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SKYED7 -リオン編- 上  作者: 九綱 玖須人
交錯の果てに
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交錯の果てに

 テロートに到着し東の海岸から調査を行っていたエイファ・サネスたちヘイデン独立大隊の特殊任務隊がマノラの漁村にロブ・ハーストがいたという報告を受けたのはロブ・ハーストが村を後にした二日も経った後のことだった。


 エイファが同隊のバルトス・ジメイネスとセロ・ディライジャを連れ急行したのはまずはテロートの官憲庁舎だった。


 通された庁舎の医務室にはマノラに出動した官憲隊の髭の隊長と大柄な男がいた。


 男はロブ・ハーストと交戦し骨折等の重傷を負っていた。


 エイファは怒っていた。


 テロートの官憲が帝都へ報告をしたのはロブ・ハーストの逃走から一日が経ってからだ。


 しかもその報告先が直接帝都ではなくエキトワ方面軍を経由しており、諜報部がそちらに網を張っていたから少しだけ早くエイファ達が知ることが出来たのだ。


 つまり、諜報部のエリス・ウリックが火急の知らせを送って来なければもっと対処が遅くなっていたということである。


 それでエイファは怒っていた。


 睨みつけるエイファの視線もどこ吹く風に、髭の隊長はマノラでの攻防を語って聞かせた。


 ロブ・ハーストが実は失明していなかった事、纏った黒い稲妻、異様な怪力……。


 気になる点は多々あったがそれは報告書にも書かれていたことだ。


 この点はエイファたちが考えても答えなど出せるはずもないことなので、ヘイデン少佐たちに考察を任せるべきことだった。


 既に事が終わってしまったのに此処に来たのは情報を補完するためだ。


 何度も同じような武勇伝と言い訳を聞く為ではなかった。


「報告書は読みましたから、同じことを何度も報告しなくて結構です。あと、重要度の高そうなものから順に、もう少し完結にまとめて頂きたいです」


 感情を押し殺したエイファの指摘に髭の隊長は心外だと肩をすくめた。


 この男は帝都から特殊部隊が来ると聞いて直前まで冷や汗を流していたが、到着したのが若者三人と知って大いに安心しきっていた。


「報告書というものはですね、しっかりと時系列に沿って纏めることが大事なんですよ」


「状況によります。いいですか、貴方たちは指名手配の大罪人を取り逃がしたあげく、その報告も後回しにしました。これは重大な問題です」


「後回しにはしていませんよ。そもそも最新鋭の兵器を投入しても生身の人間を捕えられなかったという失態が最初だと思うのですがね。それは問題ではないんでしょうか」


「…………!」


「そういえばそんな大罪人を野放しにしていた部隊長に対する処断も未だ耳に入ってきておりませんな。いやはや、当方は貴族の避暑地とはいえ辺鄙な町ですからね。情報が遅くなるのも致し方ないと思いませんか?」


 髭の嫌味は正論だった。


 エイファの失態はすでに広く知れ渡っており、傍から見ればそれに対する処遇は甘いと思えるだろう。


 エイファ自身もそれを痛感しているので返す言葉がない。


 自分は本来は何も言えない立場なのだ。


 追討の任務に抜擢されたのはそれ自体が罰なのだとエイファは思っていた。


 行く先々で嘲笑や侮蔑の目に晒されるからだ。


 化身装甲の扱いにおいて天賦の才を持つ妹のニファが、唯一エイファの言う事しか聞かないことがエイファを謹慎や降格の処分に出来なかった理由なのだろう。


 だから上はこのような無駄な任務を与えて皆の溜飲を下げさせているのだ。


 本当に無駄な任務である。


 事実、軍はロブ・ハーストが次に何処を目指すのかは既に目星をつけていた。


 彼は国外逃亡を図っていたのだから当然また東海岸の都市のいずれかに現れるはずだ。


 髭の隊長もそれが分かっていたからエキトワ方面軍に先に通達したのだろう。


 よってカヌーク、およびバエシュ領テルシェデント、リンドナル領北部トレルウォには警戒指示が通達済みとなっていた。


 更に陸軍はアルテレナ軍道の終着地にも派兵をしたらしい。


 アルテレナ軍道とはランテヴィア大陸の東部がまだ帝国傘下ではなかった時代に舗装された軍事国道であり、敵の目に触れないよう山間部を縫うようにして建設された道路の事だ。


 帝都からテロートへ伸びている道の途中でひっそりと繋がっている秘密の道がそれである。


 今はもう平原を通る立派な国道が伸びているため使用する利点がなく朽ちたままになっている。


 そのため道中の隧道には地下水が溜まってしまっていたり、野犬や大蜘蛛が住みついていたりと危険しかない場所となっていた。


 確かにそこは犯罪者が隠れて長距離を移動するには都合の良い場所と言えるだろう。


 ロブ・ハーストが利用すると考えないほうが不自然だといえた。


 しかし。


「……話を戻しましょう。報告ではロブ・ハーストの目が見えていたということなのですが、本当に見えていたのですか?」


 軍道が利用できるという事は目が見えているという大前提があって初めて成り立つのだ。


 彼が負傷した瞬間を見ていた者としては何度他者から報告を受けようと信じがたい事だった。


 エイファの再三の確認に髭の隊長はおどけた調子を見せた。


「何度も同じ報告は受けたくないのでは?」


「…………」


 気まずい沈黙が流れる。


 いや、気まずいと思っているのはエイファだけで、相手の髭は明らかに楽しんでいた。


 後ろでバルトスが小さく「ばーか」と呟いた。


 誰に対して言っているのかは分からなかった。


「まあまあ隊長さんよ、あんまり虐めないでやりましょうや! まだ将来ある若者よ? 色んな失敗や成功を得て、人ってのは大きくなるもんさ!」


 嫌味に業を煮やした大男が間に割って入った。


「ええと、サネス少尉殿だったっけ。許してやってくれや。軍人いびれるからって、嬉しくて仕方がないのよこの人は」


「ク、クランツ、控えたまえ。私はそんなつもりは……」


「かくいう俺も元軍人でさあ。ハースト軍曹はおともだち兼元部下なんよ。ね、あいつやばいでしょ? 問題子ちゃんな部下を持った上司繋がりで、俺はあんたに親しみを感じてるぜ!」


「貴方は?」


「アルバス・クランツって言いまぁす」


「酔いどれクランツ?」


 後ろで大人しくしていたセロが反応する。


 エイファにも耳に覚えのあるあだ名だった。


 それは軍令を無視しまくった伝説の狂戦士のあだ名である。


 酔いどれクランツの名は最強の男ロブ・ハーストの異名と同等に有名だ。


 まさかこんな田舎で官憲をやっているとは思わなかった。


 目を丸くする三人を前にクランツは歯を見せて大きく笑った。 

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― 新着の感想 ―
クランツはてっきり亡くなったものとばかり。 41話目になるのに一話目から登場しているニファちゃんがいまだに喋っていないなんて。 ところでニファちゃんは、ロブの言うことは聞くんですかね。 お姉ちゃん…
[一言] クランツ結構好きかもしれない
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