故自分の身の心配に繋がるのだろう。
思案し何とも言えない表情で固まるエイファにセロが囁いた。
「ねえエイファ、第三者からすると事件の一連の流れはどう見えるかな」
「どうって?」
「軍曹はエイファの部下。一等兵はエイファの妹。軍曹を発見したのは別の部隊。でも軍曹を追いかけたのはエイファたち。そして取り逃がしたのもエイファたち。それなのに君たち姉妹はほとんど御咎めなしだよね。あったのは所属の異動のみ。一方で軍曹が流れ着いた先の官憲たちも軍曹を取り逃がした。報告も遅かった。そしてその官憲は何故か機密を知っているし、一人は軍曹の元上官だ。これがどういうことだか分かる?」
エイファは唇を噛んだ。
これだけ丁寧に説明されれば否が応にも答えは導き出されるというものだ。
ただし理解は出来ても納得出来るものではない。
それでも問われた以上は答えなければ時間の無駄であり、エイファは不本意ながら言葉を紡ぐ。
「……私も疑われている?」
セロが遠慮がちに頷いた。
「そういうこと。だからバルトスは長居は危険だと判断した。というか、君と彼らの接触は避けるべきだった。もう手遅れだけど」
「私、軍曹に加担なんかしてないわ!」
「証明できねぇだろ」
エイファの反発にバルトスが間髪いれず抑え込む。
確かにその通りだ。
だが疑われているとして、やってもいない共謀についてどうして潔白が証明出来るというのだろう。
黙ってしまったエイファが可哀想になったのかセロは更に優しい声を出した。
「まあ、ね。誰かの脚本って考えるには出来過ぎてる。だから最初は偶然が重なっただけだったのかもしれない。でも途中から筋書きを書き足した誰かがいる。エイファはそいつに利用されたんだ。だから一旦少佐の所に帰ろう。余計な動きは自分の首を絞めることになると思う」
「疑っているからこその異動だったのかもな。諜報部も軍曹とかお前の妹とか、軍曹に機密を盗ませた得体の知れない組織を相手にするには情報がなさすぎた。だからお前を懐に引き寄せて泳がせた。万が一に備えて一応の化身甲兵であるお前に対する抑止力として俺やセロを付けてさ。あとあのメガネデブ。あいつは首輪だな」
「そんな……」
「安心してよ。俺もバルトスもエイファがそんな悪い奴だとは思ってないから。ね、バルトス」
「まぁこいつにそんな頭なさそうだしな」
「素直じゃない、バルトス」
「信じてくれてるんだ。……ありがとう」
まだ短い付き合いであるのにそれぞれの言動で身を案じてくれる二人にエイファは心から礼を言った。
セロはエイファの微笑みに照れくさそうに微笑み返し、バルトスは「うっせ、ばーか」と悪態をついてみせた。
「さあ、立ち話も危険だからもう行こう。ちょうど馬車もいるし」
セロが視線を送った先の庁舎前の大通りには馬車が停車していた。
エイファは頷いた。
宿に戻りエリスと合流しなければならない。
一同は馬車の御者に乗る意志を伝える合図をして馬車の扉を開けた。
「ま、あのハゲデブが何考えてるか知らねぇけど尻尾きりとか生贄の羊とか、そんな糞みてぇな展開にはさせねぇよ。お前は一応仲間だからな」
「仲間想い、バルトス」
「問題はあのメガネデブだな。おいエイファ。お前、合流したら暫く喋るなよ。ばばあと何を連携するかは俺とセロで判断する」
「あ……バルトス」
「なんだよ?」
「ばばあって私のことですか?」
馬車内には先客がいた。
思わず固まったバルトスがその後ゆっくり車内に向き直ると中にはエリス・ウリック特務曹長が座っているのが見えた。
口元にはうっすらと笑みが湛えられているが目は笑っていない。
笑っていないどころか下瞼が痙攣していることからかなり気分を害していることが伺えた。
暴言を吐いた当事者でもないのにエイファは胃が急速に縮まるのを感じた。
「メガネデブとは、私のことですか?」
「……チガイマス」
再度ゆっくりと訊ねるエリスの顔をバルトスは直視しない。
あらぬ方を向いたまま抑揚のない声で否定するのが関の山だった。